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都月満夫の短編小説集2

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都月満夫の短編小説集

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「七夕・隣の客」(第一部)
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「桜の花が散った夜」

桜の花が散った夜

2008-12-17 17:34:07 | 短編小説

都月満夫

 

北海道の十勝平野にも、ようやく、桜の開花の季節がやってきた。この時季、人は春の開放感に気持ちが高揚し、五月の焦燥感に心が消沈する。躁と鬱が交錯し常軌を逸する行動を起こしてしまうことがある。別れと出会いの寂しさと不安が人の心を揺り動かすのかもしれない。あるいは、桜の花の妖気が、人の心の奥底に沈殿している本能を、気づかぬうちに覚醒させてしまうのかもしれない。

私は午後九時前だというのに、夜の街を一人で歩いていた。今夜は新入社員の歓迎会であった。彼らは歓迎会が終わり、店を出ると挨拶もしないで、開放された子犬のように、夜の中に消えていった。主役がいなくなってしまったので、二次会は流会となった。

濃紺の澱んだ空気は、吐く息をことさら白く見せる。桜が開花したとはいえ五月の夜はまだ寒い。別に行くあてがあったわけではない。ふらふらと歩きながら、今日が私の誕生日だったことを思い出した。五十歳を過ぎた私にとって、誕生日はもう特別な日ではなかった。一軒の店の行灯(あんどん)の文字が目に入った。「スナック桜…か」私は暖かい空気を求めて、吸い込まれるように店のドアを押した。

 

「いらっしゃい。」

甲高い声がした。店のママだろう。五十歳前後の私と同じくらいの年令の小柄で細身の女が出迎えた。もう一人、四十歳ほどの背の高い女がカウンターの中でグラスを洗っていた。店はボックス席が二つ、カウンター席には椅子が五つ六つほどの小ぢんまりした造作(つくり)である。壁には数枚の桜の写真が掛けてあった。奥のカウンター席に三十歳を少し過ぎたほどの女が座っていた。女は黒っぽいドレスを着ていて、薄暗い店の隅に白い横顔が浮かんでいるように見えた。黒い髪は肩を覆うほどの長さであった。客は一人しかいない。私はカウンターの中ほどの席に着き、ビールを注文した。

「さくらです。よろしく。こちら初めてね。」

ママがビールを注ぎながら話しかけた。

「さくら…さんですか。店の名前ですね。」

「ええ、店は漢字で書いてあるけど、私の本名はひらがな。」

「ああ、それで桜の写真が…。いいですね。」

「主人が趣味で撮ってるの…。」

とりとめのない話の後、会話が途切れた。

「お客さん歌はうたわないの…。一曲お願いできない…。静かで寂しいじゃない。何がお得意?」

ママに言われて、私は石原裕次郎の曲を歌った。最近は不景気で街へ出ることも少なくなったので、カラオケは久しぶりであった。

「お上手ですね。お隣に座っても…、いいかしら。」

カウンターの奥に居た女が声をかけてきたので、私は頷(うなず)いた。

「私もビールをいただくわ。」

女はビールを受け取ると、私のグラスにビンの口を向けた。私が躊躇していると、

「大丈夫ですよ。この女性(ひと)はうちのお常連(きゃく)さんで素性の知れた人だから。」

ママが笑いながら声をかけた。

女は「さつき」と名のった。五月に「さつき」とはできすぎた名前だと思った。私も五月人形の「金太郎・坂田の金時」にあやかり「坂田」と名のった。

女は丸顔ではあるが切れ長の目をした整った顔立ちの美人だった。薄化粧には不釣合いなピンクの口紅が、桜の花びらのように目に映り、不思議な色香を漂わせていた。

「さつき…さんは、いつも、お一人で飲んでらっしゃるのですか。」

「ええ、主人が仕事の付き合いで、ほとんど家にいないものですから、時々ここで…。坂田さんは、こういうところに、よくいらっしゃるんですか」

「私は、滅多に街には出ませんよ。今日は会社の歓迎会があったもので…」

「あら、それじゃお仲間の方とご一緒でなくてよろしいのですか。」

「みんな何処かへ行っちゃいましたよ。」

「置いてきぼり…ですか。」

「一次会が終わると、主役の新入社員がいなくなりましてね。最近の若い人は会社の仲間との付き合いなんて二の次ですから。私たちの若いころは、先輩から帰っていいと言われるまで帰れませんでしたけれど…。本当に仕事をやっていこうって気があるんですかね。こんなことを言うってことは、私も歳をとったということですか…。」

