ロズモンドが見つけた時 ベルナーは聞いたことがない言葉を両手を広げ空に向かって歌っていた
その不思議な旋律
ベルナーの周囲にだけ風が烈しく吹き荒れている
やがて・・・大きく足を拡げて立っていたベルナーの体が揺れて乱れ ゆっくりと倒れる
ロズモンドが海に目をやると 異国の船団が沖へ向かって流れている
馬を降りてロズモンドはベルナーに駆け寄った
ベルナーはまだ呟いていた「レイダンドの王ランデールとクリスタベルの息子リオデールにして魔法使いのアスタリオンが命じる
・・・・・・行け!疾く去れアクシナティの船団よ 海よ 波よ こやつらを運べ 運び去れ」
瞼は閉ざされ意識も無いようなのに 体もぐったりとして冷たく肌は蒼ざめている
「ベルナー ベルナー」
ロズモンドはベルナーの頭を胸に抱える
「ああ・・・ ベルナー」
ロズモンドにとっては「ベルナー」だった 歌うたいのベルナー
いつも明るい笑顔の・・・
「だめよ 死んじゃ・・・・・ だめよ・・・
笑ってよ いつもみたいに・・・お願いよ・・・」
ベルナーの体を抱いて泣いているロズモンド
メリサンドに教えられた場所に駆け付けたカズール・シャンデ将軍が見たのは そんなロズモンドの姿だった
馬の蹄の音にロズモンドが目を上げる
「君が ロズモンドか」
「あなたは?」
確かに 確かにその瞳は・・・・金色の中に緑の破片がちらばり輝くようなーシャンデ将軍と同じものだった
「多分 君の父親だ」
倒れて動かないベルナー
不意に現れた自分の父親だと名乗る男
ロズモンドからは いつものキレが失われていた 当意即妙の受け答えはできない
それにこんな時に何を言うのが正しいのだろう
「これがベルナーなの 死んだら嫌なの」
まるで幼い子供のような頼りない声しか出ない
ロズモンドは繰り返した「死んだら嫌なの」
人形を受け取るかのようにシャンデ将軍は腕を伸ばした
「なら お医者様にみせなきゃね 大切なベルナーは馬に乗せて運ぼう
さあ お医者様のいるお城へ戻ろうか」
受け取ったベルナーの体を自分が着ていたマントで包み馬に乗せる
それを見てロズモンドは自分の馬に乗った
カズール・シャンデは自分の胸の中で渦巻く疑問はひとまず棚上げにする
アイーシャはロズモンドが自分との娘だと言った
彼女の言葉を疑う理由はない
ロズモンドの瞳を見たからにはー
そんなアイーシャことメリサンドは城の中で四人の王子と姫君達に囲まれていた
「男に縋って泣いていたでしょ メリサンド」
「隻眼ーシャンデ将軍とはどういう御関係なんです」
中々にうるさい
ただカズール・シャンデを見送り城門から城の中へ入るまでの間に もうメリサンドは外見は落ち着いていた
「昔 知っていた人に久しぶりに思いがけず会ったから 気が緩んだだけです」
「だって あんなふうに男の人に縋って泣くメリサンドって初めて見たもの」
諦めないエルディーヌは追及するがー
メリサンドはにっこり微笑む「勿論 わたしだって女ですから 殿方に頼りたい時だってありましてよ」
「でも 長いこと会ってなかった人なのにー」
誤魔化されないという表情のエルディーヌだけれど しれっとメリサンドは答えるのだった
「たとえ百年会えなくてもー信じられる間違いのないお方ですから」
「確かに シャンデ将軍は素晴らしい軍人です」とアンドールが話を引きとる
「父上から聞いたことがあります 将軍の右目はレイダンドで刺客に襲われて失われたと
それから人が変わったと 昔は厳しいところもあるがもっと明るい人柄であったと」
「さあ わたしの事などより なさるべき事があるのではありませんか」
するべき事を思い出させるメリサンド
敵に襲われるのを ただじっと待ち守られるだけよりも できるなら積極的に役に立ちたいお姫様達は
いつ何処で襲われても丸腰でなく さっと身を護る為に使う武器をあちこちに隠しておく手伝いで城を案内している
それぞれに護衛と荷物持ちの王子と従者などを従えて
そういう話になっているのに 自分でも両手いっぱいに武器を持って運んでいるエルディーヌは迷惑そうにロブレインを見る
「いちいち ついて来なくても」
もうエルディーヌの毒舌には馴れたのか涼しい顔のロブレイン「一応 あなたはわたしの担当なのでね」
「一応・・・ね 却って鬱陶しいこと」
