ベルナーの声に注意を引かれた人間は多かった
デイスタン王とメリサンドもベルナーの姿と振舞いに何かこうもどかしい思いを抱いていた
ダンスタンは苦笑いを浮かべる「やばいなあ・・・」
リザヴェートが「どうされました?」と問いかけると ダンスタンは顎をさすりながら返事する
「いや あの声 こんな僕ですら恋したくなりますよ それにあの歌い手はひどく品がある
何処かの王子か王様と言ってもとおりそうだ」
リザヴェートは遠くの歌うたいとダンスタンを見比べた
淡い金の髪 青い瞳 姉のアシュレインなら本の絵姿そのままの王子様と言うだろうか
たやさない優しい笑顔
「わたしには 恋はわかりません
リボンや花が生きることの何の役に立つのかとも」
ダンスタンは自分のよく似たリザヴェートの陽(ひ)に透ける金色の髪と春の空のような水色の瞳を見る
「そんな綺麗な目をした乙女なのに 完全なる無垢・・・
あなたはまだ目覚めていない眠り姫のように僕には思える
リボンや花は あなたをより美しく愛おしく装ってくれる
無くてもいいが あればもっといい」
ここで少し笑った「僕は結構 意地が悪いんだ 僕の言葉を全部 信じてはいけないよ」
ダンスタンは真っ直ぐに自分を見つめて来るリザヴェートに照れたのだった
その耳にベルナーの歌う恋歌が聞こえてくる
ーさぁ 君 恋するのは今だ! この瞬間(とき)を逃すな
過ぎた時間(とき)は二度と戻ってはくれない
乙女の腕を逃がしてはいけない
自分の心を見失ってはいけない
それはー身の破滅 魂(こころ)の死
この瞬間(とき)を逃すな
さぁ 君 恋するのは今だ!-
歌声を聞きながら 実にやばい・・・とダンスタンは思っていた
恋に落ちてしまいそうだ いや もう?!
まさかー
どう見てもエルディーヌとのやりとりは言い争っているようにしか見えないのに・・・内心ロブレインは焦っていた
ー確かに美しい姫だが・・・・・
豪華な黄金の巻き毛が豊かに波打つ 瞳は青とも緑ともつかぬ深い海のような輝きを放ちー
つんとした唇からは鋭い言葉しか出ないというのに
「その程度で腕自慢?」
ずきずきと言葉で心を突き刺してくる
まさか!?
おさえつけて強引にキスで黙らせたい
馬鹿な!
惚れたら負けだ
惚れてやるものか こんな こんな生意気な女に!
「女の腕を折る かような武は持たぬ」
ーああ もう その女如きにーって態度が嫌だわ 女ってだけで馬鹿にしているんだわ
その容姿(見かけ)ですもの さぞかし女性を泣かせてきたのでしょうよ
だからって あたくしは夢中になどなってさしあげない
ひれ伏してなどあげないわ
目をつりあげて睨みつけてくるエルディーヌを どんな表情をしても美しいと思ってしまっているロブレイン
そっとご主人様の様子をうかがいに行ったアリストは頭を抱える
「なんて おっかないやり取りをしているんだか」
ロブレインの前では大抵の女達は自分から身を差し出す 彼はその藍色の瞳で見つめるだけでいい
ーわたしが求めるのは 心の底から求めるのは わたしだけを見つめ 愛してくれる人
共に過ごしてくれる人
出逢う為に あなたと出逢う為に 長い事 旅をしてきた
愛しい人よ
巡り合えたこの時間を無駄にしないでおくれ
あなたを愛している
愛している
どうか わたしの腕の中に この胸に飛び込んできておくれ
わたしは何も持たない
あなたを愛する心のほかにはー
ベルナーの歌声が人々の胸の中にも落ちていく
その声 なんという稀有な歌い手だろうか
リトアールは溜息を吐く
「すみません 私ばかり話しまして・・・・・退屈されましたよね
いつも妹からさえ叱られておりますのに・・・」
しょんぼりするアシュレインにリトアールはおどけて目をぐるぐるしてみせる
「女きょうだいがいないので あなたの話はとても楽しいです
僕は退屈するとすぐに寝る人間なのですがーちゃんと起きているでしょう?
