一夜明けて ディスタン王の意向で少しでも親睦を深める為に やや遅い朝食を皆が同じ部屋で摂ることになっている
身支度を整えた王子たちはエスコートする姫を待つ部屋に女官長のメリサンドに案内された
「姫様方は じきに参られます
どうぞこちらで景色でも眺めて暫くお待ち下さいませ」
「忝い お世話をかける」とアンドール
微笑み一礼し引き下がるメリサンド
バルコニーに出て外を眺めてリトアール「なるほど 良い景色だ しかし眠い」と欠伸をする
肩を並べるように立つロブレインは目ざとく庭を歩く歌うたいに目を止める「寝るなよーああ 歌うたいだ 遠目でも目立つな」
「なんだか散歩というより周囲を見回っているようだ」とダンスタン
アンドールも呟く「あの見かけと言い ただの歌うたいと思えない人間ではあるな 実に・・・興味深い」
そんなアンドールにリトアールは明るく尋ねる
「それでどうなのアンドール兄上 マルレーネ姫はとても素晴らしい女性に見えるけれど」
ロブレインものっかる「穏やかで優し気で出しゃばらず控えめで実に実に申し分ない深い美しさがある」
答えないかとも思えたアンドールだが まるで心のうちにマルレーネの姿を浮かべているかのように語った
「幾重にも取り巻く高い城壁・・・その奥にある真実の心
まさに難攻不落ー攻めあぐねるー」
そこに声が聞こえてきた
隣の窓から声は流れてくるようだった
それはー
リザヴェートの声だとダンスタンにはすぐに分かった
「-わたしは ただ誠実に向き合うだけだわ・・・恋の駆け引きとか分からないしー
わたしに一番大切なのは向き合う人間が信じられる相手であるのかどうか
そこから始めるしかできない」
手鏡で髪を確かめていたマルレーネはリザヴェートに寄り添う「その真っ直ぐさはあなたの魅力だと思うわ
羨ましいこと・・・
義務とか立場とか どう振る舞うべきかーそんな事ばかり考えて・・・
素直に欲しいものを欲しいとも好きなものを好きとも言えなくなってしまっててー」
髪を梳いていたエルディーヌも姉に寄り添う
「お姉様は長女の責任に囚われて妹達を庇うように育ってこられたからー
父上はお優しいけれど あの通りのん気だし」
「メリサンドとロズモンドは随分わたし達の慰めになったわ」とアシュレイン
エルディーヌも微笑む「ええ ロズモンドはもう一人のあたくしの妹のよう」
「わたしよりも エルディーヌお姉様はロズモンドと気が合っておられるもの
ところでお姉様はロブレイン様をどう思われているの」とリザヴェート
聞いちゃったわねえーという表情のマルレーネ
恐々エルディーヌを見るアシュレイン
そしてエルディーヌは手の中の櫛を折らんばかりの勢いで握り込む
「あんな暗い冷たい眼をした男はね 隠し子の1ダースも居そうな気がするわ」
(この時 隣の部屋では片手で口を押え 片手で腹を押えたリトアールが笑い死にそうになっていた)
窘めるようにマルレーネ「確かに華麗な容姿のお方だけれどーそれはエルディーヌ あなたもそうだわ
見かけだけを言うのなら あなたもとても華やかよ」
エルディーヌはいじける「あたくしはおとなしく奥方でございますーなんておさまりかえっていられないわ
縫物だって自分の指を針の穴ばかりにするし 刺繍は布がひきつるばかり」
「でもエルディーヌお姉様はとても強いもの 剣だって弓だって上手だわ」
頑張って励まそうとするアシュレインだけれど
エルディーヌは重ねる「強いなんてね 美徳じゃないのよ」
そこにロズモンドが入ってきた「姫様方 お迎えに参りました お仕度はよろしいでしょうか」
振り返ってリザヴェート「あら おはようロズモンド 昨夜は懐かしい歌を歌っていたわね」
応えてロズモンド「歌うたいさんに教えて歌ってもらうように言われましたものですからーお耳汚しでした」
「ううん」と微笑むアシュレイン「おかげで とてもよく眠れたわ」
エルディーヌも明るく笑う「とても素晴らしい声の歌うたいね ひどく美しいし」
楽しい会話はメリサンドの登場で終る
