本作『恋は光』(2022年6月17日公開)を見たいと思った理由は、二つ。
①小林啓一監督作品であるから。
②西野七瀬、平祐奈が出演しているから。
小林啓一監督作品は、
『逆光の頃』(2017年7月8日公開) 監督・脚本・撮影
『殺さない彼と死なない彼女』(2019年11月15日公開) 監督・脚本
の2作を見て、レビューも書いているが、
一見、キラキラ青春映画のように見えながら、
鑑賞者の想像を超えて意外な着地点に至る脚本が秀逸で、
しかも映像が美しく、
若者だけでなく、
中高年世代の心にも響く作品が好い。(いや、むしろ中高年の方が作品の良さが解るのかも)
『殺さない彼と死なない彼女』のレビューで、
人工的なライトを使用せず、
自然光だけを使って撮られた映像は、
〈フェルメールの描く光のやわらかさを映像で再現できたら……〉
という小林啓一監督の想いが込められており、
限りなく美しい。
桜井日奈子、恒松祐里、堀田真由、箭内夢菜の、
若手女優たちも実に美しく撮られている。
こういう作品と、
小林啓一監督と出逢えた彼女たちは幸せだ。
と書いたのだが、
私の好きな女優(西野七瀬、平祐奈)がどのように撮られているかも楽しみ。
原作は、集英社「ウルトラジャンプ」で連載された秋★枝の同名コミックで、
主演は、神尾楓珠。
西野七瀬、平祐奈の他、
馬場ふみか、伊東蒼も共演している。
もう期待しかなく、ワクワクしながら映画館に向かったのだった。
“恋する女性が光って視える”特異な体質を持つ大学生・西条(神尾楓珠)。
恋愛とは無縁の学生生活を送っていたある日、
「恋というものを知りたい」
と言う文学少女・東雲(平祐奈)と出会い、一目惚れ。
“恋の定義”を語り合う交換日記を始めることに。
そんな2人の様子は、
西条にずっと片想いをしている幼なじみの北代(西野七瀬)の心をざわつかせる。
さらに、他人の恋人を略奪してばかりの宿木(馬場ふみか)は、
西条を北代の彼氏と勘違いし、猛アプローチを開始。
いつの間にか4人で「恋とはなんぞや?」を考えはじめ、
やがて不思議な四角関係に陥っていく……
予告編を見ると、
キラキラ青春映画そのものなのであるが、
本作もまた他の小林啓一監督作品と同じく、
キラキラ青春映画の衣を借りた別物であった。
なんとも面白い会話劇であり、
その会話の内容も、哲学的な恋愛論であったのだ。
私は会話劇が好きで、
昨年(2021年)は、
光野道夫監督作品『おとなの事情 スマホをのぞいたら』
前田弘二監督作品『まともじゃないのは君も一緒』
濱口竜介監督作品『偶然と想像』
などで楽しませてもらったが、
今年(2022年)は、思いがけなくも、
『恋は光』という青春映画で会話劇を楽しむことができ、嬉しかった。
哲学恋愛映画の「佳作」、いやいや「秀作」、
いやいや、この際「傑作」と言い切ってしまいましょう。(笑)
恋の光が視える男・西条(さいじょう)を演じた神尾楓珠。
私の4番目の孫は、現在、小学2年生の女の子なのだが、
物心ついた頃から(困ったことに)イケメン好きで、(笑)
この孫娘が今注目しているのが、横浜流星、神尾楓珠、道枝駿佑の3人。
孫娘から栄誉あるイケメン・ベスト3に選ばれた神尾楓珠は、
前期高齢者ジジイの私から見ても、画になるイケメンだと思う。
単なるイケメンではなく、
今年(2022年)のTVドラマでは、
「ナンバMG5」(2022年4月13日~6月22日、フジテレビ)での
伍代直樹役が良かったし、
主演した「17才の帝国」(2022年5月7日~6月4日、NHK総合)では、
ソロンにより実験都市ウーアの総理大臣に選出された高校生・真木亜蘭を演じ、