「そんなことはありませんわ。坂田さんまだ四十二、三歳…でしょう。」

「いやいや、もう五十を過ぎましたよ。」

「まあ、お若く見えますわ。今度何処かで女性とお話するときは、四十歳と言っても大丈夫ですわよ。」

女はけらけらと笑った。笑うと右の頬に笑窪ができた。私は久しぶりで気分が華やいでいた。

 

昔、桜の花が満開のころ、友人と三人で女の子に声をかけたことがあった。見知らぬ女性と話をするのはあれ以来だ。ぼんやりと十九歳の春を思い出していた。

高校を卒業して、すぐのゴールデンウィークだった。私は地元の会社に就職していた。角田は札幌の警察学校に入学し、高山は東京の大学に進学した。それぞれの生活が始まってから、初めて彼らと会っていた。まだ子どもだった私たちは緑ヶ丘公園のボート乗り場のベンチで、それぞれの今の生活について、夢中になって、報告しあっていた。

そのうちに、プレイボーイ気取りの高山が、桜の花びらの舞い散る中を歩いてきた二人連れの女の子を見つけて声をかけた。

一人は小太りで、「明子」と名乗った。もう一人は細身でではあるが丸顔の髪の長い女の子で、「かほる」という名だった。

高山とかほる、角田と明子がそれぞれボートに乗った。ボートは二人乗りのため、私は岸辺のベンチで彼らをぼんやりと見ていた。池には桜の花びらが敷き詰められたように浮かんでいる。水面を進むボートは、揺らめく光を浴び、アメンボウのようであった。

それから、私たちは動物園に行って、観覧車に乗った。眼下に広がる眺望(けしき)はピンクのボンボリを散らしたようだった。観覧車は四人乗りのため、今度は角田が下で私たちを見上げていた。高山と明子が大声で話しに興じていた。私とかほるはほとんど会話がなく彼らの話に微笑むばかりであった。観覧車を降りてからは園内を歩いて、サルを見たり、象を見たりして、他愛もない時間を過ごした。かほるは大人しく、ほとんど話はしなかったが、うつむきがちの彼女の横顔が印象的であった。

 

「どうなさったの。ぼんやりして。奥様のことでも思い出していらっしゃるの…。野暮ですわ。私、そんなに魅力がないかしら。」

さつきが少し拗ねたそぶりで話しかけて笑った。口元に微笑をたたえながらその目は何処か遠くを見ているようであった。

「そんなことはありませんよ、あなたは、とても魅力的です。私なんかがお話させていただいているのが不思議なくらいです。」

「まあ、お上手ですこと。坂田さんって、いつも、そんなことおっしゃって女性を口説いていらっしゃるのじゃありませんか。」

「とんでもない。一人で、こういうお店に入るのも、こんな美人に話しかけていただいたのも、初めてで、少年のように震えていますよ。」

「あらあら、ますます、お上手ですこと。」

「いやいや、本当のことですから。」

少しの間、会話が途切れた。

「煙草を吸ってもいいかしら。坂田さんは、お吸いにならないの。」

「私は吸いませんが、どうぞ。」

さつきは金色(ゴールド)のシガレットケースから外国製らしい煙草を取り出してくわえた。ママが火を点けると、さつきは深く吸い込み、何かを押さえ込むように、細く長く時間をかけて煙を吐き出した。