「ロズモンド あなたはお迎えに上がって何をぐずぐずしているのです
そんなことでは一人前の女官と申せませんよ
王子様方は既に先程から お隣のお部屋でずうっと!お待ちでございます」
こ この!とハタと気が付いたエルディーヌ「と・・・隣の間ですって! やったわねメリサンド」
「何の事でございましょう お食事が冷めてしまいます」ととぼけるメリサンド
小声でエルディーヌ「どんどん くえないバーサンになっていくのだから」
メリサンド「聞こえておりますよ」
さて ここで少し時間を戻しましょう
レイダンド国とブロディル国のある大陸と海を隔ててアクシナティという国があります
そこの皇帝コキンタクは かつてレイダンド国の先代王ランデールと戦って敗北
再度 力を貯めて侵略の時を執念深く窺っておりました
各地を略奪しては数多の美女を侍らせる色ボケ欲ボケ皇帝コキンタク
そうした皇帝に皇后のシュランサイは愛情を持ってはおりません
皇女ファナクの母親としての立場と帝国の皇后としての権力こそが大切
武大臣のモウトウゲンも内大臣のボクグジンの両大臣ともが 事あらば皇帝コキンタクを斃し その座にとって代わろうと狙っております
虐げられている民の事を考えている人間は 権力の座にはおりません
更に他国者でありながら将軍となったリシュウライー彼もまた野心家なのでございます
レイダンド国を征服する事に一番の執着を見せているのは この男かもしれません
美女好みの淫乱多情な皇帝コキンタクは かつてレイダンド国王妃クリスタベルの絶世の美女との評判に略奪を試みたのでありました
けれど結果は大惨敗でした
せめてもの腹癒せに卑劣なる暗殺部隊を送り出し・・・ランデール王は遂に毒矢に斃れました
ランデール王の後を継いだディスタン王は隙なく国を守られました
ランデール王によってズタボロとなったアクシナティ国は立ち直るまでに長い時を要してー
レイダンド国の美しい四人の姫の事を耳にして皇帝コキンタクの邪心が燃え上がります
捲土重来・報復の炎が赤々とー
なあんてしつこいのでしょう
美しい美しい四人の姫 中でもクリスタベル王妃と生き写しとも言われるエルディーヌ姫
クリスタベル王妃とエルディーヌ姫の母親のミュゼラン王妃は姉妹でもありました
伯母と姪であるのだから似ているというのも頷けます
昔と違いレイダンド国には名高い手強そうな将軍もおりません
いよいよ海の向こうにもこのアクシナティ帝国を拡げるのだ
この海も全て海の向こうの大陸さえ このアクシナティ帝国皇帝コキンタクのものだーと
愚かなごうつくばりは思い上がります
あれもこれも全てわが物
底無し欲張りの大阿呆は何時の世にも迷惑にも居るのです
自分ばかりに正義があると思い込む我欲ばかりの醜悪な生き物
リシュウライ将軍はコキンタク皇帝をけしかけます
将軍の野望の掌の上で欲ボケ馬鹿皇帝コキンタクは踊ります
レイダンド国の姫達の絵姿にさえ涎を垂らさんばかりの皇帝コキンタクなのでありました
皇后シュランサイは自分に忠実な者ばかりがアクシナティ帝国の都に残れるように画策致します
リシュウライ将軍は言葉巧みにファナク皇女を誘いました
海の向こうの美しい国を観たくはないかと
ーかくして戦いにファナク皇女も同行を願うようになりー
皇后シュランサイは案じるもー
皇帝コキンタクは自分達が負けることはないとの大言壮語
「良いですか もしももしもファナクに何かあれば妾(わらわ)は許しませんよ こればかりは譲れません
お覚悟よろしいですね」
皇后シュランサイは厳しい言葉を皇帝コキンタクに向けました
そうしてファナク皇女には愛情溢れる言葉をかけたのです
「良いですか あなたはこの大帝国の後を継ぐ大切な大切な身です
必ず無事に 生きて・・・戻ってくるのですよ
大切な大切な妾の娘」
皇后シュランサイは娘のファナクをこの戦いに誘った将軍リシュウライには怨恨(うら)みの気持を燃やしております
「余計なことを吹き込みおって!信用ならぬ他国者めが!」
