一日の王

「背には嚢、手には杖。一日の王が出発する」尾崎喜八

新聞連載エッセイ「ふらふらぶらぶら 日本縦断の旅」⑧萩と、仙崎と、金子みすゞ

2025年01月25日 | 徒歩日本縦断(1995年)の思い出


旅と同時並行で地元紙(佐賀新聞)に連載していた紀行文、
「ふらふらぶらぶら 日本縦断の旅」を元にして、
カテゴリー「徒歩日本縦断(1995年)の思い出」を再開させた。
今回は、その第8回目。



「ふらふらぶらぶら 日本縦断の旅」⑧萩と、仙崎と、金子みすゞ
(※新聞掲載時よりも、漢数字を算用数字にしたり、改行を多くして読みやすくしています)

出雲を出て二週間、
ぼくは、大田、江津、浜田、益田、萩、仙崎、豊浦、下関と歩いた。
萩のユースホステルでは、


ドイツからの留学生や日本一周のサイクリストと友達になり随分と元気づけられたし、


また九州が近づいてきていることもあって歩きも快調であった。
島根県、山口県の海岸線は、
日本海の荒波によって作られた断崖絶壁、洞門、石柱などが透明度の高い海に映え、
雄大な風景が連続している。
特に萩から仙崎に至る海岸線は、
国道を通らずに海岸に沿った県道を歩いたのだが、
車の往来も少なく、北長門海岸国定公園の素晴らしい景色をたっぷり堪能できた。








今回の旅で、ぼくが、立ち寄ることを楽しみにしていた町のひとつに仙崎がある。
幻の童謡詩人と語り継がれている金子みすゞのふるさとだからだ。


金子みすゞは、明治36年に生まれ、大正末期優れた作品を発表し、
西條八十に「若き童謡詩人の巨星」とまで称賛されながら、
26歳の若さで世を去っている。
没後その作品は散逸し、永きにわたって忘れ去られた存在であったが、
近年、遺稿集が見つかり出版されたことにより、
その詩句の数々は、いま確実に人々の心に広がり始めている。
みすゞの作品には、平易な表現の奥に、つくりものではない発見や感動があり、
ぼくはその作品に接するたびに、心を激しく揺さぶられる。
仙崎の町の「みすゞ通り」にはみすゞの墓所や童謡の素材となった多くの場所が点在し、


「みすゞ公園」にはみすゞの詩にちなんだ樹木や詩碑がある。
佐賀からは比較的近いので、ぜひ一度訪ねてみてほしい。
あなたがすでに忘れ去っているものにきっと出合えるハズです。




朝焼小焼だ
大漁だ
大羽鰮の
大漁だ。

浜はまつりの
ようだけど
海のなかでは
何万の
鰮のとむらい
するだろう。
     「大漁」金子みすゞ


10月14日、ぼくは九州に入った。




【余禄】
10月になり、朝晩は少し肌寒く感じられる日もあった。
海沿いの道を歩いたこの日は風も強かったので、長袖、長ズボンを着用した。




ハングル文字のペットボトルが海辺に打ち上げられていた。


萩は古風で美しい町。




金子みすゞが大好きだったので、
仙崎を訪れるのを楽しみにしていた。
仙崎の町も美しく、町自体も大好きになった。




「関門橋」。


「関門トンネル人道」。
昭和33年に開通した関門海峡の下を貫く全長780mの海底トンネルで、
歩いて15分程度で山口と福岡を横断できる。


歩行者は無料。自転車、原付は20円。(押して歩くこと)
通行可能時間6:00~22:00(現在のデータ)
人道入口にはエレベーターがあり、
下関側は地下約55m、門司側は地下約60mまで降りてから通行。


トンネルの中ほどに福岡県と山口県の県境があり、
世界的にも珍しい「海底の県境」として有名。

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