一昨年、
『海街diary』(2015年6月13日公開)で、
広瀬すずの素晴らしい演技に出逢って感動し、
〈彼女の出演作はすべて見よう〉
と決意した。
以降、
『ちはやふる -上の句-』(2016年3月19日公開)
『ちはやふる -下の句-』(2016年4月29日公開)
『四月は君の嘘』(2016年9月10日公開)
『怒り』(2016年9月17日公開)
『チア☆ダン〜女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話〜』(2017年3月11日公開)
『三度目の殺人』(2017年9月9日)
と、広瀬すずの出演作は、すべて見てきた。
嬉しいことに、今年(2017年)に入って3本目の出演作が、
10月28日に公開された。
『先生! 、、、好きになってもいいですか?』である。
広瀬すずの他に、
先日、このブログでレビューを書いた『恋と嘘』に主演した森川葵も出演しているし、
監督は、光の魔術師と言われ、私も評価している三木孝浩だ。
三木孝浩監督のここ数年の作品
『陽だまりの彼女』(2013年)
『ホットロード』(2014年)
『アオハライド』(2014年)
『くちびるに歌を』(2015年)
『青空エール』(2016年)
『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(2016年)
などは、すべて見ているし、レビューも書いている。
一定レベル以上の作品に仕上げる力があり、
大きなハズレがない監督なので、安心して見ることができる。
期待に胸脹らませ、映画館に向かったのだった。
高校2年生の島田響(広瀬すず)は、まだ恋を知らないちょっぴり内気な女の子。
楽しそうに恋バナに花を咲かせるクラスメイトの千草恵(森川葵)や川合浩介(竜星涼)を、
どこか不思議な気持ちで眺めている。
そんな響が初めて好きになった人は、世界史の教師・伊藤貢作(生田斗真)だった。
めったに笑わない不愛想な先生だけど、
授業を忘れてベンチでうたた寝をしたり、
担任でもないのに、最後まで居残り授業に付き合ってくれたり。
そして、たまに見せるビックリするくらい優しい笑顔。
「好きになってもいい?」
「俺はやめとけ」
そう言われても、ただ好きで、どうしようもなく好きで。
そんな響のまっすぐ過ぎる想いが、
ゆっくりと伊藤の心を溶かし始める。
文化祭の日、仮装のウエディングドレスを着て、
最後に“きちんとフラれるために”向かった屋上で、
伊藤は突然、響を抱き寄せ、キスしてしまう。
動揺する響であったが、
事態は響の知らないところで、急速に変化しようとしていた。
二人を引き離そうとする大人たち、
響を熱い友情で支え、応援する仲間たち。
様々な思いが交錯する中、
響の初めての恋の行方は……
『高校デビュー』『俺物語!!』などで知られる河原和音のコミックを実写映画化したもので、
まだ恋をしたことのないピュアな女子高生と、
一見無愛想だが、生徒思いな教師という組み合わせは、
ストーリー的にはありがちなので、新鮮味はない。
新鮮味はないのだが、
その女子高生を広瀬すずが演じているとなれば、話は別だ。
その映画は、特別なものとなる。
なぜなら、広瀬すずが特別な存在だからだ。
では、どう特別なのか?