かくしてアクシナティの都を離れ出港してから10日余り・・・彼等は遂にレイダンド国へ達そうとしておりました
身支度を整えた王子たちはエスコートする姫を待つ部屋に女官長のメリサンドに案内された
「姫様方は じきに参られます
どうぞこちらで景色でも眺めて暫くお待ち下さいませ」
「忝い お世話をかける」とアンドール
微笑み一礼し引き下がるメリサンド
バルコニーに出て外を眺めてリトアール「なるほど 良い景色だ しかし眠い」と欠伸をする
肩を並べるように立つロブレインは目ざとく庭を歩く歌うたいに目を止める「寝るなよーああ 歌うたいだ 遠目でも目立つな」
「なんだか散歩というより周囲を見回っているようだ」とダンスタン
アンドールも呟く「あの見かけと言い ただの歌うたいと思えない人間ではあるな 実に・・・興味深い」
そんなアンドールにリトアールは明るく尋ねる
「それでどうなのアンドール兄上 マルレーネ姫はとても素晴らしい女性に見えるけれど」
ロブレインものっかる「穏やかで優し気で出しゃばらず控えめで実に実に申し分ない深い美しさがある」
答えないかとも思えたアンドールだが まるで心のうちにマルレーネの姿を浮かべているかのように語った
「幾重にも取り巻く高い城壁・・・その奥にある真実の心
まさに難攻不落ー攻めあぐねるー」
そこに声が聞こえてきた
隣の窓から声は流れてくるようだった
それはー
リザヴェートの声だとダンスタンにはすぐに分かった
「-わたしは ただ誠実に向き合うだけだわ・・・恋の駆け引きとか分からないしー
わたしに一番大切なのは向き合う人間が信じられる相手であるのかどうか
そこから始めるしかできない」
手鏡で髪を確かめていたマルレーネはリザヴェートに寄り添う「その真っ直ぐさはあなたの魅力だと思うわ
羨ましいこと・・・
義務とか立場とか どう振る舞うべきかーそんな事ばかり考えて・・・
素直に欲しいものを欲しいとも好きなものを好きとも言えなくなってしまっててー」
髪を梳いていたエルディーヌも姉に寄り添う
「お姉様は長女の責任に囚われて妹達を庇うように育ってこられたからー
父上はお優しいけれど あの通りのん気だし」
「メリサンドとロズモンドは随分わたし達の慰めになったわ」とアシュレイン
エルディーヌも微笑む「ええ ロズモンドはもう一人のあたくしの妹のよう」
「わたしよりも エルディーヌお姉様はロズモンドと気が合っておられるもの
ところでお姉様はロブレイン様をどう思われているの」とリザヴェート
聞いちゃったわねえーという表情のマルレーネ
恐々エルディーヌを見るアシュレイン
そしてエルディーヌは手の中の櫛を折らんばかりの勢いで握り込む
「あんな暗い冷たい眼をした男はね 隠し子の1ダースも居そうな気がするわ」
(この時 隣の部屋では片手で口を押え 片手で腹を押えたリトアールが笑い死にそうになっていた)
窘めるようにマルレーネ「確かに華麗な容姿のお方だけれどーそれはエルディーヌ あなたもそうだわ
見かけだけを言うのなら あなたもとても華やかよ」
エルディーヌはいじける「あたくしはおとなしく奥方でございますーなんておさまりかえっていられないわ
縫物だって自分の指を針の穴ばかりにするし 刺繍は布がひきつるばかり」
「でもエルディーヌお姉様はとても強いもの 剣だって弓だって上手だわ」
頑張って励まそうとするアシュレインだけれど
エルディーヌは重ねる「強いなんてね 美徳じゃないのよ」
そこにロズモンドが入ってきた「姫様方 お迎えに参りました お仕度はよろしいでしょうか」
振り返ってリザヴェート「あら おはようロズモンド 昨夜は懐かしい歌を歌っていたわね」
応えてロズモンド「歌うたいさんに教えて歌ってもらうように言われましたものですからーお耳汚しでした」
「ううん」と微笑むアシュレイン「おかげで とてもよく眠れたわ」
エルディーヌも明るく笑う「とても素晴らしい声の歌うたいね ひどく美しいし」
楽しい会話はメリサンドの登場で終る
「ロズモンド あなたはお迎えに上がって何をぐずぐずしているのです