さつきと出会って数時間後、私たちは、ホテルの一室に居た。彼女は今、シャワーを浴びている。私は何をしているのだ。今まで、妻以外の女性とは一度も関係を持ったことがないのに、どうしてこんな処にいるのだ。心臓の鼓動が耳に聞こえてくるほど、ドキドキしていた。

正確には、結婚してからは妻以外の女性とは関係を持ったことがないといったほうがいいだろう。実は、結婚前に一度だけ、同じようにドキドキしていたことがあった。それは、一九歳の春に出会った「かほる」である。

 

桜の花の下で出会ってから、数週間後の六月の初めのことであった。街で偶然に彼女と出会って、お茶を飲んだ。私は、中古の自動車(くるま)を買ったことを話した。

「ドライヴに連れて行って。」と、その時、彼女から誘われ、出かけたことがある。

北海道の六月の初旬は正に芽吹きの季節で、目に沁みるような緑が大地の中から一斉に湧き上がる。そんな生命力に溢れた緑の中を、阿寒湖を目指して自動車(くるま)を走らせた。日曜の朝である。

「私、中学のときに、母さんが再婚して、今は定時制高校に通学しているの。父さんは、小学校に入る前に死んじゃったの。病気だって…。何の病気かは、母さん、教えてくれないけど…。」

かほるが、自分のことを話し出した。

「今の父義(ちち)は、いい人なんだけど、なんか家に居辛くて…。だから夜、定時制に通って、義父にあう時間を少なくしようと思って…。義父は、普通高校に行けって言ったんだけど、遠慮しちゃったんだよね。」

「…。」

私たちは、阿寒湖で遊覧船に乗って、チュウルイ島のマリモを見た。ボッケと呼ばれる温泉がふつふつと湧き出しているところにも行った。ボッケの周辺は地温が高いので冬でも雪が積もらず、一年中コオロギが鳴いている。虫の生命力は、環境に順応して独自の生活サイクルを形成しているのだ。

湖面を渡る風はまだ冷たい。咲き遅れた数本の桜がまばらに花をつけている。湖畔の遊歩道を、手もつながずに歩いた。言葉少ない時間は、ゆっくりと流れた。温泉街に戻ってラーメンを食べた。私たちは楽しい時をすごした。かおるは笑うと右の頬に笑窪ができるが、少し悲しげに見えるのが不思議だった。

帰り道、今まさに沈もうとしている赤い大きな夕陽に向かって私は車を走らせていた。

「モーテルに寄ろうよ。」

かほるが突然言い出した。

「ちょっと待ってくれよ。突然そんな…。俺たち、まだ、そんな…」

私は狼狽していた。

「私が嫌い…。」

かほるが思いつめたような瞳で、私を見つめた。

「じゃあ、ちょっとだけ…。」

私は意味不明な言葉で返事をした。私も彼女のことは嫌いじゃなかったし、一九歳の少年にとって拒否できるはずのない提案であった。

かほるが、シャワーを浴びている。女の子とモーテルの一室にいて、どうしたらいいのか、分からず、私はただドキドキしていた。

「一緒にお風呂に入ってくれないの。」

かほるが、大人びた声で、言った。

「はい。」

私は、子どものような返事をして、誘われるままに、浴室に入った。

そこには、湯気にかすむ、少女の直線的な白い裸体があった。私にとって、年下であるかほるが、眩いばかりの女に見えた。

私はベッドの上で、気持ちが昂ぶり興奮していた。しかし、何故か手足は硬直して、身動きできずにいた

「オレ…、初めてなんだ。」

乾いた喉の奥で呟くように私は言った。

「私も…。」

かほるの声も震えていた。

それから、二年くらいたったころ、警察学校を卒業して、警察官になった角田が帰って来て酒を飲んだ。その時、かほるが自殺したことを聞いた。四国で海に入ったと言うことであった。私と阿寒湖に行った日から一年ほどたった頃らしい。「あの日の桜はとても綺麗で忘れたことはありません。」と私たち三人と緑ヶ丘公園で会った日のことを書いた遺書があったそうである。

