ふせばり
梅雨明け頃から、夏休みが終わり涼しい風が吹き始める頃までの楽しみの一つに、
鰻を狙う、ふせ針と言う遊びがあった。
色々な鰻漁があったが、小学生の私が先輩に連れられ魚野川で、毎朝眠い目をこすりつつも、
こりもせず続けたのがこのふせ針である。
荒縄に適当な間隔で、五から七本位の大きなタコ糸をハリスにした鰻針を付ける。
いわば「はえ縄漁」である。そして両端に手頃な石をくくり付け、
ここぞと思ったポイントに投げ込み、縄の一端を固定して置く。
時たま投げる際に、針を自分の手に掛けてしまい、医者がかりをする不幸な者もいたようだ。
鰻針には大きな石の荷重がかかるものだから、たまったものでは無い。
鰻の代わりに自分自身を釣ったのでは悲劇的な結末だ。
釣り針には獲物が抜け落ちないような「返し」が付いているから、自分でなんて絶対に抜けない厄介な代物なのだ。
餌はドバミミズ、泥鰌、鮠、カジカ等で、これらの餌の確保も大変な手間仕事だった。
これを夕方仕掛け、朝、夜も明けやらぬ内に起きだし引き上げる。二人のうちどちらかには必ず釣れていて、
水上げが無い日は殆ど無かった。
味は言わずもがな、最高の天然物である。連絡すれば簗場でも、仕出屋でも高価で引き取ってくれた。
そんな遊びを止め、天然遡上の鰻が減ったと聞いて久しい。
いや、それどころでは無く、鰻養殖に使う稚魚「シラス」が減ってしまい、日本鰻は絶滅危惧種にさえなったらしい。