#10は1781年、#13は1783年の作品である。1781年25歳のモーツアルトはザルツブルクからウィーンに移り、教会や王侯のお抱え作曲家からフリーの作曲家として演奏会、オペラ、レッスン料で生活の糧を得るという自由の身となる。翌年にはコンスタンツと結婚。もっとも充実していた頃の作品である。1785年の弦楽四重奏曲集「ハイドンセット」、1786年ふたつのオペラ「フィガロの結婚」「ドン・ジョバンニ」、1788年には「交響曲#39、#40、#41」(3大交響曲)を作っている。
しかし次第に人気に陰りが出、収入が減り、借金生活を続けるようになる。しかし最晩年の1790年、そして死の年1791年は数々の名曲が生み出される。ピアノ協奏曲#26(戴冠式)、同#27、オペラ「コジ・ファン・トゥッテ」「皇帝ティートの慈悲」、「魔笛」などのいわゆる名曲群が残されている。
私の好みから言うとこのふたつのソナタはあまり頭の中に残ってこなかった。だいたい第2楽章がまず気に入って全体が好きになるパターンが多いのだが、切れ切れの曲想に思えてピンとこない。第1、第3楽章はいかにもモーツアルトらしい、とは思うがインパクトが感じられない。私の聴き方がどこか欠陥があるのかもしれないと思っている。
いつかひょっとしたら心に響いて忘れられなくなる日があるかもしれない、と期待している。
このCDの録音は1784年。例によって演奏者の内田光子が書いている。
「モーツアルトはどのような演奏をしたのであろうか。もしもタイムマシーンが本当に使えるなら、第1に飛んで行きたいのは、1784~5年頃のウィーンである。」
「楽器も時代も演奏家も超越してモーツアルトは居る。」