缶ビール(その1)
缶ビールのタブをプシューッとばかりに引き抜くと、大勢の人たちが振り向いた。
東海道新幹線が東京駅を離れてから、少しの時間しか過ぎていない。
フルムーン山陰山陽四国の旅だった。集合場所は東京駅八重洲口。
そこまでは上越新幹線を使ったのだが、すでにそこからフルムーンの旅。
グリーン車で日常生活からの解放気分を味わいながら出発したのだが、妻の気持ちも考えて、
ビールは我慢していたのだ。
集合場所でフルムーンの旅の参加者全員を確認し、再び新幹線のグリーン車の乗客となったのだったが、
ここまで来たら遠慮することも要らない。乗車寸前に買い込んだ缶ビールを開けたという訳だ。
太宰治の「富士には月見草が良く似合う」でも無いが、旅には「缶ビールが良く似合う」のだ。
私が立てた音に気付いた何人かが、見習って車内販売からビールを求めて仲間に入った。
そう、参加者はご存知のように男女のペアであり、その中の男性の一割、いや二割ほどだったか。
(続く)