髪が足の指に絡む
妻の髪だろう
細いのにしつこくしがみつき取れない
足から外すと 手の指に巻きつく
まるで生きているように
風呂場の排水口から ゆるゆると湧き出・・・ じわじわタイル床を這う
動きは早くはない
髪は増え やがて床を覆い 足をよじ登る
妻の髪で身動きが取れなくなる
このままでは死んでしまう
ああ
生きては いられない
いや
わたしは死んだのだ
何故なら 妻に置いていかれたから
病院で妻は死んだ
持病が急に悪化したのだ
穏やかな死だった
だから妻が祟ろうはずはない
わたしは 妻の居ない世界に生きていたくなかった
四十九日が済み 妻の骨を 墓へ入れた
さっぱりした気性の妻は 迎えには来てくれないだろう
きっと あっさり死んだままだ
だから妻の髪を指に巻き付け 風呂場の窓から柘榴の花が咲いた庭を眺めながら わたしは死んだ
妻の後を追った
追おうとした
したが 風呂場を離れられない
わたしの妻への執着が 妄執が ここへ縛り付ける
わたしが恋しいのは 妻の髪ではなく 妻だと言うのに
寂しい 淋しい さびしい サビシイ
わたしの身体は朽ちたのに
この場を離れられぬ
だが 妻は わたしのこのサマを見たら
ードジねぇー
と笑い転げるに違いない
妻は笑い上戸であったから