夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

今日は過ごしやすかったです

2019-06-17 20:29:25 | 子供のこと身辺雑記
先週は長男が眼科行きで目の検査の後は 目が見えにくいから家に居るってことで そのまま姑の家のお昼用意するのに連れていったのでー
姑の家から帰り道に久々外食♪

長男は「トンカツが食べたい気分」ってことで トンカツ専門店へ

いつも姑の家からの帰り道 気になっていたお店です
一人では入れずにおりました







初めてのお店ではカツカレーを注文しがちな私

そう 子供の頃食べた 味噌味のカツカレー捜しています

スケートリンク横の喫茶店にあったんですよね
だけどとうにお店は無くなり いまだ「あの味」を探し求めていたりします

このお店のカツカレー 普通に美味しかったんですけれど
個性は無かったです
このお店ならではの!って味は



トマト七個 ニンニク 玉葱 軽く刻んでミキサーにかけてオリーブ油で炒めて 砂糖と白ワイン加えて黒コショウ入れて煮たの
ちょっとした調味料に使えます





椎茸ともやしを炒めたのとかにも






どうも疲れが取れなくて 料理する 姑の家へ行く
帰宅する 料理する
少し横になる
姑の家へ行くー

なんて時間の使い方の繰り返し

父の日も主人は来月誕生日だし 新しい自転車と携帯の機種変更かスマホーって言ってるから もうそれで「兼ねよう」と^^;

こちらの体調お構いなしの主人は 嬉しそうに「梅の実とった」と袋いっぱい寄越しました
姑の家の庭の梅の木 花も綺麗だけど実もつけてくれます


青梅では梅シロップを作ったのですが

今度はやっぱり梅干しかなあと
あれこれ手持ち本を見比べて



一番作りやすそうな本を真似っこー参考にしました

主婦の友 365日きょうのおかず大百科







この本ね 季節季節の保存食の作り方 日々のおかずも材料別でまとめてあり 結構便利なんです
ただ厚くて重いー



ガラス瓶に洗って水気をふき取った梅を入れて焼酎をかけて転がし 焼酎は捨ててから塩を加え瓶ごと転がしたりして塩をまぶす
まずは塩梅から作って・・・・・・
梅干し作り挑戦中です








望月麻衣著「京都寺町三条のホームズ11 あの頃の想いと優しい夏休み」(双葉文庫)

2019-06-14 23:42:23 | 本と雑誌
あの頃の想いと優しい夏休み-京都寺町三条のホームズ(11) (双葉文庫)
望月 麻衣
双葉社



シリーズ10作目でひと区切りついた感のある葵とホームズこと家頭清貴の恋
今回はそれぞれの登場人物の過去振り返り短編集
あの時彼等は何を思っていたか

シリーズを通せば小休止のような・・・・・
二人の出逢いを清貴側から見た物語も

鳥飼否宇(とりかい ひう)著 「死と砂時計」 (創元推理文庫)

2019-06-14 15:53:21 | 本と雑誌
死と砂時計 (創元推理文庫)
鳥飼 否宇
東京創元社


物語の設定については 円堂都司昭氏の解説が分かりやすいので抜粋します
ー二十世紀末には人権保護思想の普及に伴い、死刑を廃止する国が続出した。
制度が残る国でも実際には執行しない例が増えた。
世界各国で凶悪犯罪はむしろ多くなったのに、収容施設は膨れ上がる囚人たちを終身介護する場となり、
維持管理のために血税が投入される皮肉な状況になった。
ならば、我が国が死刑囚を引き取り、きっちり処刑してさしあげましょうと国家戦略を打ち出したのが、
ジャリーミスタン首長国だった。
中東の弱小国家ではあるけれど、リーダーのサリフ・アリ・ファヒールが独裁的権力を有していたため、
人権擁護団体の強い抗議を無視して終末監獄を建設してしまったのだ。ー


