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一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

映画『シェイプ・オブ・ウォーター』 …映画を見る楽しみがすべて詰まった傑作…

2018年03月10日 | 映画


昨年末(2017年12月15日)に10周年を迎えた、
佐賀県内唯一のミニシアター「シアター・シエマ」がオープンしたのは、
2007年12月15日であった。
私が最初に「シアター・シエマ」を訪れたのは、
2008年1月10日で、
この「シアター・シエマ」で最初に見た映画は、
『パンズ・ラビリンス』であった。


支配人の許可を得て、館内を撮影し、
「シアター・シエマ」の紹介も兼ねて、ブログ「一日の王」にレビューを書いた。
今読むと、レビューというにはお恥ずかしいような“一口感想”であるが、
「シアター・シエマ」で最初に見た映画ということもあって、
この『パンズ・ラビリンス』は、今でも強く印象に残っている。
(初々しい10年前のレビューはコチラから)

この日鑑賞した、
ギレルモ・デル・トロ監督作品『パンズ・ラビリンス』は、
1年後、
「シアター・シエマ」で上映された作品の中から、
「シアター・シエマ」のお客さんが(年間ベストテンを)選ぶ投票で、
第1位に選出された。

シエマベストテン
【2007年12月~2008年12月】
1.『パンズ・ラビリンス』
2.『善き人のためのソナタ』
3.『サッド ヴァケイション』
4.『いのちの食べ方』
5.『ラスト、コーション』
6.『やわらかい手』
7.『ぐるりのこと。』
8.『靖国 YASUKUNI』
9.『歩いても 歩いても』
10.『トウキョウソナタ』


この『パンズ・ラビリンス』を監督したギレルモ・デル・トロの新作が、
今回紹介する『シェイプ・オブ・ウォーター』なのである。
昨年(2017年)の第74回ベネチア国際映画祭で、
金獅子賞を受賞したファンタジーラブストーリーで、
今年(2018年)3月に発表された第90回アカデミー賞では、
作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞の最多4部門で受賞したので、
もうご存知の方も多いと思う。
あの『パンズ・ラビリンス』を監督したギレルモ・デル・トロなら、
『シェイプ・オブ・ウォーター』が数々の賞を受賞するのも
〈さもありなん〉
と思い、
〈感動よ、もう一度……〉
ということで、
会社の帰りに映画館へ駆けつけたのだった。



1962年、
米ソ冷戦時代のアメリカ。
声を失くした孤独なイライザ(サリー・ホーキンス)は、
同僚のゼルダ(オクタヴィア・スペンサー)と共に、
政府の極秘研究所の清掃員として働いている。




ある日、イライザは、
研究所内に密かに運び込まれた不思議な生き物を目撃する。




アマゾンの奥地で神のように崇拝されていたという、
人間ではない“彼”の特異な姿に心惹かれた彼女は、


周囲の目を盗んで、“彼”会いに行くようになる。


幼少期のトラウマで声が出せないイライザだったが、
“彼”とのコミュニケーションに言葉は不要で、
二人は少しずつ心を通わせていく。


だが、威圧的な軍人ストリックランド(マイケル・シャノン)は、


彼を虐待し、実験の犠牲にしようとしていた。


それを知ったイライザは、
同僚のゼルダや、
隣人の画家ジャイルズらを巻き込み、
彼を研究所から救出しようと試みるのだった……




この映画には、
半魚人のような不思議な生き物が登場する。


この不思議な生き物である“彼”を、
ただ単に「気持ち悪い」と思うか、
マイノリティーやアウトサイダー的な存在と捉えられるかが、
評価の分かれ目になるような気がする。


なぜなら、
「Yahoo!映画」のユーザーレビューなど見ると、
絶賛するレビューと並び、
「気持ち悪い」
「楽しくなる映画ではない」
「エログロ」
「暴力と下ネタ」
「不気味な映画」
「よくわからない」
「難しい」
というような、マイナス評価もけっこう多いからだ。
『パンズ・ラビリンス』など、
ギレルモ・デル・トロ監督作品を鑑賞したことのある人なら、
問題なく映画に入り込めると思うのだが、


ギレルモ・デル・トロ監督作品に初めて触れる人には、
かなりショッキングな内容かもしれない。
まあ、映画は娯楽でもあるので、
無理して見ることはないが、
私など、こういう作品が楽しめないと、
なんだか、人生損しているような気がするのだが……如何。

自分とは異なる他者を、
認められるか、それとも憎むか……

決めつけるのがよくないと思うんだ。何かを「正しい」としたら、残りすべてが間違いになってしまう。何かを「美しい」と決めたら、残りが醜いものになってしまう。人間でも、モンスターでも、「そのもの」として存在を認めるべきだと、僕は言いたい。社会全体でそういう考えが育っていけばうれしいけどね。

と、ギレルモ・デル・トロ監督はインタビューで答えているが、

人間でも、モンスターでも、「そのもの」として存在を認めるべきだ。

という言葉が心に響くし、
本作が最も訴えたかったことでもあると思う。

半魚人のような不思議な生き物だけではなく、


イライザは、口が利けないというハンディキャップがあるし、


同僚ゼルダは黒人であるし、


隣人・ジャイルズは同性愛者であるし、


この映画の登場人物のほとんどは、
マイノリティーやアウトサイダー的な存在ばかりである。
彼らが、正義のために権力者に立ち向かい、闘う姿は、
1960年代の話でありながら、
現代と重なる部分が多いし、
むしろ、今の時代に最も合致したテーマであると言えよう。


こう書くと、
〈ちょっと小難しい映画かな〉
と思われる方もおられるかもしれないが、
そんなことはない。

昔、『大アマゾンの半魚人』という映画があったが、
本作は、その『大アマゾンの半魚人』へのオマージュでもあるそうで、
その他、
アンデルセンの「人魚姫」や、
『シザーハンズ』や『美女と野獣』など、
いつの時代も愛されてきた、種族を超えたラブストーリーの要素が含まれている。
「アマゾンの奥地で神のように崇拝されていた」生き物ということで、
私など、『キングコング』や『モスラ』の半魚人版かなと思ったほどであったし、
ファンタジーであり、ラブロマンスであり、サンスペンスであり、
ハラハラさせられたり、ドキドキさせられたり、ワクワクさせられたり、
映画を見るいろんな楽しみがすべて詰まった作品なのである。
そして、まぎれもない“傑作”なのである。
こんな素晴らしい作品を、
“食わず嫌い”して鑑賞しないのは本当に勿体ない。
ダマされたと思って、
映画館へ、ぜひぜひ。

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