それは、この作品で、広瀬すずの相手役をした生田斗真に語ってもらう方がいいだろう。
これまでの彼女の活躍を見ていて、いろんな人に愛される人なんだろうなって勝手に思っていたので共演はすごく楽しみでした。実際お芝居をしてみて、そりゃあ皆好きになるよなって。響の告白シーンは、僕も含め男性スタッフの心臓が全員2秒くらい止まりましたから(笑)。大人な部分と年齢相応の無邪気な部分が入り交じってて、すごく魅力的な女優さん。何よりお芝居に嘘がないんですよね。2人で車の中にいるシーンでは、僕(伊藤)が響にひどいことを言ってしまうんですが、お互い正面を向いているから顔は見えないのに横からぐわ~と悲しみの感情が伝わってくるんです。“あ、傷付いてるな。申し訳ない!”って思うくらいその場の空気を変える人、現場を回していく力のある人だなと実感しました。
(『キネマ旬報』2017年10月下旬号)
「その場の空気を変える人、現場を回していく力のある人」
というのは、見ている観客側からもそれは感じるものだ。
同じような場面を、他の映画、他の女優で何度も見ているが、
やはり広瀬すずの演技は、それら数多の女優たちとはあきらかに違う。
切実で、胸に迫ってくるのだ。
「響の告白シーンは、僕も含め男性スタッフの心臓が全員2秒くらい止まりました」
という発言に共感したのは、私だけではないだろう。
演技も素晴らしいが、
広瀬すずは、その存在自体が、我々に特別な感情を抱かせる。
特に、私のように、世慣れし、薄汚れたおじさんにとっては……
いや、私だけではなく、
それは、かの福山雅治でさえ、そうであったようだ。
『三度目の殺人』の完成披露試写会のとき、
次のようなエピソードを語っている。
すでに広瀬すずに会ったことのある是枝裕和監督やリリー・フランキーから、
「広瀬すずに会うと、甘酸っぱい気持ちになる」
と聞かされていたが、にわかに信じられず、
〈そんなことはないでしょう〉
と思っていたのだが、
実際に広瀬すずに会ってみると、
本当に甘酸っぱい気持ちになったという。(笑)
「広瀬すずに会うと、甘酸っぱい気持ちになる」
という感情は、面白いことに、スクリーン越しにでも感じることができる。
広瀬すずが演じていると、
それを見ている観客も、
自らも高校時代の戻ったようなドキドキ感を味わえ、トキメキを覚えるのだ。
こんな魔法をかけられる女優は、若手女優には広瀬すず以外にはいない。
普通、この手の学園ものは、
年齢的には年上の俳優たちが演じることが多い。
中にはまったく高校生には見えない俳優もいて白けるのだが、
広瀬すずが本作『先生! 、、、好きになってもいいですか?』を撮っていたときは、
まだ高校生であった。
自分とほぼ同じ年頃の女の子を演じているので、
それだけでもリアリティがあり、貴重な映像であったと思う。
今後も女子高生を演ずる機会はあるかもしれないが、
自らも女子高生で、同じ女子高生を演じるのは、これが最後であるし、
そういう意味でも、特別な作品になっている。
広瀬すずのことだけ語って終えてもいいのだが、
その広瀬すず(響)のまっすぐな感情を受け取る側であった生田斗真についても、
少しだけ述べておこう。
ひたすら“受ける”演技を求められた生田斗真は、次のように語っている。
今回はすずちゃんから与えられたものを、しっかり受け止めていけばいいのかなと思って現場にいましたね。受け身の芝居は自分が発する役よりもフラストレーションがたまるかなとも思ったけど、全然そんなこともなく楽しかったですよ。難しいなと感じたのは、セリフじゃない部分……目線や佇まいなんかで表現することが多かったから、自分が生きてきた時間やこれまでの経験が出る役あなと。技術的なことに頼らずに、そこを信じようと思ってたかな。
(『キネマ旬報』2017年10月下旬号)
完全な“受け身”である伊藤先生の役は、
きわめて難しい役であったと思うのだが、
生田斗真は、ミステリアスかつ魅力的に演じていて、とても良かった。
ここ数年、
『土竜の唄 潜入捜査官REIJI』(2014年2月15日公開)
『土竜の唄 香港狂騒曲』(2016年12月23日公開)
で、潜入捜査官を演じ、(突き抜けたスゴイ演技)
『彼らが本気で編むときは、』(2017年2月25日公開)
で、トランスジェンダーを演じるなど、(主演男優賞を受賞するレベルの演技)
出演する作品ごとに違った顔を見せているが、
それら俳優としての経験値が活かされた演技であったと言えよう。
その生田斗真が、
今回の響は広瀬すず史上、一番かわいい映画だと僕は思っているんです。
(『キネマ旬報』2017年10月下旬号)
と公言する映画『先生! 、、、好きになってもいいですか?』。
女子高生と先生という構図は、先日見た『ナラタージュ』に似ているが、
『ナラタージュ』ほど深刻ではないので、
甘酸っぱい若き日々を思い出すためにも、
映画館で、ぜひぜひ。