さらに行くと今度は8弁の花が出てきました。これには驚きです。花も大型で普通の個体より一回り大きい感じがします。この分だと八重咲きのカタクリもありそうな予感がします。花弁の変異はこれ以外は見つけられませんでしたが、変わった花が坂戸山にはあることを認識しました。
白い花も数カ所で確認しました。純白の花もありわずかに桃色を帯びた白い花もありました。これだけ多い個体が群生しているわけですから中には変わったものが含まれていても不思議ではありません。葉の斑の入り方も様々。そういう視点で見ればすべての個体はどこかが違っていて二つとして同じものはないことになります。これが個性というものです。
魚沼地域に普通に見られるアブラチャンです。この種は海岸の近くになると個体数が減るようで経験的に深山の低木という感覚を持っています。関東圏にもアブラチャンの林があるようですが日本海側の林とは雰囲気が違うようです。日本海側の種をケアブラチャンといい変種扱いをしています。
山麓の登山道の脇はアブラチャンが見事に群生している一角があって特徴的な景観をしています。なんといっても根曲がりの形状をしているところが雪国の一つの特徴になっていて、この林床にはアズマイチゲやエンゴサク類・シダ類が生育していました。高木はクルミなどが目につき湿気の多い土質に適応した樹種が生育しています。
坂戸山のイチリンソウ属は2種。キクザキイチゲとアズマイチゲ。両方ともかなりの個体が自生していて場所によっては混在しています。それでもすみわけというほどではないにしろ群落は互いに重ならないように生育しているように見えました。また、比較的高所にアズマイチゲが多くあったように思います。そもそも、アズマイチゲの新潟県の分布は全県的に見られるものの弥彦山塊や阿賀野川沿いを除けば極めて少ない種です。坂戸山にこれほど自生しているということはが新しい発見です。
アズマイチゲはようやく咲き始めたという段階で、雪解けの遅い山麓部にあってようやく見つけた開花株です。尾根に上がってやや日当たりのよい場所にはたくさんの開花株がありました。キクザキイチゲに比べどっしりとした大型の株のように見えました。関東圏で見てきたアズマイチゲはもっとずっと小さい株という印象があります。
面白いことに個体の大きさが2系統あるように見えました。大きい葉の個体と小さい葉の個体が自生しているのです。小さい個体はしばしば群生していて、大きめな個体はあまり群生をしていないというように見えます。その中間的な個体もありますから、栄養条件の違いなのかもしれませんが、どの個体も花をつけているため大きさの違いが際立ちます。少しオーバかもしれませんが3倍近い差があるのです。大きい葉の個体は2~3個体が一緒に自生しています。
坂戸山の山野草の保護活動をしておられるMさん、この種は何かと問われました。ザゼンソウによく似ていますからそう答えたものの、花を見たことがないといわれヒメザゼンソウであることに気づきました。ザゼンソウは花が先に咲くため葉が伸びるころには花がしぼみますが花の残骸はあるはずです。ヒメザゼンソウは先に葉が出て葉がしおれるころに花が咲くという性質でなおかつ花が小さいのであまり人目に触れないという面があります。花が咲く6月から7月頃には周りの草も生い茂り小さな花はますます目に着かないという状態になります。そういえば私もヒメザゼンソウの花をしばらく見ていません。4月末の「葉のあるザゼンソウ」は花が終わったザゼンソウでなくこれから咲くヒメザゼンソウです。葉の形を比較することができないのですが、ヒメザゼンソウはやや長めの楕円形、ザゼンソウは円形に近い楕円形になるようです。葉の大きさも一回り小さいのがヒメザゼンソウになります。
ザゼンソウは湿地の植物というイメージで水はけの悪い場所に見られますが、坂戸山のヒメザゼンソウはスギの林から登山道の脇の斜面にかなりの量が自生していました。自生している場所は傾斜があってもかなり水持ちのよさそうな場所で乾燥するようなところではないので水分が多い場所が必要なようです。花の季節に再び訪れてみたいものと思います。
カタクリやオトメエンゴサクに混じってミチノクエンゴサクも咲いていました。坂戸山のミチノクエンゴサクの成長のいいこと!角田山で見た個体の2倍は草丈がありそうです。かたまって生えているとかなり存在感があります。しかし、花はやはり小さくオトメエンゴサクの1/3くらい。色も薄青いものがほとんどでバラエティーには欠けます。