オマエ バカ オマエ バカ
闇は怒っていた 坂浦実保子を罵倒する
オマエ ツカエナイ ツカエナイ ツカエナイ ニンゲンハ イラナイ
七十歳を超え 体の不調を感じることも多い実保子
美容整形の繰り返しで皮膚はごわごわーしているような気もする
思う美しさは得られなかった
願う愛も得られなかった
子供たちは彼女から逃げる
たった一人の娘の陽子は ついには出家してしまった
「お母様の犠牲になった方々の菩提を弔うのです」
冷たい目の娘
それでも「若さ」を持っている
ーあの体なら まだ生きられる まだ使えるー
実保子は闇の力を利用して自分の体を捨てて 娘の体を乗っ取ろうーと思いつく
闇は それを面白がった
騙して誘い出しー
鬼畜 非道なことができるのだろうか
母親に
実保子は 若い頃の巴弥都真太郎そのままの竹丘真を見てしまった
かなわなかった恋 虚栄心
美しいマツエに盗まれ奪われた
夫となると親同士の決めた子供の頃からの婚約者
自分をこんなにしたのは マツエだ
憎い!
とうとう手に入れられなかった真太郎
それならば それならば
あの真を もらうは当然
私が産んだ陽子は もともと私の体から分かれた
ならば陽子の体は私の体と同じはず
老いぼれ古び醜くなった使い勝手の悪い体を捨てて
寺の中にいられては手を出しにくい
誘い出すことを計画する実保子
陽子は母親の秘書をしていた時に 実保子が得たいのしれないモノを使い人を消滅させる様子を見た
気をつけていれば 母親は随分恐ろしいことをし 誰もいないところでも何かとしゃべっていた
警察に言っても証拠がない 信じてはもらえないだろう
それに母は金の力で警察や政治家にも 怪しい輪を広げていた
あと 母親を告発するのはためらわれた
母親が陽子を政略結婚に利用していると知った時 これ以上は無理だと思った
母親のしていることに目を瞑り 陽子は逃げた
母親を止められない自分の罪
すがったのは寺
尼として生きてきた
静かな日々を過ごしてきた
それが母親からの謝罪の手紙
ー実は重病で長くない
入院する前に会っておきたい
出てきてほしい
死ぬ前に聞いてほしい 娘としてが無理なら 仏に仕える者として
哀れと思ってー
陽子の 陽秀尼の心は揺れた
坂浦陽子は子供の頃から およそ母親の自分への愛を感じたことがない
幼い頃からに死んだ父親の記憶もない
母親は仕事で家にいたことが殆どなかった
使用人に育てられた 入れ替わる家庭教師
周囲にいたのは他人ばかり
泣き虫だった弟の保は 母親が社長であること 家に金があることで いつの頃からか自分も偉いと勘違いし 何をしてもいいーと思い込み へたれなくせにやたらと威張る遊び好きの情けない人間になった
母は
それでも女手一つで育ててくれた 男と堂々と渡り合い 多くの人間をまとめて 使って 偉いとーだからいなくても 会うことがなくても 陽子は「おかあさんは偉い」と尊敬の気持ちがあった
しかし しかし
いつからだろうか 陽子は気付いてしまった
秘書として同じ会社で働くようになり 様々な書類にも 母のプライバシーにも触れるようになってきた
酔ってもらした母の言葉ー
母は哀しい女性なのかもしれない
だからと言って母の犯した罪が消えるとは思わないが
陽秀となって随分になる
産んでくれた人なのだ
けれど陽秀は保険をかけた
坂浦実保子という人間の恐ろしさを知るがゆえに
「わたしも年をとったのよ 保はあの調子だし 」
母からの手紙にあった言葉
それを信じられたらいいのにーと陽子の陽秀は思う
「繭の見る夢」-総力戦ー2 ↓
http://blog.goo.ne.jp/yumemi1958/d/20130821