独特の存在感で、この攻めたドラマを成功へと導いていた。
本作『恋は光』ではイケメンを封印しているものの、
イケメンはダダ漏れしており、(笑)
彼のファンは、小林啓一監督が撮った神尾楓珠の“美”を心ゆくまで堪能できることであろう。
西条の幼馴染で、西條に思いを打ち明けられない北代(きたしろ)を演じた西野七瀬。
女性アイドルグループ・乃木坂46のメンバーであった頃はそれほど関心がなかったが、
2019年に乃木坂46を卒業してから、映画に出演するようになり、
『一度死んでみた』(2020年3月20日公開)
『孤狼の血 LEVEL2』(2021年8月20日公開)
『鳩の撃退法』(2021年8月27日公開)
と見続けてきて、
(演技はまだまだだけれども)凛とした佇まいと存在感に惹かれるものがあり、
気になる女優になった。
本作『恋の光』では、
“恋する女性が光って視える”西条(神尾楓珠)には、
(なぜか)北代は光って視えないらしく、
彼に対する恋心に気づいてもらえずに、
北代自身もその気持ちを西条に伝えられずにいる……といった役柄で、
(よくあるパターンではあるが)幼なじみゆえの難しい恋であったのだが、
そんな北代という女の子を西野七瀬は繊細に演じ、秀逸であった。
実は最初、北代に対する監督の見解と私の考えが少し違っていたんです。でも撮影の合間に神尾さんとふたりで雑談しているのを見て、「今のその普段通りのしゃべり方でやってほしい」とお話があり、そこからやり方を変えていきました。演じるにあたり、自分を北代に近づけるのではなく、自分の方に北代を寄せていきました。そうすることで私としても、監督的にも、やりやすい形を見つけていくことができました。(「映画.com」インタビューより)
と語っていたが、
北代と西条は本当の幼なじみに見えたし、
西野七瀬と神尾楓珠が関係性を大事に演じたことで構築し得た空気感であったような気がした。
文学少女・東雲(しののめ)を演じた平祐奈。
平祐奈の出演作、
是枝裕和監督作品『奇跡』(2011年6月11日公開)
吉田大八監督作品『紙の月』(2014年11月15日公開)
成島出監督作品『ソロモンの偽証』前篇・事件(2015年3月7日公開)
成島出監督作品『ソロモンの偽証』後篇・裁判(2015年4月11日公開)
などは見ているのだが、あまり記憶になくて、(コラコラ)
平祐奈を女優としてしっかり認知したのは、
『案山子とラケット 〜亜季と珠子の夏休み〜』(2015年4月4日公開)
という主演作においてだった。
そのレビューで、私は次のように記している。
出演者では、まずは小田切亜季役の平祐奈を褒めたい。
1998年11月12日生まれなので、現在16歳。(2015年4月5日現在)
撮影時は15歳だったとのことで、
等身大とも言える小田切亜季を実に素直に演じていた。
この女の子、どこかで見たことあるなと思っていたら、
『紙の月』(2014年)で、
主人公・梅澤梨花(宮沢りえ)の中学生時代を演じていたことを思い出した。
今回とは真逆の役柄であったが、
『紙の月』でも実に印象深い演技をしていた。
将来が、本当に楽しみな女優である。
※ちなみに、女優・平愛梨は姉とのこと。
その後は、
『キセキ -あの日のソビト-』(2017年1月28日公開)ヒロイン・櫻井結衣 役
『ReLIFE リライフ』(2017年4月15日公開)主演・日代千鶴 役
『未成年だけどコドモじゃない』(2017年12月23日公開)主演・折山香琳 役
『honey』(2018年3月31日公開)ヒロイン・小暮奈緒 役
『10万分の1』(2020年11月27日公開)主演・桜木莉乃 役