そんなことでは一人前の女官と申せませんよ
王子様方は既に先程から お隣のお部屋でずうっと!お待ちでございます」
こ この!とハタと気が付いたエルディーヌ「と・・・隣の間ですって! やったわねメリサンド」
「何の事でございましょう お食事が冷めてしまいます」ととぼけるメリサンド
小声でエルディーヌ「どんどん くえないバーサンになっていくのだから」
メリサンド「聞こえておりますよ」
さて ここで少し時間を戻しましょう
レイダンド国とブロディル国のある大陸と海を隔ててアクシナティという国があります
そこの皇帝コキンタクは かつてレイダンド国の先代王ランデールと戦って敗北
再度 力を貯めて侵略の時を執念深く窺っておりました
各地を略奪しては数多の美女を侍らせる色ボケ欲ボケ皇帝コキンタク
そうした皇帝に皇后のシュランサイは愛情を持ってはおりません
皇女ファナクの母親としての立場と帝国の皇后としての権力こそが大切
武大臣のモウトウゲンも内大臣のボクグジンの両大臣ともが 事あらば皇帝コキンタクを斃し その座にとって代わろうと狙っております
虐げられている民の事を考えている人間は 権力の座にはおりません
更に他国者でありながら将軍となったリシュウライー彼もまた野心家なのでございます
レイダンド国を征服する事に一番の執着を見せているのは この男かもしれません
美女好みの淫乱多情な皇帝コキンタクは かつてレイダンド国王妃クリスタベルの絶世の美女との評判に略奪を試みたのでありました
けれど結果は大惨敗でした
せめてもの腹癒せに卑劣なる暗殺部隊を送り出し・・・ランデール王は遂に毒矢に斃れました
ランデール王の後を継いだディスタン王は隙なく国を守られました
ランデール王によってズタボロとなったアクシナティ国は立ち直るまでに長い時を要してー
レイダンド国の美しい四人の姫の事を耳にして皇帝コキンタクの邪心が燃え上がります
捲土重来・報復の炎が赤々とー
なあんてしつこいのでしょう
美しい美しい四人の姫 中でもクリスタベル王妃と生き写しとも言われるエルディーヌ姫
クリスタベル王妃とエルディーヌ姫の母親のミュゼラン王妃は姉妹でもありました
伯母と姪であるのだから似ているというのも頷けます
昔と違いレイダンド国には名高い手強そうな将軍もおりません
いよいよ海の向こうにもこのアクシナティ帝国を拡げるのだ
この海も全て海の向こうの大陸さえ このアクシナティ帝国皇帝コキンタクのものだーと
愚かなごうつくばりは思い上がります
あれもこれも全てわが物
底無し欲張りの大阿呆は何時の世にも迷惑にも居るのです
自分ばかりに正義があると思い込む我欲ばかりの醜悪な生き物
リシュウライ将軍はコキンタク皇帝をけしかけます
将軍の野望の掌の上で欲ボケ馬鹿皇帝コキンタクは踊ります
レイダンド国の姫達の絵姿にさえ涎を垂らさんばかりの皇帝コキンタクなのでありました
皇后シュランサイは自分に忠実な者ばかりがアクシナティ帝国の都に残れるように画策致します
リシュウライ将軍は言葉巧みにファナク皇女を誘いました
海の向こうの美しい国を観たくはないかと
ーかくして戦いにファナク皇女も同行を願うようになりー
皇后シュランサイは案じるもー
皇帝コキンタクは自分達が負けることはないとの大言壮語
「良いですか もしももしもファナクに何かあれば妾(わらわ)は許しませんよ こればかりは譲れません
お覚悟よろしいですね」
皇后シュランサイは厳しい言葉を皇帝コキンタクに向けました
そうしてファナク皇女には愛情溢れる言葉をかけたのです
「良いですか あなたはこの大帝国の後を継ぐ大切な大切な身です
必ず無事に 生きて・・・戻ってくるのですよ
大切な大切な妾の娘」
皇后シュランサイは娘のファナクをこの戦いに誘った将軍リシュウライには怨恨(うら)みの気持を燃やしております
「余計なことを吹き込みおって!信用ならぬ他国者めが!」
かくしてアクシナティの都を離れ出港してから10日余り・・・彼等は遂にレイダンド国へ達そうとしておりました