「わたしはあなたのそういう歯に衣を着せぬところは嫌いじゃない」口の端だけで笑うロブレイン
どぎまぎしながらも言葉だけは冷たいエルディーヌ「変わった人だこと」
少し離れて後ろを歩くロブレインの従者のアリストは はらはらしながら二人の会話を聞いている
「だから わたしも率直に言うのだが 隠し子なんていないぞ
そんなヘマはしない」
あんのォと小さく唇を噛んでエルディーヌ「全くメリサンドったら・・・・・盗み聞いていただけてー光栄ですわ」
「このグサグサ刺さる ちょっとした刺激が楽しくなってきたよ」と全然こたえないロブレインは今にも大声で笑いだしそうだ
言い合いかじゃれ合いか分からない会話をしながら あちこちに武器を隠していく
本の部屋でエルディーヌは懐かしそうに一冊の本を手に取った
「それは?」
尋ねるロブレインにこれは珍しく素直なエルディーヌ
「レイダンドはフレイダから分かれた国なの ううんフレイダから始まったというか
これはそのフレイダの物語なの
フレイダのアデリス 不敗の処女王 数々の冒険をした
髪は輝く黄金の波 時に燃える炎のような黄金の瞳
艶やかに赤い唇
それはそれは美しくて強い
レイダンド国の始まりの物語
当時のフレイダは周囲の国との戦い絶え間なく
アデリスは行方不明の身内を捜し隣国へ
そのいきがかりで女性らしく美しく装ったアデリスの顔半分を覆うほこりよけの薄布が風で飛んでー行き合わせた隣国の王子は
アデリスの顔を見たの
旅する彼女を追いかけ 自分の身分を隠してアデリスを助けてー
アデリスが何者かを知るの
敵国同士
でも他の国の陰謀やらに手を取り共に戦うこともあり 多くの命がけの冒険や戦いを経て 遂に王子はアデリスと結ばれるの
そして平和が訪れる
おとぎ話だけれどね 憧れたわ
繰り返し読んだものよ
だから あたくしもアシュレインを笑えないわね
夢見がちな可愛いアシュレイン」
さっき一番メリサンドにもむきになってたエルディーヌ
昔の物語に憧れるエルディーヌ
ひどく美しくて冷たそうに見えるのにーその心は 中身はー
夢見る若い娘
得意のキザな言葉も出せずにロブレインはただ言った
「やるべき事を済ませてしまおうか」
その不思議な旋律
ベルナーの周囲にだけ風が烈しく吹き荒れている
やがて・・・大きく足を拡げて立っていたベルナーの体が揺れて乱れ ゆっくりと倒れる
ロズモンドが海に目をやると 異国の船団が沖へ向かって流れている
馬を降りてロズモンドはベルナーに駆け寄った
ベルナーはまだ呟いていた「レイダンドの王ランデールとクリスタベルの息子リオデールにして魔法使いのアスタリオンが命じる
・・・・・・行け!疾く去れアクシナティの船団よ 海よ 波よ こやつらを運べ 運び去れ」
瞼は閉ざされ意識も無いようなのに 体もぐったりとして冷たく肌は蒼ざめている
「ベルナー ベルナー」
ロズモンドはベルナーの頭を胸に抱える
「ああ・・・ ベルナー」
ロズモンドにとっては「ベルナー」だった 歌うたいのベルナー
いつも明るい笑顔の・・・
「だめよ 死んじゃ・・・・・ だめよ・・・
笑ってよ いつもみたいに・・・お願いよ・・・」
ベルナーの体を抱いて泣いているロズモンド
メリサンドに教えられた場所に駆け付けたカズール・シャンデ将軍が見たのは そんなロズモンドの姿だった
馬の蹄の音にロズモンドが目を上げる
「君が ロズモンドか」
「あなたは?」
確かに 確かにその瞳は・・・・金色の中に緑の破片がちらばり輝くようなーシャンデ将軍と同じものだった
「多分 君の父親だ」
倒れて動かないベルナー
不意に現れた自分の父親だと名乗る男
ロズモンドからは いつものキレが失われていた 当意即妙の受け答えはできない
それにこんな時に何を言うのが正しいのだろう
「これがベルナーなの 死んだら嫌なの」
まるで幼い子供のような頼りない声しか出ない
ロズモンドは繰り返した「死んだら嫌なの」
人形を受け取るかのようにシャンデ将軍は腕を伸ばした
「なら お医者様にみせなきゃね 大切なベルナーは馬に乗せて運ぼう
さあ お医者様のいるお城へ戻ろうか」
受け取ったベルナーの体を自分が着ていたマントで包み馬に乗せる
それを見てロズモンドは自分の馬に乗った
カズール・シャンデは自分の胸の中で渦巻く疑問はひとまず棚上げにする
