都月満夫の絵手紙ひろば💖一語一絵💖
都月満夫の短編小説集
「出雲の神様の縁結び」
「ケンちゃんが惚れた女」
「惚れた女が死んだ夜」
「羆撃ち(くまうち)・私の爺さんの話」
「郭公の家」
「クラスメイト」
「白い女」
「逢縁機縁」
「人殺し」
「春の大雪」
「人魚を食った女」
「叫夢 -SCREAM-」
「ヤメ検弁護士」
「十八年目の恋」
「特別失踪者殺人事件」(退屈刑事2)
「ママは外国人」
「タクシーで…」(ドーナツ屋3)
「寿司屋で…」(ドーナツ屋2)
「退屈刑事(たいくつでか)」
「愛が牙を剥く」
「恋愛詐欺師」
「ドーナツ屋で…」>
「桜の木」
「潤子のパンツ」
「出産請負会社」
「闇の中」
「桜・咲爛(さくら・さくらん)」
「しあわせと云う名の猫」
「蜃気楼の時計」
「鰯雲が流れる午後」
「イヴが微笑んだ日」
「桜の花が咲いた夜」
「紅葉のように燃えた夜」
「草原の対決」【児童】
「おとうさんのただいま」【児童】
「七夕・隣の客」(第一部)
「七夕・隣の客」(第二部)
「桜の花が散った夜」
お盆はいかがお過ごしでしょうか?
暑い日が続いていますので、ちょいと涼しげなお話を・・・。
ある夜のこと、店はもう閉まってしまった麹屋町を、スーッと静かに歩く女がいました。女は飴屋の前で立ち止まり、戸を叩きました。
「もうし・・・。開けてください」
ヒューっと吹いた夜風に吹き消されそうなか細い声でした。
「もうし・・・。開けてください」
女は何度も戸を叩きました。
渋々、飴屋が戸を開けると、なんとも影の薄い女が立っていました。
「飴をひとつくださいな・・・」
女は一文を差し出して言いました。
飴屋は飴を渡し、銭を受け取った。そのとき、女の手に触れた飴屋は思わずゾクと身震いしました。
女の手は氷のように冷たかったのです。
翌日も翌々日も女は店が閉まった同じ時刻に現れ、毎日、一文の飴を買っていきました。
五日、六日、やがて七日目の夜となりました。
この夜に現れた女は、いつもにもまして影が薄かったのです。
「銭はもうございませんが、どうかひとつ飴を恵んでください」
その物言いはとても悲しげでした。
飴屋は何か事情があるのだろうと、女を哀れに思い飴を恵んでやりました。
翌日もさらに翌日も同じ時刻に女は現れ、同じように飴を乞うのでした。
飴屋はとうとう不思議に思い女の後をつけていきました。
女は寺町通りの禅林寺角から、揺れるようにふらふらと歩き若宮通りへ向かっていきました。
道は緩やかな坂道となって折れ曲がり、女は光源寺の山門をくぐりました。そして、女は墓地の方へ向かいスーッと姿を消したのです。
気味が悪くなった飴屋は住職を起こしてことの次第を語りました。
住職が飴屋を伴い、本堂裏の女が消えたあたりに行ってみると新仏を埋めた場所から声がしました。
「おぎゃあ・・・、おぎゃあ・・・」
それは、赤子の泣き声でした。
住職は急いで人手を集めて掘り起こしました。
「・・・」
掘り起こした棺桶の中には、女の亡骸に抱かれた赤ん坊がいました。
女は乳の代わりに、飴を赤ん坊に与えていたのです。
この新仏は彫刻師・藤原清永が葬った女でした。清永が上方で修行中に恋仲になった女ですが清永は長崎に呼び戻され、親の決めた女と結婚してしまいました。それとは知らぬ女は清永の子を身篭った身体で長崎まで追ってきたのです。長旅のあげく、ことの次第を知らされた女は悲しみで亡くなったのだそうです。
女は死んでから、棺桶の中で子を生んだのです。その子は清永に引き取られ無事成人したということです。
飴屋が受け取った六文は、棺桶に入れた三途の川の渡し賃だったのです。
この赤ん坊が掘り出されたといわれるあたり、本堂裏の墓地の中に赤子塚民話の碑があるそうです。
長崎市伊良林1の光源寺に伝わる話です。徳川吉宗の時代の出来事です。
時代を特定できるのは、この寺には藤原清永作といわれる幽霊像があり、毎年8月16日にはご開帳があるそうです。
したっけ。