私の中で、何処か翳(かげ)りがあったかほるの横顔と彼女の死が冷静に結びついていた。

角田の話によると、かほるの実の父親も自殺したらしい…ということであった

 

「一緒にお風呂に入ってくれないの。」

浴室から、さつきの声がした。

「はい。」

私は、慌てて子どものような返事をして、浴室に入った。そこには、湯気にかすむ、艶やかな曲線の白い裸体があった。

バスタオルで身体を拭きながら、さつきが呟(つぶや)くように、話し始めた。

「私の母親、今頃の季節、四国で自殺したって…、祖母が今日教えてくれたの。私は生まれたばかりで母親が死んで祖母に育てられたので母親のことはまったく覚えてないの。祖母は、私も自殺するんじゃないかと心配でずっと言わなかったらしいの。だけど、もうこの歳になったら大丈夫だろうって、話してくれたみたい…。ちょっとショックだったわ。本当なのかな。最近、祖母も少しボケが始まったみたいで、私の名前と母の名を、よく間違えるし…。」

身体を拭き終えた私たちは、冷蔵庫のビールの栓を抜いて、一口飲んでベッドに入った。

「実はね、私、三月生まれなの。だけど、名前はさつき。変でしょう。三月生まれならやよいが普通よね。私は父親がいない私生児だから母が名前をつけてくれたらしいの。父親のことは、祖母がいくら聞いても母は何も言わなかったらしいわ。五月に、何か特別の想い出でもあったのかしら…。もちろん、聞いたわけではないから本当の理由は解らないけれど、そんな気がするの…。」

そう言いながら、さつきは身体を摺り寄せてきた。その目には涙が溢れていた。

「私、知らない人とこんなことになるなんて…、初めて…。坂田さんに会ったときから何故か懐かしい人に会ったような気がして…。母のこと、誰かに聞いてほしかった。言ってしまわないと、私まで母のように壊れてしまうような気がして。」

そう言うとさつきは、ウッと声を押し殺して肩を震わせた。さつきの左乳房の下には、桜の花びらほどの濃いピンクの痣があった。

桜の花の妖気が媚薬のように私を錯乱させていた。私は現実と妄想が交錯した世界を漂っていた。桜色の恐怖が私の乾いた脳に水が沁み込むようにじわじわと広がっていった。

私はさつきを抱きながら、かほるの左乳房の下にも、桜の花びらほどの濃いピンクの痣があったことを鮮明に思い出していた。

さつきと別れた私は、夜の帷(とばり)の中へ歩き出して、背広の襟を立てた。もちろん、さつきの母親の名前を聞く勇気など、私にはなかった。花冷えの空気が刺さるように、皮膚に沁みた。雑踏の中を歩いていながら、行きかう酔っ払いの声が遠くからかすかに聞こえている。私の存在は次第に小さくなり、意識は漆黒の闇の中に黒い点となって吸い込まれていった。背中で、はらはらと桜の花びらの散る音が聞こえたような気がした…。

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年賀状切り絵(谷間の小ネタ)

2008-12-05 10:14:03 | 雑学・豆知識・うんちく・小ネタ

「牛溲馬勃」牛に対する四文字熟語は、あまりいいものは見つかりません。そこで中でも酷いのを選んで見ました2009png

「ぎゅうしゅうばぼく」牛の小便、馬の糞と云う意味で。汚いもの、役に立たないものと云うことです。

しかし、近年バイオテクノロジーの発達により、家畜の糞尿からガスを採取にて使用したり、牛の糞からはペレットと云う細かい木屑のようなものが作られ、実用化されています。灯油の高騰もあり、私の住む道東のホームセンターでは、かなり注目を浴びていました。

役に立たないと思われていた物が役に立つ時代、おまけに家畜がいる限り、資源は無尽蔵です。

糞爺、糞婆などと呼ばないで、お年寄りにも優しく接してください。あなたの知らない、いい知恵を持っているかもしれませんよ。

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倉内佐知子

「涅槃歌 朗読する島 今、野生の心臓に 他16篇(22世紀アート) 倉内 佐知子 22世紀アート」

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