ーある男ー
二十代後半になっている僕に両親は結婚を急かせた
祖父が生きているうちに孫の顔を見せてやれーと言う
その気持ちは分かりながらー僕は・・・心を決めきれずにいた
まだ決着の着いていない初恋
そう あれは恋だったのだ
僕はタマキという少女に恋をしていた
育った街に戻ってきて思うのはーあのコに逢いたい
何処に住んでいるかも分からない娘なのにー
どんな暮らしをし どんな家で育ったのかも何も知らない
タマキは自分のことは殆ど話さず 僕の話を聞いていた
「釣りをするのは 初めてなの」
「一人でいることが長いから」
ひどく哀しそうな眼をした娘
不思議な美しさ
現在の僕なら近寄れないと思うほどの
子供だったから平気だったんだ
それでも会いたい!
今 現在 あの人は何処で何をして暮らしているのだろう
初めてタマキを見た場所
遊んだ川 野原 山 森
僕はタマキの姿を求めて捜し歩いた
姿を見せてくれないかと
出てきてくれないかと
あてもなく ただ歩いた
ーで 落っこちた
何をどうして踏み外したものか
気が付くと青い顔をしたタマキが覗いていた
「山を歩かれる時には 足元を確かめなくてはー」
そう言って安心したように微笑む
「会いたかったんだ」駄々っ子のように言えば ちょっと呆れたでも少し嬉しそうな笑顔になる
「ほら 逢いました 明るいうちにお帰りなさいな」たしなめるような口調のタマキ
「僕はずうっと君と一緒にいたい 」
「それは無理です」とタマキが言う
「何故? 君は結婚してるのか」
「いいえ」と首を振るタマキ
「僕のことが嫌いか?」
「どうしてもー駄目です 逢わないつもりでおりました」
「何故」
ふうっと諦めたように吐息・・・・・
「わたしは人間ではありませんから」
食い入るように見る僕に 儚い微笑でタマキは続けた
「ご結婚の話があること 知っています
お幸せになってほしいと思っております
わたしは わたしは とても禍々しいものなのです
この手で触れる者は皆即座に死ぬような
草木は触れれば枯れてー
長い事 死をもたらすだけの存在でありました
今 人の姿をしている話せるようになっているこの変化すら いつまでのものか
次に何になるのかすらーわかりません
人間のふりをしたままいようと 貴方の前では そうも思っておりましたが
貴方はわたしを忘れなくてはいけません
ごくごく普通の暮らしをして人生を終えてほしいのです
わたしは死しかもたらさない呪われたー呪いそのもののような存在ですからー」
信じ難い話をタマキはするのだった
「では何故 僕の命を奪わなかった 殺さなかった
触れるだけで殺せるものならー」
「ただ 嫌になったのです 死しかもたらさない自分という存在がー
ただ存在して ひとりなのが」
魔物は恐ろしいほどに美しいーそんな昔話を聞いたことがある
誰が話したのだったか
彼女が何と言おうと僕の心は 彼女が話せば話すほど その存在に占められていく
「もう・・・遅い」言葉が勝手に口をつく
起き上がり僕はタマキを抱きしめた
「な 何をなさいます」
「ずうっとこがれていた君に やっと会えた
こうして君を腕に抱いて 死ねるなら それも本望というもの」
「この人形(ひとがた)は仮のもの 本来の姿が何なのかは わたしにすらわかりませんのにー」
「僕にとって君はタマキ それだけだ」
逃れようと身をくねらせるタマキ「ああ!わたしに人の命を奪うだけでなく 相手の記憶を消し去る力があったならば!」
「君が魔物でもいい 命など消え失せてかまわない」
「いけません!馬鹿を仰らないで 世界中の誰が死んでもー死んでも 世界が滅んでも 貴方には生きていてほしい」
「世界中が滅んで たった一人は寂しすぎるよ」腕の中に存在するタマキを抱きしめて僕は笑う
誰が何と言おうとも僕にとっては 今迄生きてきた中でたった一つの恋
相手が人間でなくたって
もう僕は無茶苦茶だ それは心のどっかでわかっている
「貴方は わたしを愛していると?」
ひどくひどく不思議そうにタマキが言う
「君は僕を何だと思っているんだ」
「貴方から ひどく温かなものが流れてくるのです わたしは 別なわたしは これを知っていました
この温かなものを 昔 わたしは 別なわたしは無理矢理奪われてー
命の尽きる時に呪った その呪いが 呪いだけがこの世に微かに残って・・・・・」
その呪いが おそらく自分という存在だとタマキは言った
二十代後半になっている僕に両親は結婚を急かせた
祖父が生きているうちに孫の顔を見せてやれーと言う
その気持ちは分かりながらー僕は・・・心を決めきれずにいた
まだ決着の着いていない初恋
そう あれは恋だったのだ
僕はタマキという少女に恋をしていた
育った街に戻ってきて思うのはーあのコに逢いたい
何処に住んでいるかも分からない娘なのにー
どんな暮らしをし どんな家で育ったのかも何も知らない
タマキは自分のことは殆ど話さず 僕の話を聞いていた
「釣りをするのは 初めてなの」
「一人でいることが長いから」
ひどく哀しそうな眼をした娘
不思議な美しさ
現在の僕なら近寄れないと思うほどの
子供だったから平気だったんだ
それでも会いたい!
