先日訪れた春野町砂川地区の巨樹「カゴノキ」の見事さを想う。正面から見るとそれはむかし縄文杉を観に行ったことを想いだす。表面のごつごつした瘤や風格が似ている。そこには人間と自然との怒涛の風雪を感じないわけにはいかない。1990年に春野町名木百選に選定されるだけのことはある迫力だ。
カゴノキのあちこちには違う樹が芽生えているのも確認できた。つまり、この1本の木自体が森になっているのがわかる。そこに鳥や小動物や昆虫などの生き物も訪ねてきているわけだ。北限は茨城というから寒さには弱いようだが、照葉樹林とともに湿潤な温帯林を形成してきた。材が硬いので多様な建材や楽器・船のマスト・太鼓の胴など日常生活に利用されてきた。
それに、樹のウロは完全に後背を貫いて反対側が見えている。そのうえさらに、この樹のウロのなかに円空が作ったような仏が立っているように思えた。そしてその周りに弟子たちが師の教えを聞き漏らすまいと聞き入っている様子も見て取れる。自然が創造した神業だ。
樹の横を見てみるとその瘤は樹齢500年と言われる巨樹を支える生命の源のように思えた。カゴノキは成長が速いだけに樹皮が引き延ばされ、結果樹皮が「鹿の子模様」に剥がれていく。こうした貴重な巨樹をぜひとも後世に残していきたいものだ。