「今日のヒーローはもちろんこの人。9回、サヨナラヒットを打った堂林翔太選手です」と、少し上ずったアナウンサーの声が、超満員で膨れ上がったマツダスタジアムに流れる日を夢見ていた。
待って待って待ち望んだその日がやって来た。夢ではない。満面の笑顔の堂林翔太選手がお立ち台に立っている。
外野席の高いところでは、背番号7のユニフォームを懸命に振りながら、顔をクシャクシャにして涙を流すおばちゃんの姿がアップされる。
テレビの前の私も涙腺がゆるみ、思わず一筋の涙が頬を伝う。
近くの由宇球場へ二軍戦を見に行くと、必ず堂林選手がいた。「ここで日に焼けとったらいけん、早うナイターの仲間になりんさい」と、顔を見るたびに心の中で叫び続けてきた。かつてはレギュラーを張り「やがてカープの看板選手」と目され脚光を浴びた男である。
長い人生、光と影は誰にもある。大きな挫折を味わいながらも、野球一筋、カープ一筋で10年間頑張ってきた男である。
このたび第三子の誕生によって、文字通り三児の父親、家族5人の所帯主である。生活がかかっているのは言うまでもない。
ここ数年は「戦力外通告」の陰が忍び寄る厳しい状況におかれてきた。
今シーズンもバッターボックスに立つたびに「ここで1本打て!打たなきゃ来年はないぞ」と何度も思って、我が子の如き声援を贈ってきた。
しかし、なかなかその願いは届かなかった。そのたびに「戦力外」という言葉が大きく聞こえるようになっていた。
そんな背水の陣、切羽詰まったところで、大観衆はもちろん、監督を、首脳陣を大喜びさせる仕事を一つ、やってのけた。
どうかすると、選手生命をつなぎとめ、家族を養う、大きな原動力となるかもしれない一本のヒット。価値あるヒットである。
昭和30年代から平成の時代を、汗とともに生きた私たちの目には、栄光とどん底を味わうと、妙に絡み合う部分がある。
さあこれから、再びの脚光を目指せ、堂林翔太選手。