僕が暮らした人達は 随分美しい容姿をしていた
しかし彼らは 僕が十歳になった時 姿を消した
迎えにきた僕の祖父だと名乗る人間に連れられ 長い旅をした
祖父の真太郎は 僕を育てた二人は もうこの世にはいない
死んだのだと言った
祖父には三人の娘がいて僕の母親は長女だった
玲(あきら)と優希は その妹たち
僕からすれば叔母になる
「あの二人は 精一杯のことをした」と祖父は言う
子供だった僕は分からないまま納得するしかなかった
一度 広いががらんとした人の気配が余り感じられない家へ 祖父は連れていったが
僕は全寮制の学校へ入れられた
家庭が無くなり寂しくはあったが
過ぎる年月のうちに慣れた
祖父は まるで出来るだけ僕を家から引き離しておきたいと思っているようだった
その祖父は僕が大学を卒業するのを待っていたかのように死んだ
卒業式を控えた日 弁護士が会いにきた
祖父の死と葬儀が 四十九日まで既に終わっていることを知らされた
そこそこの金持ちであることも
遺言には 普通に生きて居られるものなら 祖父の家へは戻らず 朽ちるに任せるようにとあった
不幸にして そういかなかった場合は 別の書類を弁護士に預けてある
しかし それらは必要ないように願っていると
弁護士も言う
「人間は普通が 平凡が一番なのです」
一体 自分は何なのか
戸籍の父親の欄は空白のままだ
だいたい 普通に生きられなくなったらーとは 何なのだ
唐突にいなくなった玲と優希
世の中に家族がいない人間など幾らもいるだろう
納得して生きていけばいい
それはそうだが