今 現在 あの人は何処で何をして暮らしているのだろう
初めてタマキを見た場所
遊んだ川 野原 山 森
僕はタマキの姿を求めて捜し歩いた
姿を見せてくれないかと
出てきてくれないかと
あてもなく ただ歩いた
ーで 落っこちた
何をどうして踏み外したものか
気が付くと青い顔をしたタマキが覗いていた
「山を歩かれる時には 足元を確かめなくてはー」
そう言って安心したように微笑む
「会いたかったんだ」駄々っ子のように言えば ちょっと呆れたでも少し嬉しそうな笑顔になる
「ほら 逢いました 明るいうちにお帰りなさいな」たしなめるような口調のタマキ
「僕はずうっと君と一緒にいたい 」
「それは無理です」とタマキが言う
「何故? 君は結婚してるのか」
「いいえ」と首を振るタマキ
「僕のことが嫌いか?」
「どうしてもー駄目です 逢わないつもりでおりました」
「何故」
ふうっと諦めたように吐息・・・・・
「わたしは人間ではありませんから」
食い入るように見る僕に 儚い微笑でタマキは続けた
「ご結婚の話があること 知っています
お幸せになってほしいと思っております
わたしは わたしは とても禍々しいものなのです
この手で触れる者は皆即座に死ぬような
草木は触れれば枯れてー
長い事 死をもたらすだけの存在でありました
今 人の姿をしている話せるようになっているこの変化すら いつまでのものか
次に何になるのかすらーわかりません
人間のふりをしたままいようと 貴方の前では そうも思っておりましたが
貴方はわたしを忘れなくてはいけません
ごくごく普通の暮らしをして人生を終えてほしいのです
わたしは死しかもたらさない呪われたー呪いそのもののような存在ですからー」
信じ難い話をタマキはするのだった
「では何故 僕の命を奪わなかった 殺さなかった
触れるだけで殺せるものならー」
「ただ 嫌になったのです 死しかもたらさない自分という存在がー
ただ存在して ひとりなのが」
魔物は恐ろしいほどに美しいーそんな昔話を聞いたことがある
誰が話したのだったか
彼女が何と言おうと僕の心は 彼女が話せば話すほど その存在に占められていく
「もう・・・遅い」言葉が勝手に口をつく
起き上がり僕はタマキを抱きしめた
「な 何をなさいます」
「ずうっとこがれていた君に やっと会えた
こうして君を腕に抱いて 死ねるなら それも本望というもの」
「この人形(ひとがた)は仮のもの 本来の姿が何なのかは わたしにすらわかりませんのにー」
「僕にとって君はタマキ それだけだ」
逃れようと身をくねらせるタマキ「ああ!わたしに人の命を奪うだけでなく 相手の記憶を消し去る力があったならば!」
「君が魔物でもいい 命など消え失せてかまわない」
「いけません!馬鹿を仰らないで 世界中の誰が死んでもー死んでも 世界が滅んでも 貴方には生きていてほしい」
「世界中が滅んで たった一人は寂しすぎるよ」腕の中に存在するタマキを抱きしめて僕は笑う
誰が何と言おうとも僕にとっては 今迄生きてきた中でたった一つの恋
相手が人間でなくたって
もう僕は無茶苦茶だ それは心のどっかでわかっている
「貴方は わたしを愛していると?」
ひどくひどく不思議そうにタマキが言う
「君は僕を何だと思っているんだ」
「貴方から ひどく温かなものが流れてくるのです わたしは 別なわたしは これを知っていました
この温かなものを 昔 わたしは 別なわたしは無理矢理奪われてー
命の尽きる時に呪った その呪いが 呪いだけがこの世に微かに残って・・・・・」
その呪いが おそらく自分という存在だとタマキは言った