ぼくもあの歌うたいみたいに歌えたらいいなって思ったんです
ケンカも歌でしたら・・・面白いだろうしね」
「あら!」
可憐な花のようにアシュレインが笑う
艶やかな黒髪にスミレ色の瞳のアシュレイン
結婚とか妻とか まだピンと来ないリトアールだが・・・
何しろ会ったばかりだしー守りたいな・・・この笑顔を・・・
いや 笑っている顔を見ていたいなと思い始めている
ほのぼのとしているリトアールとアシュレイン その様子を遠目に見てほっとしているゲイルド
が!ロブレインとエルディーヌは かなり激しい
バシン!遂にエルディーヌがロブレインをひっぱたいたのだ
第二撃を加えようとしたエルディーヌの手を掴んでロブレイン「今度叩いたら キスしますよ」
「なんて おっしゃいまして」ひどく冷たい声でエルディーヌが問いかける
膝を折って一礼しロブレインが答える「キスしてほしいのなら 殴りなさい どうぞ」
「世界中の人間が3万回死に絶えたって ごめんです」
くるりと向きを変えたエルディーヌはロズモンドを呼んだ「お願い あたくしがそこの傲岸無礼にして愚劣極まる自信過剰の首を刎ねないうちに
連れだしてくれる
ひどく!頭痛がするから これで退出致します」
「まぁ お可哀想に 姫様 ずうっと頭痛を堪えておられたのですね なんてお気の毒
ささ 少し休んでまいりましょう」
「ええロズモンド 場所を変えればおさまると思うわ」
エルディーヌとロズモンドは共犯者めいた笑みを浮かべる
刺繍や縫物よりも弓矢や剣の練習が大好きなはねっ返り二人組であった
一人残されて肩を竦めているロブレインの様子を眺めてアンドールがマルレーネに話しかける
「弟は ひどくあなたの妹姫に心惹かれているようだ」
「エルディーヌはちょっと癇癪持ちですけれど その実 とても優しくて傷つきやすいところもありますの
すみません 御無礼をして」
「弟にはいい薬です
弟は気になる相手にはつっかかるところがあるからー妹姫を怒らせたのは逆にいい兆候だと思います」
アンドールはマルレーネと語り合いながらも弟たちの様子をそれとなく気にしていて それはマルレーネも同じだった
自分達だけでなく絶えず周囲に目を配る
鷹揚に構えているように見せて
ー恋のように夜も深まる その想いにこの身は包まれる
ゆるやかに 強く 深く
あなたへの想いに身動きすらできなくなる
わたしを自由にできるのは・・・・・
あなただけ ただ あなた一人ー
客たちから乞われ ベルナーは歌い続ける
宴がお開きとなり 一息ついたベルナーのもとへロズモンドが近付いてきた
ロズモンドは盆の上に飲み物や食べ物を載せていた「よろしければ いかがですか」
少し驚いた様子のベルナーに「情け深き有難きディスタン王からでございます」とロズモンドは言葉を続ける
布で区切り小部屋を拵えた場所へベルナーを案内した
開け放った窓のバルコニーから外の新鮮な空気が入ってくる
卓上に盆を置くと ロズモンドはまた口を開いた
「女官長メリサンド様がー今宵は実に見事な歌に感じいりましたーとのお言葉でございます
つきましては休む場所を案じておられます」
「はい」とベルナーが手を上げる
「見事な女官ぶりだけど もっと肩の力を抜いて 僕に合わせた言い回しをしてくれないかな」
「言い回し・・・ね 私が合わせて・・・ね 」
「そうしてくれたら 有難きしあわせ」
席について座ろうとして立ったままのロズモンドを気にするベルナー「君は食べないの 座らないの」
「私は先程エルディーヌ姫と少し頂きましたので」そう言いながらベルナーと向かい合わせの椅子に腰かける
「もしもきちんとした寝場所が無いのならーひと部屋用意があります」
「有難いな その辺で横になるつもりだった」
それは自分が嫌だと何故かロズモンドは思った
浮かれ女達がベルナーほどのいい男を放っておくとは思えない
好みの男には夜這いをかけたり自分の部屋にひきずりこむ女もいる
朝 寝乱れた姿で男にしなだれかかる女の姿を見回りの時に見たことも幾度かある
心の中でぶるんとロズモンドは首を振る
緊張するとなる固い言葉遣いのままロズモンドは言った「代わりといえば何ですが お願いがあります」
「君が 僕に? 何だろ・・・」
「いえ女官長のメリサンド様から・・・先代の王を想って先代の王の王妃が作られた歌があります
逆に先代の王がその王妃を想い作られた歌も
