3月31日に佐々部清監督が亡くなり、(享年62歳)
4月10日に大林宣彦監督が亡くなった。(享年82歳)
佐々部清監督の訃報は突然だった。
2020年3月31日朝、
次回作の制作準備のために宿泊中の山口県下関市内のホテルで倒れているのが見つかり、その後死亡が確認された。
死因は心疾患だった。
一時、新型コロナウイルスへの感染での死が疑われたが、
死因はそれとは違うようだ。
佐々部清監督で思い出すのは、やはり、
2018年9月15日~17日に行われた古湯映画祭での“佐々部清監督特集”。
これまで、古湯映画祭には、
見たい映画が上映される日に単日参加することが多かったが、
2年前の“佐々部清監督特集”のときには、
〈3日間、最初から最後まで、じっくり楽しみたい〉
と、
期間中の映画、トークショー、パーティーすべてに参加できるフリーパス券(1万円)を買い、
3日間、佐々部清監督作品を、そして映画祭そのものを、存分に楽しんだのだった。
このときの体験は、ブログ「一日の王」に4回に渡って連載した。
(各項目をクリックすると、レポが読めます)
第35回古湯映画祭「佐々部清監督特集」① ……3日間で9本の映画を鑑賞する……
第35回古湯映画祭「佐々部清監督特集」② ……安倍萌生のデビュー作を鑑賞……
第35回古湯映画祭「佐々部清監督特集」③ ……楽しいトークショーとパーティー……
第35回古湯映画祭「佐々部清監督特集」④ ……佐々部清監督の傑作3本上映……
この3日間のことは、
楽しい思い出として今でも時々思い出すが、
1作上映される度に、ステージに登壇し、自作を解説される誠実な姿が忘れられない。
自らを、
「映画を、早く、安く、上手く、撮ることのできる職人監督だ」
と語っていたが、その言葉通り、
芸術家タイプではなく、職人気質の監督で、
海外の映画祭に頻繁に出品するような賞獲り狙いの監督を極端に軽蔑していた。
なので、作品に真新しさはないものの、
堅実で、やや古風な映画作りが特徴の映画監督であったと言える。
(ただし、2017年1月に公開された『ゾウを撫でる』のような実験的で、難解な作品もある)
古湯映画祭で、佐々部清監督の作品をまとめて(集中して)見たことで感じたのは、
佐々部清監督作品は、作品によってテーマは違うが、 基本はラブストーリーだということ。
『夕凪の街 桜の国』は、「原爆」「反戦」のイメージがあるが、
三つの恋を描いたラブストーリーであったし、
『八重子のハミング』も「若年性アルツハイマー」や「介護」の映画と思われがちだが、
私にとっては、極上の夫婦愛を描いたラブストーリーであった。
佐々部清監督作品には、若い男女の愛、夫婦愛、家族愛など、
底辺に“愛”があるからこそ、感動させられるのだと思った。
私にとっての佐々部清監督作品ベスト3
『夕凪の街 桜の国』(2007年7月28日公開)
『三本木農業高校、馬術部』(2008年10月4日公開)
『チルソクの夏』(2003年5月24日下関先行、2004年4月17日公開)
結果的に遺作となった『大綱引の恋』は、
鹿児島県薩摩川内市に420年続く勇壮な“川内大綱引”に青春をかける鳶の跡取りと、
甑島の診療所に勤務する韓国人女性研修医との、切ない恋と、その二人を取り巻く家族模様を描いた作品で、現代版『チルソクの夏』、大人版『チルソクの夏』という感じなので、
『チルソクの夏』が好きな私としては、すごく楽しみ。
鳶の三代目の有馬武志役を三浦貴大が、
武志が思いを寄せる下甑島の瀬々野浦診療所に勤務する研修医のヨ・ジヒョン役を知英(ジヨン)が演じる他、
私の好きな比嘉愛未、松本若菜、安倍萌生などもキャスティングされている。
2020年11月鹿児島先行公開、2021年5月全国公開の予定とのことで、
期待して待ちたいと思う。
大林宣彦監督作品との出会いは、衝撃的であった。
1977年公開の『HOUSE ハウス』で度肝を抜かれ、
尾道三部作『転校生』『時をかける少女』『さびしんぼう』に感嘆し、ロケ地巡りをし、
