四人の王子がおりました
四人の王女がおりました
それゆえに この物語は始まるのです
いいえ それより ずっと昔に始まっていたのかもしれません
大陸の海に面した国二つ 先祖の代の何処かで血のつながった国ゆえに その平和は保たれておりました
レイダンドの国の先王ランデールは勇名高く 王妃クリスタベルは美しく
されど好事魔多し
二人の間の子供はさらわれて行方不明に
哀しみ嘆きのうちにクリスタベルは病死して ランデール王は戦場で受けた傷がもとで落命
ランデール王の弟ディスタンがレイダンドの王となり 妃のミュゼランとの間には四人の娘が生まれました
ただ王妃ミュゼランは末娘のリザヴェートを産んで間もなく亡くなりました
それから月日は流れて 四人の姫はそれぞれ美しく成長しました
いつも落ち着いており聡明な一の姫 マルレーネ
華やかな美女でありながら「猛々しき姫」と呼ばれる二の姫 エルディーヌ
お人形のように大きな瞳の夢見がちな乙女 三の姫 アシュレィン
すぐ上の姉姫が余りにも浮世離れしているものだから その反動でかひどく現実的な四の姫 リザヴェート
この姫達を大切に慈しんで育てたのはリザヴェートの乳母もした女官長のメリサンド
メリサンドの悩みの種は リザヴェートと乳姉妹になる娘のロズモンド
姫達の護衛としての腕を磨きすぎてー女官というより武官に近い
「そんなことでは一人前の女官とは申せません」
と元気過ぎるロズモンドを叱る言葉が口癖のようになってしまっているメリサンドだった
ディスタン王は跡継ぎの王子がいないことから 四人の王子がいるブロディル国に縁談を申し入れた
互いに四人ずつの子供達
同盟を強める為にも
かくして四人の王子は旅をする
一見穏やかだが中々食えないところもあり女性の扱いにも長ける第一王子 アンドール
見た目は優男の超絶美男だが兄弟の中では一番好戦的な第二王子 ロブレイン
おおらか~~~な性格の第三王子 リトアール
誰にでも優しいけれど その実 何を考えているかわからない第四王子のダンスタン
それぞれ髪の色も瞳の色も 身長さえ違い ばらばらの外見なのに 一緒にいるとやはり兄弟な四人の若者達は
「もう誰でもいいから 一人でもいいから いい加減にまとまって!」と悲鳴のような母親の叫びに送られて レイダンドへ向かった
美しい四人の姫の噂は海を越えた国にも届いていた
平和で豊かな国レイダンド
そして強いランデール王は・・・もういない
野望の前には荒れる海も何の障害にもならない
恋と戦いと 王子様とお姫様
となれば 昔々のお話には魔法使いもいなくては
主役がいなくては お話は進みません
では主役登場
この魔法使い 魔法使いゆえに本当の名前は明かせません
レイダンドには歌うたいのベルナーとしてやって来ます
輝く金の髪に青い瞳持つ美丈夫です
本人の望みかはともかくも魔法使いには秘密が付き物でもあるのです
彼は川辺で落ちていた弓を拾い こうひっぱろうとしましたが・・・・・
背後から声がしました
「それは 私の弓だ 弓もひけないのか」
振り返った魔法使いが見たのはー
緑色を帯びた不思議な輝き放つ栗色の髪と金色の中に緑色が弾けて輝く瞳の娘
その娘は魔法使いに こうも言った
「見かけない顔だな 何者だ」
「これは!失礼いたしました 歌うたいのベルナーと申します」
魔法使いは優雅に膝を折って挨拶する
「祝い事がある噂に色々な者が来ているらしい
わたしは女官のロズモンド
この国を楽しまれよ」
そのまま立ち去ろうとしたロズモンドだが どういう気まぐれか ベルナーに声をかけた
「長い旅をしてきたのであれば 腹も減っていよう ベルナーとやら魚は嫌いか?」
腰に提げていた袋から 川で捕まえた魚を取りだすと器用に石を並べて焼き始める
様子がひどく手馴れている
それは気取った女官らしくなかった
軽い驚きを魔法使いは覚えている
「ああ 私は変わり者なんだ いつも母から怒られている
ややこしい意味もわからん作法より こうしている方が落ち着く」
焼き上がった魚を魔法使いに渡すと「では これで失礼する これからこの束ねただけの髪をしちめんどうな形に結い上げねばならんのだ」
男言葉を使うロズモンドの女官ぶりを美形の魔法使いは見たくなった
王子を招いての祝賀会で芸を見せる人間を選ぶ集まりで 見事な歌声を披露した魔法使いは入城を許される