物語はこの監獄へ自分の両親を殺し放火までしたとして死刑宣告を受けた日系のアラン・イシダが収監されるところから始まります

ここに囚人として長い老人シュルツは監獄に事あれば解決を依頼される存在であり アランを助手とするのです

シュルツの助手としてアランはここで起きる不思議に遭遇することとなります

「魔王ジャヴォ・ドルマヤンの密室」
死刑が執行される囚人が入る場所で・・・・殺されていた
放っておいても死刑が間もなく執行される人間をどうしてわざわざ殺す必要があったのか
その理由とは 
犯人は武器を何処に隠し持っていたのかー


「英雄チェン・ウェイツの失踪」
この監獄からただ一人脱獄し行方をくらました人間がいる
それは新入りの囚人と同じ民族だった

脱獄に成功した男は 外での生活で まだ刑務所の中こそ天国のようだったーと思うに至り
その場所へ戻る為に・・・・・・



「監察官ジェマイヤ・カーレッドの韜晦」
監獄の囚人から待遇などを聞きに回ってきた監察官は退職の日も近かった

その彼が死体で発見される

彼はどうして死んだのか



「墓守ラクバ・ギャルボの誉れ」
この国の言語を覚えずにいた男が墓を暴き死体を損壊していた
その理由とはー



「女囚マリア・スコフィールドの懐胎」
異性と接触の機会無き女囚が妊娠していると言う
その女囚はアランが知る女性だった


倒されたアランが気付くと七カ月経っていた
彼は何故倒れ・・・そして倒れている間に何をされたのかー



「確定囚アラン・イシダの真実」
アランは両親を殺してはいない
ただ両親の死を引き起こしたのは一通の手紙だった

アランは本当の父親を教えられずに育っている

唐突にアランの死刑が執行されることとなり
アランは面会にきたシュルツに自分が囚人となった事情を話す



やがてアランは誰が自分の父親か気付く
アランの父親はアランを脱獄させるが
それは父親としての愛情が理由ではなかった

マッドサイエンティストという言葉がある

彼は自分の残酷な実験の為に自分の子孫を利用した




「よたばなし」-17-

2019-06-13 13:26:09 | 自作の小説
ー振袖異聞ー

「でも君は 本当の大野莉子さんでは無いでしょう」

夢の中に季節は無い

桜の花びらが風花のように舞っている
瑠璃色の羽根のあげは蝶が飛び 鶯が鳴く

かと思えば菊が咲き乱れー

これはまるで着物の柄のような景色なのだった

僕の問いかけに大野さんは赤い唇に妖しい笑みを浮かべるばかり

夢の中に立つ大野さんの姿は何処かツクリ物めいていた

夢の中だから現実感が無いのは当然だが 


人形のように美しい娘

これは 誰の夢だ

そこを見究めねば

大野さんは夢から抜け出せない
魔が見せる夢に取り込まれ続けてしまう


「深空野真夜(みそらの しんや)様 名前さえも美しいあなた あなた あなた
あなたが好きなんです」

僕の言葉に構わず大野さんがすり寄ってくる
細い指をさしのべて

何処からか風が吹いて大野さんの髪が揺れる
風は強くなり大野さんが着ている振袖の袂がひらひら翻る

「女が寄っても動じぬお前はー似ている」
魔のモノの声がする

夢が揺れる
ぼんやりと人の姿が見える
朱色の着流し 浪人・・・

その姿は一瞬で消える

僕は思わず問いかける「あの人は」

夢が答える「朴念仁」

では これは 大野さんに取り憑いている振袖の・・・・魔のモノの視(み)ている夢か
大野さんを自分の夢の中に取り込んでいる

「良く分かったな これは罪の無い夢だ せめて夢の中でこの娘の想いを叶えてやると良い
親切から招いてやったのだ
お前も若い男 悪い気はすまい」
揶揄する魔のモノの声

「どうした 何故動かぬ 有難いことだろう この娘の体 好きにしてよいのだぞ」

その声が焦っているように聞こえたは気のせいだろうか
何故 焦る

「この娘はお前が好きで 好きな気持ちだけで 何もできずにいた
思えば通じるーなどは嘘だ
行動せずに相手に伝えられるはずもない
いつか相手が気付いてくれるなどとは幻想だ」