アイーシャはロズモンドが自分との娘だと言った
彼女の言葉を疑う理由はない
ロズモンドの瞳を見たからにはー
そんなアイーシャことメリサンドは城の中で四人の王子と姫君達に囲まれていた
「男に縋って泣いていたでしょ メリサンド」
「隻眼ーシャンデ将軍とはどういう御関係なんです」
中々にうるさい
ただカズール・シャンデを見送り城門から城の中へ入るまでの間に もうメリサンドは外見は落ち着いていた
「昔 知っていた人に久しぶりに思いがけず会ったから 気が緩んだだけです」
「だって あんなふうに男の人に縋って泣くメリサンドって初めて見たもの」
諦めないエルディーヌは追及するがー
メリサンドはにっこり微笑む「勿論 わたしだって女ですから 殿方に頼りたい時だってありましてよ」
「でも 長いこと会ってなかった人なのにー」
誤魔化されないという表情のエルディーヌだけれど しれっとメリサンドは答えるのだった
「たとえ百年会えなくてもー信じられる間違いのないお方ですから」
「確かに シャンデ将軍は素晴らしい軍人です」とアンドールが話を引きとる
「父上から聞いたことがあります 将軍の右目はレイダンドで刺客に襲われて失われたと
それから人が変わったと 昔は厳しいところもあるがもっと明るい人柄であったと」
「さあ わたしの事などより なさるべき事があるのではありませんか」
するべき事を思い出させるメリサンド
敵に襲われるのを ただじっと待ち守られるだけよりも できるなら積極的に役に立ちたいお姫様達は
いつ何処で襲われても丸腰でなく さっと身を護る為に使う武器をあちこちに隠しておく手伝いで城を案内している
それぞれに護衛と荷物持ちの王子と従者などを従えて
そういう話になっているのに 自分でも両手いっぱいに武器を持って運んでいるエルディーヌは迷惑そうにロブレインを見る
「いちいち ついて来なくても」
もうエルディーヌの毒舌には馴れたのか涼しい顔のロブレイン「一応 あなたはわたしの担当なのでね」
「一応・・・ね 却って鬱陶しいこと」
「わたしはあなたのそういう歯に衣を着せぬところは嫌いじゃない」口の端だけで笑うロブレイン
どぎまぎしながらも言葉だけは冷たいエルディーヌ「変わった人だこと」
少し離れて後ろを歩くロブレインの従者のアリストは はらはらしながら二人の会話を聞いている
「だから わたしも率直に言うのだが 隠し子なんていないぞ
そんなヘマはしない」
あんのォと小さく唇を噛んでエルディーヌ「全くメリサンドったら・・・・・盗み聞いていただけてー光栄ですわ」
「このグサグサ刺さる ちょっとした刺激が楽しくなってきたよ」と全然こたえないロブレインは今にも大声で笑いだしそうだ
言い合いかじゃれ合いか分からない会話をしながら あちこちに武器を隠していく
本の部屋でエルディーヌは懐かしそうに一冊の本を手に取った
「それは?」
尋ねるロブレインにこれは珍しく素直なエルディーヌ
「レイダンドはフレイダから分かれた国なの ううんフレイダから始まったというか
これはそのフレイダの物語なの
フレイダのアデリス 不敗の処女王 数々の冒険をした
髪は輝く黄金の波 時に燃える炎のような黄金の瞳
艶やかに赤い唇
それはそれは美しくて強い
レイダンド国の始まりの物語
当時のフレイダは周囲の国との戦い絶え間なく
アデリスは行方不明の身内を捜し隣国へ
そのいきがかりで女性らしく美しく装ったアデリスの顔半分を覆うほこりよけの薄布が風で飛んでー行き合わせた隣国の王子は
アデリスの顔を見たの
旅する彼女を追いかけ 自分の身分を隠してアデリスを助けてー
アデリスが何者かを知るの
敵国同士
でも他の国の陰謀やらに手を取り共に戦うこともあり 多くの命がけの冒険や戦いを経て 遂に王子はアデリスと結ばれるの
そして平和が訪れる
おとぎ話だけれどね 憧れたわ
繰り返し読んだものよ
だから あたくしもアシュレインを笑えないわね
夢見がちな可愛いアシュレイン」
さっき一番メリサンドにもむきになってたエルディーヌ
昔の物語に憧れるエルディーヌ
ひどく美しくて冷たそうに見えるのにーその心は 中身はー
夢見る若い娘
得意のキザな言葉も出せずにロブレインはただ言った
「やるべき事を済ませてしまおうか」