『君の膵臓をたべたい』という本が出版されたのは、
2015年6月19日のことだった。
その刺激的なタイトルとは裏腹に、
「美しい物語の展開」
「泣ける小説」
として若い女性層を中心に口コミで広がり、
「2016年 本屋大賞」第2位、
「2016年 ダ・ヴィンチBOOK OF THE YEAR 」2位、
「読書メーター読みたい本ランキング」1位、
「第3回Yahoo!検索大賞 カルチャーカテゴリ 小説部門賞」受賞など、
瞬く間にベストセラー小説となった。
(2017年3月時点で累計発行部数は75万部)
〈どんな小説なんだろう?〉
と思った私は、図書館に予約し、
昨年末に、ようやく読むことができた。
読んだ感想はというと……
これが、甚だ良くなかった。
題材は、よくある難病もので、ありふれたストーリーであったし、
なによりも文体が村上春樹風(村上春樹の文体でライトノベルを書いたような……)で、
使われている比喩などがキザったらしく、
〈おいおい、高校生がそんな風に思考するかよ!〉
というようなツッコミどころ満載で、
余計なことを考え過ぎた所為もあるかもしれないが、
まったく感動することができなかった。
だから、小説『君の膵臓をたべたい』の印象は頗る悪かった。
今年になって、
その『君の膵臓をたべたい』が映画化されるという情報を知った。
主人公の二人としてキャスティングされた、
山内桜良役の浜辺美波と、
【僕】を演じる北村匠海についてはほとんど知らなかった。
映画では、原作には無い12年後の“現在”が描かれているそうで、
“過去”と“現在”の2つの時間軸が交錯しながら進行し、
12年後の【僕】を小栗旬が、
桜良の親友・恭子を北川景子が演じているという。
監督は、月川翔。
脚本は、吉田智子。
私は、吉田智子の脚本の映画をいくつか見ており、
『岳-ガク-』(2011年)
『奇跡のリンゴ』(2013年)
『ホットロード』(2014年)
『アオハライド』(2014年)
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)
などはレビューも書いており、私の“吉田智子への評価”はそれほど低くなかった。
吉田智子なら、あの小説を巧く脚色しているのではないかと考えた。
夏休みで、お子様向けの映画ばかりであまり見たい作品がなかったということもあるが、
実写映画『心が叫びたがってるんだ。』と同様、
あまり期待せずに映画館へ足を運んだのだった。
高校時代のクラスメイト・山内桜良(浜辺美波)の言葉をきっかけに、
母校の教師となった【僕】(小栗旬)。
彼は、教え子と話すうちに、彼女と過ごした数ヶ月を思い出していく……
病院で偶然拾った1冊の「共病文庫」というタイトルの文庫本。
それは【僕】のクラスメイトである山内桜良が綴っていた、秘密の日記帳であり、
彼女の余命が膵臓の病気により、もう長くはないことが記されていた。
【僕】はその本の中身を興味本位で覗いたことにより、
身内以外で唯一桜良の病気を知る人物となり、
次第に桜良と一緒に過ごすようになる。
桜良の親友・恭子(大友花恋)は、そんな【僕】を露骨に警戒するようになり、
なにかと言いがかりをつけてくるようになる。
そして、クラスの皆も、訝しげな目で見るようになる。
周囲の目も気にすることなく桜良は【僕】に構うようになり、
【僕】は桜良の「山内桜良の死ぬ前にやりたいこと」に付き合うことになる。
泊りがけで福岡へ行ったりして、
二人の仲は親密になっていく。
【僕】と桜良は、
正反対の性格であったが、
互いに自分の欠けている部分を持っているそれぞれに憧れを持ち、
次第に心を通わせていきながら成長していく。
だが、桜良に死は迫っていた。
そして、眩いまでに輝いていた彼女の日々は、ついに終わりを告げる……
桜良の死から12年。
結婚を目前に控えた桜良の親友・恭子(北川景子)もまた、
【僕】と同様に、桜良と過ごした日々を思い出していた。
そして、ある事をきっかけに、
桜良が12年の時を超えて伝えたかった本当の想いを知ることになるのだった……
映画を見た感想はというと……
これが案外良かった。
やはり吉田智子の脚本が優れており、
原作の小説よりも数段良くなっていた。
原作にはない12年後の描き方も悪くなく、
“過去”と“現在”の出し入れもスムーズで、
まったく違和感なく見ることができた。
この“過去”と“現在”の2つの時間軸が交錯させる手法は、
大ヒットした映画『世界の中心で、愛をさけぶ』の真似であろうが、
文字通り絶叫型の『世界の中心で、愛をさけぶ』に対し、
真逆とも言える「内に秘めた想い」を軸として静かに描いた『君の膵臓をたべたい』は、
いかにも今風で、なかなかのものであった。
キャストでは、
やはり、山内桜良を演じた浜辺美波が強く印象に残った。
若い人の間ではけっこう有名のようだが、
私はこの映画で初めて浜辺美波を知った。
透明感のある美しさ、
ひまわりのような明るさと笑顔、
癒される声、
すべてが魅力的で、
演技も悪くなく、
「映画界の“ニューヒロイン誕生”を目撃した」
と言っても、決して言い過ぎではないだろう。
それほどの可能性と将来性を感じた。
これからが本当に楽しみな女優の出現である。
桜良の親友・恭子を演じた大友花恋も良かった。
大友花恋を初めて見たのは、
映画『案山子とラケット 〜亜季と珠子の夏休み〜』(2015年)であったが、
この映画に主演した平祐奈と大友花恋の二人は、
いつもなにかと気にかかる存在で、
二人とも女優として順調に成長しているのが嬉しく感じられる。
恭子の12年後を北川景子が演じているが、
ちょっと気の強そうな大人になった恭子を好演していた。
結婚式当日に、恭子の結婚相手が現れるのだが、
これが、あるセリフで、「ああ」と思わせる人物で、(なんのこっちゃ)
この辺りにも吉田智子の脚本の巧さが感じられた。
これはぜひ映画館で確かめて欲しい。
【僕】を演じた北村匠海も、
12年後の【僕】を演じた小栗旬も、
静かな演技が秀逸であった。
今は、スマホ全盛の時代だが、
手書きの手紙が重要な役割を果たし、
図書館が主要な舞台となっている『君の膵臓をたべたい』は、
実写映画『心が叫びたがってるんだ。』と同様、
中高年の我々見ても共感できる部分の多い作品であった。
主人公の二人が泊りがけで旅する先は、
福岡県の各地でロケされているということもあって、
九州在住者にとっては一層の親しみの沸く作品になっている。
毎日暑い日が続いているが、
暑さを忘れるためにも、
そして、若き日を思い出すためにも、
映画館へ。
ぜひぜひ。