あなたの声を見込んで 歌ってほしいとディスタン王が思われたそうです」
「どんな?」
「私は・・・」ここで漸くロズモンドは普段の言葉遣いに完全に戻った
「私は歌が得意ではないんだが これはすごく好きな歌なんだ
子守歌がわりに母が歌ってくれた
ベルナーのようにはうまく歌えないがー私が歌うのを聞いて覚えてほしい」
「楽しみだ・・・」
自分の声とは違うロズモンドの優しい声が響く
いつかベルナーは楽器を奏で 声を合わせた
愛し合う者同士のように二人の声が重なる
デイスタン王とメリサンドもベルナーの姿と振舞いに何かこうもどかしい思いを抱いていた
ダンスタンは苦笑いを浮かべる「やばいなあ・・・」
リザヴェートが「どうされました?」と問いかけると ダンスタンは顎をさすりながら返事する
「いや あの声 こんな僕ですら恋したくなりますよ それにあの歌い手はひどく品がある
何処かの王子か王様と言ってもとおりそうだ」
リザヴェートは遠くの歌うたいとダンスタンを見比べた
淡い金の髪 青い瞳 姉のアシュレインなら本の絵姿そのままの王子様と言うだろうか
たやさない優しい笑顔
「わたしには 恋はわかりません
リボンや花が生きることの何の役に立つのかとも」
ダンスタンは自分のよく似たリザヴェートの陽(ひ)に透ける金色の髪と春の空のような水色の瞳を見る
「そんな綺麗な目をした乙女なのに 完全なる無垢・・・
あなたはまだ目覚めていない眠り姫のように僕には思える
リボンや花は あなたをより美しく愛おしく装ってくれる
無くてもいいが あればもっといい」
ここで少し笑った「僕は結構 意地が悪いんだ 僕の言葉を全部 信じてはいけないよ」
ダンスタンは真っ直ぐに自分を見つめて来るリザヴェートに照れたのだった
その耳にベルナーの歌う恋歌が聞こえてくる
ーさぁ 君 恋するのは今だ! この瞬間(とき)を逃すな
過ぎた時間(とき)は二度と戻ってはくれない
乙女の腕を逃がしてはいけない
自分の心を見失ってはいけない
それはー身の破滅 魂(こころ)の死
この瞬間(とき)を逃すな
さぁ 君 恋するのは今だ!-
歌声を聞きながら 実にやばい・・・とダンスタンは思っていた
恋に落ちてしまいそうだ いや もう?!
まさかー
どう見てもエルディーヌとのやりとりは言い争っているようにしか見えないのに・・・内心ロブレインは焦っていた
ー確かに美しい姫だが・・・・・
豪華な黄金の巻き毛が豊かに波打つ 瞳は青とも緑ともつかぬ深い海のような輝きを放ちー
つんとした唇からは鋭い言葉しか出ないというのに
「その程度で腕自慢?」
ずきずきと言葉で心を突き刺してくる
まさか!?
おさえつけて強引にキスで黙らせたい
馬鹿な!
惚れたら負けだ
惚れてやるものか こんな こんな生意気な女に!
「女の腕を折る かような武は持たぬ」
ーああ もう その女如きにーって態度が嫌だわ 女ってだけで馬鹿にしているんだわ
その容姿(見かけ)ですもの さぞかし女性を泣かせてきたのでしょうよ
だからって あたくしは夢中になどなってさしあげない
ひれ伏してなどあげないわ
目をつりあげて睨みつけてくるエルディーヌを どんな表情をしても美しいと思ってしまっているロブレイン
そっとご主人様の様子をうかがいに行ったアリストは頭を抱える
「なんて おっかないやり取りをしているんだか」
ロブレインの前では大抵の女達は自分から身を差し出す 彼はその藍色の瞳で見つめるだけでいい
ーわたしが求めるのは 心の底から求めるのは わたしだけを見つめ 愛してくれる人
共に過ごしてくれる人
出逢う為に あなたと出逢う為に 長い事 旅をしてきた
愛しい人よ
巡り合えたこの時間を無駄にしないでおくれ
あなたを愛している
愛している
どうか わたしの腕の中に この胸に飛び込んできておくれ
わたしは何も持たない
あなたを愛する心のほかにはー
ベルナーの歌声が人々の胸の中にも落ちていく
その声 なんという稀有な歌い手だろうか
リトアールは溜息を吐く
「すみません 私ばかり話しまして・・・・・退屈されましたよね
いつも妹からさえ叱られておりますのに・・・」
しょんぼりするアシュレインにリトアールはおどけて目をぐるぐるしてみせる
「女きょうだいがいないので あなたの話はとても楽しいです
僕は退屈するとすぐに寝る人間なのですがーちゃんと起きているでしょう?
