オバンゴ
三月末頃から、長い冬に別れを告げるように急速に雪消えが進み、魚野川の水かさが一気に増える。
越後山脈からの冷たい水に、支流の小河川からのやや温い、水が流れ込み、ぶつかり、
普段より一メートル以上も水位が上がる当りに小魚が群れる。
皮を脱ぎ、鮮やかな色を見せ始めた、「ネコヤナギ」に針を取られぬように気を使いながら、
流れが淀む辺りに仕掛けを投げ入れる。
その静かな流れにまだ消え残る雪の上に立ち、優しい春の日を浴びつつ浮き釣りをするのが春一番の楽しい遊びであった。
その楽しい釣りの餌に使うのが「オバンゴ」である。消えかかったとは言え、
まだ消え残る雪の中からその虫を探すのは至難の技であり、好きな奴はそれなりに結構穴場を持っていた。
「オバンゴ」と言う奇妙な名前のその虫は、ブヨの幼虫の別名で、地下水の涌く暖かい小川や、
同じく地下水の湧く田んぼに一早く姿を見せた。
頭でっかちで、昆虫の特徴の足を備えつつも脇腹にはひらひらとえらを動かしている。
これが冬眠明けの小魚達の大好物。鮠、オイカワ、稀には山女も混じる。
今も昔とはさほど、自然条件は変わらないと思うのだが、堤防の延伸や、淵の消滅などが、
遠い山の姿は変わらないのに、昔とは大きく変化した自然になったのかも知れない。