20年間、プロ野球の投手として、日本はもちろん、アメリカメジャーリーグにも君臨し続けた黒田博樹投手。
日米通算203勝という勲章を胸に、いよいよカープのユニフォームを脱ぐ日が目の前に来た。
最後の晴れ舞台が、2016年の日本プロ野球の王者を賭けた日本シリーズというのも、なんかしら黒田投手の実績にふさわしい舞台ではある。
勝敗の行方は、残念ながらあの強い広島カープが「ひと休み」した感じの試合で敗戦となり、勝ち投手としての有終の美は実現しなかった。
が、もちろん敗戦投手などではない。黒田らしく、自分の持ち場はしっかりと守り、後続に引き継いだ。
勝てば32年ぶりの日本一に王手をかける第3戦。現役生活最後、野球人生の集大成となるかもしれないマウンドで、黒田は日米球界のトップに君臨した自らの姿と価値を、投球で存分に示した。とりわけ、大谷との初対決では敵地が大きく沸いた。
アメリカで生まれた野球。いわゆるベースボールは、義理とか人情といった日本人の心の原点などあまり関係しないスポーツだと思っていた。ところが、黒田選手に関しては、まさに日本の心、日本人の持つ優しさや秘めた勇気を体で示す、男の中の男を感じさせてくれた。
そういった心の動きを、世界中の人々に感動という形で伝えた。
単に広島カープの人気上昇にとどまらず、プロ野球人気を底上げした功績は、国民栄誉賞ものである。
ところが、彼は淡々として「柄にもないこと」と断るに違いない。
今年の日本シリーズのもう一つの面白さは、高校卒の4年目22歳の「大谷」という二刀流の存在である。
文字通り、投手としてはエース級。打者としてはクリーンアップ。敵ながら、声援を送りたくなる面白さを秘めている。
「この日本シリーズはあまり活躍するなよ」と内心祈りながら、あの甘いマスクぶりを眺めている。
やがては黒田に匹敵するプロ野球の顔になるに違いない。
一刀の当主として登板した初戦は、カープの底力の前に脱帽した。
そのお返しとばかりに、も一つの一刀の打者として、昨日は黒田投手相手に一歩も引かなかった。
それどころかついには決勝打のヒーローとなったのである。敵ながら天晴。
一休みしたカープ。今夜はまた今年の普段通りの野球を取り戻し、勝って王手をかけることを期待しよう。
黒田投手お疲れ様。背中で教わる部分は短かったルーキー岡田が、今夜はがんばってくれるのだろう。