などの青春映画で(主演&ヒロインとして)活躍しているのは、皆さんもご存知の通り。
中学生、高校生役が多かった平祐奈も、23歳となり、(2022年7月現在)
本作『恋の光』では、ちょっと浮世離れした本好きの大学生を演じている。
恋を探究する東雲は、
古典や文学作品から恋を知ろうとしており、
10年間で3185冊もの小説を読み、
そのうち9割以上の小説に恋が関係していることに気づき、
それら全ての小説に共通するものとして、“好き”という感情があることを西条に伝える。
堀辰雄の小説に出てきそうな感じの古風な女性の役で、
いつも明るく現代っ子的な平祐奈が演じることで、
見る者はそのギャップに萌える。
西条と同じ特異体質の女子高生・大洲央を演じた伊東蒼。
大洲央も西条と同じく、
恋をしている女子から発せられる光を感知することができるキャラクターなのだが、
ちょっと謎めいた雰囲気を残しながら、
素朴で等身大の女子高生を好演しており、すこぶる良かった。
伊東蒼は、ここ数年、目覚ましい活躍をしていて、
中でも、
『空白』(2021年9月23日公開)
『さがす』(2022年1月21日公開)
の2作での演技は凄まじかった。
このブログのレビューでも絶賛したし、
伊東蒼が出演しているだけで「傑作」になりそうな感じがあり、
本作も伊東蒼が出演していることで格が一段上がったような気がした。
ここまで書いてきて、
登場人物の苗字の共通点にお気づきだろうか?
そう、愛媛県内の地名から採られているのだ。
西条(さいじょう)は、愛媛県西条市、
東雲(しののめ)は、松山市東雲町、
北代(きたしろ)は、松山市道後北代、
大洲(おおず)は、愛媛県大洲市。
原作の漫画家、秋★枝は山口県出身なのだが、
愛媛大学を卒業していることから、原作漫画の舞台は松山になっており、
登場人物の苗字を愛媛県の地名にしたものと思われる。
原作の舞台は愛媛県なのだが、
映画の方は(2021年夏に約1ヵ月間)岡山県でオールロケされている。
『とんび』(2022年4月8日公開)
『劇場版ラジエーションハウス』(2022年4月29日公開)
など、近年、岡山県でロケされた映画が増えているのだが、
岡山県フィルムコミッション協議会が岡山県内の全市町村と連携して対応している為、
岡山県内での撮影は、協議会への連絡一本で済み、
加えて、
①天候に恵まれている。(降水量1ミリ未満の日数が全国1位)
②アクセスの良さ。(飛行機、新幹線が便利)
③市街地、海、山、川の様々な表情を持っている。(市街地から車で30分圏内で、田舎や海、歴史的町並みがある)
④【他の街】や【架空の街】として設定可能。(シンボリックな建物が映り込まず、ストーリーの邪魔をしない)
⑤地域や組織とのネットワークが万全。(地域住民、自治体、病院、学校、警察等……)
⑥エキストラ人材バンクの制度完備。(約5,400名以上が登録)
など、
岡山県でロケするメリットがたくさんあるかららしいのだ。
本作『恋の光』でも、
西条と北代が川釣りをするシーンの旭川(真庭市勝山)、
東雲の家がある街並み、ボンネットバスが登場する吹屋ふるさと村、
東雲の家として登場する旧片山家住宅、
いろんなシーンの交通手段として登場する井原鉄道、
西条と東雲がデートするシーンの倉敷美観地区など、
地方都市ならではの美しい風景が本作を見るべき作品へと押し上げており、
鑑賞者を「ロケ地巡りをしてみたい」と思わせるほどに魅力的だ。
神尾楓珠、西野七瀬、平祐奈など、キャストの美しさ、
会話劇の楽しさ、
ロケ地である岡山県各所の魅力など、
映画の愉しみがぎっしり詰まった映画であった。
これからも小林啓一監督作品から目が離せない。