桑の実(桑イチゴ)
貧しい時代ではあったが、子供も大人も生き生きと、輝きながら暮らしていた。
そんな記憶は単なるノスタルジアなのだろうか。
皆が貧しかったから、特別貧しさを恥ずかしいなどとも思わなかった。
虚栄心や、見栄を競い合う事もなかった。テレビどころではなく、ラジオさえまともに無かった時代に、
子供の時代を生きる事が出来た事は、負け惜しみでは無く幸せだったと思う。
子供達は天気さえ良ければ表で遊ぶ。晴れた日に家に閉じこもっているのはかなりの変わり者だ。
そして、子供たちだけで遊んだ。
夏になると、桑畑に潜り込む。桑の甘い実を食べるのだ。お菓子を買うなんて、贅沢は考えられなかった。
畑で運良く甘い桑の実に出会えたら最高の幸せだ。口の周りを桑の実の色で紫色に染め、むさぼり食べた。
蕗の葉を採り、桑の実を包んで絞り、茎を伝い落ちる汁を飲む。
後はアルミの弁当箱に入れて持ち帰っておやつとしていた。
しかし、時代が変わって養蚕よりも手っ取り早いお金稼ぎの手段が次々と生まれて、
養蚕は終り、桑畑は姿を消してしまった。
山の畑に行く途中に、桑畑の名残か、大きな桑の木が何本か有った。
懐かしくて、背を伸ばして採り、間に会わなくなると、軽トラの荷台に乗ってその味を懐かしんだ。