シイタケ農家のMさんがほだ木を運びやすい長さで太いコナラを伐っておいてくれた。林業家仲間では「たんころ」=「端ころ」と呼んでいるが、イスになるほどの長さだ。今までは、商品価値がない木片ということで刈りだしの後の林縁にけっこう転がっている。その「たんころ」に駒打ちするために隣の山から運ぶ。
こんなとき活躍するのが、「鳶口(トビクチ)」だ。江戸の町火消やとび職が持っているものだ。いまだに近くの山では丸太の移動には欠かせない道具だ。丸太を手で移動するとなるとけっこう肉体労働になる。とび口でやれば丸太の方向転換や移動が小さい力で可能となる。それでも、ジジイには呼吸が荒くなってしまう。
「われにもやらしておくれ」と和宮様が強く言うのでやってもらう。「これは便利な道具ぞな」と感心する。この道具は世界にもあるのだろうか。たんころを立てたりするのも簡単にできる。これを手で起こすとなるとかなり踏ん張らないといけない。
1時間足らずで隣の山から裏の畑までたんころ十数個を集めることができた。たんころの上と下との太さが違うので真直ぐには転がらない。へたすると自分の足の指を潰してしまう危険さえもある。それをとび口で調整しながら移動していく。ここまで運べばあとは駒打ちができそうだ。