『廃市』『青春デンデケデケデケ』『はるか、ノスタルジィ』『なごり雪』など、
地方を舞台にした作品群で、郷愁に誘われ、過ぎ去った青春の日々に思いを馳せた。
学生時代から大林宣彦監督の作品はほとんど見てきたし、
映画の楽しさをたくさん教えてくれた監督であった。
大林宣彦監督作品に変化を感じたのは、
東日本大震災を経た後の作品、
『この空の花 -長岡花火物語』(2012年4月7日公開)からだった。
私は、『この空の花 -長岡花火物語』のレビューで、次のように記している。
この映画の制作が始動した2010年の段階では、
現在の作品とはかなり違ったものであったのではないか……
それが2011年3月11日の東日本大震災を経ることにより、
大幅に内容が変更されたものと想像する。
反戦争と共に、
反原発の要素も加わることになったからだ。
そこで、ひとつの問題が加わることになる。
なぜなら、大林宣彦監督は、
かつて九州電力のTVCMに出演し、
原子力発電を推進する役目を担っているように見えていたからだ。
それが、最近では、反原発の立場をとり、原発全停止との発言をしている。
「発達しすぎた文明はいつか人類を滅ぼすだろう」とは20世紀初頭の警句。現在の知力では2と答えるのが精一杯だろうが、ここは思い切って本能で「怖い!」と。今は知力より本能を信じよう。前進し続けるより立ち止まってみよう。
意地の悪い見方をすれば、回心したようにも転向したように見える。
一部の人々からは、その部分が批判の対象になっている。
そのことに対する説明が欲しいと……(全文はコチラから)
『この空の花 -長岡花火物語』以降も、
『野のなななのか』(2014年5月17日公開)
『花筐/HANAGATAMI』(2017年12月16日公開)
など、メッセージ性の強い作品が続いているし、
原子力発電を推進するようなTVCMに出演したことへの贖罪のようにも見えたが、
老いてもなお、チャレンジ精神を忘れない大林宣彦監督に対しての尊敬の念は変わらす私の中にある。
私にとっての大林宣彦監督のベスト3
『青春デンデケデケデケ』(1992年10月31日公開)
『廃市』(1984年1月2日公開)
『転校生』(1982年4月17日公開)
新作『海辺の映画館―キネマの玉手箱』の公開予定日の2020年4月10日に亡くなった大林宣彦監督であるが、(新型コロナウイルスの影響で公開延期が決定した)
『海辺の映画館―キネマの玉手箱』も公開されれば見に行くつもりでいる。
20年ぶりに故郷・尾道で撮影し、
無声映画、トーキー、アクション、ミュージカルと、
様々な映画表現で戦争の歴史をたどったドラマのようで、
厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲などの新鋭俳優の他、
小林稔侍、尾美としのり、武田鉄矢、南原清隆、片岡鶴太郎、柄本時生、稲垣吾郎、浅野忠信、品川徹、笹野高史、満島真之介、窪塚俊介、長塚圭史などの男優陣、
成海璃子、山崎紘菜、常盤貴子、伊藤歩、中江有里、川上麻衣子、寺島咲、渡辺えり、根岸季衣、入江若葉、白石加代子などの女優陣と、
これまでの大林宣彦監督作品の常連や出演経験のある俳優たちがずらりと並び、
同窓会的な豪華なキャスティングに唸らされる。
予告編を見ても、『花筐/HANAGATAMI』に拍車をかけたような“おもちゃ箱”的な、
いや、大林宣彦監督の言葉を借りれば、まさに“キネマの玉手箱”のような作品に仕上がっているようだ。
こちらも楽しみでならない。
大林宣彦監督作品には、佐賀県でロケされた
『水の旅人 -侍KIDS-』(1993年7月17日公開)
『花筐/HANAGATAMI』(2017年12月16日公開)
などの作品があり、
佐々部清監督は、古湯映画祭で2度も特集を組まれるほど、佐賀県と縁があり、
佐賀の地元紙にも、大林宣彦監督、佐々部清監督の死を惜しむ声が多く寄せられていた。
私にとっても、映画の楽しみを教えてくれた両監督なので、
心のなかにぽっかり穴が開いたようで、寂しい。
ご冥福をお祈りいたします。