ぼくもあの歌うたいみたいに歌えたらいいなって思ったんです
ケンカも歌でしたら・・・面白いだろうしね」
「あら!」
可憐な花のようにアシュレインが笑う
艶やかな黒髪にスミレ色の瞳のアシュレイン
結婚とか妻とか まだピンと来ないリトアールだが・・・
何しろ会ったばかりだしー守りたいな・・・この笑顔を・・・
いや 笑っている顔を見ていたいなと思い始めている
ほのぼのとしているリトアールとアシュレイン その様子を遠目に見てほっとしているゲイルド
が!ロブレインとエルディーヌは かなり激しい
バシン!遂にエルディーヌがロブレインをひっぱたいたのだ
第二撃を加えようとしたエルディーヌの手を掴んでロブレイン「今度叩いたら キスしますよ」
「なんて おっしゃいまして」ひどく冷たい声でエルディーヌが問いかける
膝を折って一礼しロブレインが答える「キスしてほしいのなら 殴りなさい どうぞ」
「世界中の人間が3万回死に絶えたって ごめんです」
くるりと向きを変えたエルディーヌはロズモンドを呼んだ「お願い あたくしがそこの傲岸無礼にして愚劣極まる自信過剰の首を刎ねないうちに
連れだしてくれる
ひどく!頭痛がするから これで退出致します」
「まぁ お可哀想に 姫様 ずうっと頭痛を堪えておられたのですね なんてお気の毒
ささ 少し休んでまいりましょう」
「ええロズモンド 場所を変えればおさまると思うわ」
エルディーヌとロズモンドは共犯者めいた笑みを浮かべる
刺繍や縫物よりも弓矢や剣の練習が大好きなはねっ返り二人組であった
一人残されて肩を竦めているロブレインの様子を眺めてアンドールがマルレーネに話しかける
「弟は ひどくあなたの妹姫に心惹かれているようだ」
「エルディーヌはちょっと癇癪持ちですけれど その実 とても優しくて傷つきやすいところもありますの
すみません 御無礼をして」
「弟にはいい薬です
弟は気になる相手にはつっかかるところがあるからー妹姫を怒らせたのは逆にいい兆候だと思います」
アンドールはマルレーネと語り合いながらも弟たちの様子をそれとなく気にしていて それはマルレーネも同じだった
自分達だけでなく絶えず周囲に目を配る
鷹揚に構えているように見せて
ー恋のように夜も深まる その想いにこの身は包まれる
ゆるやかに 強く 深く
あなたへの想いに身動きすらできなくなる
わたしを自由にできるのは・・・・・
あなただけ ただ あなた一人ー
客たちから乞われ ベルナーは歌い続ける
宴がお開きとなり 一息ついたベルナーのもとへロズモンドが近付いてきた
ロズモンドは盆の上に飲み物や食べ物を載せていた「よろしければ いかがですか」
少し驚いた様子のベルナーに「情け深き有難きディスタン王からでございます」とロズモンドは言葉を続ける
布で区切り小部屋を拵えた場所へベルナーを案内した
開け放った窓のバルコニーから外の新鮮な空気が入ってくる
卓上に盆を置くと ロズモンドはまた口を開いた
「女官長メリサンド様がー今宵は実に見事な歌に感じいりましたーとのお言葉でございます
つきましては休む場所を案じておられます」
「はい」とベルナーが手を上げる
「見事な女官ぶりだけど もっと肩の力を抜いて 僕に合わせた言い回しをしてくれないかな」
「言い回し・・・ね 私が合わせて・・・ね 」
「そうしてくれたら 有難きしあわせ」
席について座ろうとして立ったままのロズモンドを気にするベルナー「君は食べないの 座らないの」
「私は先程エルディーヌ姫と少し頂きましたので」そう言いながらベルナーと向かい合わせの椅子に腰かける
「もしもきちんとした寝場所が無いのならーひと部屋用意があります」
「有難いな その辺で横になるつもりだった」
それは自分が嫌だと何故かロズモンドは思った
浮かれ女達がベルナーほどのいい男を放っておくとは思えない
好みの男には夜這いをかけたり自分の部屋にひきずりこむ女もいる
朝 寝乱れた姿で男にしなだれかかる女の姿を見回りの時に見たことも幾度かある
心の中でぶるんとロズモンドは首を振る
緊張するとなる固い言葉遣いのままロズモンドは言った「代わりといえば何ですが お願いがあります」
「君が 僕に? 何だろ・・・」
「いえ女官長のメリサンド様から・・・先代の王を想って先代の王の王妃が作られた歌があります
逆に先代の王がその王妃を想い作られた歌も
あなたの声を見込んで 歌ってほしいとディスタン王が思われたそうです」
「どんな?」
「私は・・・」ここで漸くロズモンドは普段の言葉遣いに完全に戻った
「私は歌が得意ではないんだが これはすごく好きな歌なんだ
子守歌がわりに母が歌ってくれた
ベルナーのようにはうまく歌えないがー私が歌うのを聞いて覚えてほしい」
「楽しみだ・・・」
自分の声とは違うロズモンドの優しい声が響く
いつかベルナーは楽器を奏で 声を合わせた
愛し合う者同士のように二人の声が重なる