「僕はこれでもロマンチストなんだ
誰かに見られて興奮する性癖もない
それが夢でも御免こうむる」

くくく・・・と魔のモノは嘲るような笑い声を漏らす「恰好つけも大概にするがよい
男とはな 醜いものだ
そういう生き物であるのだよ」

幾枚もの振袖ごしに様々な娘の一糸まとわぬ姿が見える

「そしてどんな無垢に見える乙女も心の中には 己も知らぬ欲望を抱えている」

娘達は誰かに抱かれ身もだえしている

それはかつてこの魔のモノの振袖がとりこんだ娘達なのか

「我が中で永遠に幸福で淫靡な夢を見続ける魂・・・・・」
穏やかでないことを謳うように魔のモノは続ける

それは僕でなければ効いたのかもしれない

誘う声 抑揚

「大野さん 大野莉子さん起きるんだ 君は悪い夢を見ている 起きなくては朝は来ない
起きてご飯を食べる そして大学に来るんだ 起きるんだ
僕は大学で待っている」


魔のモノが軋むように唸る「お前 お前 夢破りを!」

「うん・・・夢は得意分野になりつつある」
そうか 僕のしている事は「夢破り」とも呼ばれるのか―一つ学習できた気がする
僕はまだ自身で自分にできることが判っていないー
大抵はついてきてくれた謎の3体がうまいことどうにかしてくれている
けれど今回はおそらく僕は外出先ー家から離れた場所で夢に取り込まれている
だから自分でどうにかしなくてはいけない
この魔のモノの見せる夢から抜け出し かなうなら取り込まれている大野莉子さんを目覚めさせなくては

魔のモノは危険だ
見せる夢は心地よく いつか命が尽きるーこともある

存外 夢は恐ろしいものなのだ

過ぎれば 眠りも毒になる

永遠なんてありはしない

「起きろ! 大野さん 起きろ!」

そして僕の声は 他のモノも目覚めさせたのだった

「うるさい!」
現れたのは異形のモノ 長い銀の髪 黒銀の長い爪 不思議な色の着物を肩掛けにしている
そのモノは僕をじ・・・っと視⦅み⦆た
「あの赤子が無事に育ったか」

「何じゃ お前は勝手に我が夢に入るな」振袖の魔のモノは怒っていた


「ふふん・・・此の者が起きろ起きろとうるさいゆえに 招かれただけよ
そうかお前 我を知らぬか」

その眼が暗黒色に輝く
夢が歪んでいく

「な・・・」苦鳴をあげる魔のモノ
「止めろ! 止めろ!」

先程の朱色の着流しの浪人の姿が見える
刀を一閃
浪人は振袖の魔のモノを仕留め

夢は粉々に裂け散らばっていく


その消えかけの夢の一隅で腕の中に大野莉子さんを抱えてー僕は助けてくれた異形のモノと向き合っていた


「お前 まだ己の力に目覚めたばかりか 危ういな
お前の血は闇のモノには美味
気をつけよ
母親もそうだったが おおらかというかのんびりすぎる
狙われやすいのだ

不思議よの お前の中には母親も父親も見える 気に入らない男だったがー」


「助けてくれて有難うございます
あなたは僕の両親を 父親を知っているのですか」

「我にとってお前の父親はー
ふふん 今となっては とても懐かしい者だな」

異形のモノの顔を過ぎるものは何だったのだろう

「また会おうぞ」

夢の破片は僕から離れていく


「-!」「起きなさい!深空野!」パン!パン!
声と音が同時だった
更に続けて バシッ!ビシッ!

両頬が痛いー
薄目を開けると・・・木面(きづら⦆先輩がかなり分厚い本を両手に持って殴ろうとしていた
危なかった
あんなもんで殴られた日には顔かたちが変わってしまう


「あ あの起きたんで叩かないで下さい」


「起きたか それは残念 ところでこれはどういう状態かい」

場所は研究室
僕の横に倒れているのは 行方不明だった大野莉子さん
「捜しに行って 大野さんを見つけました」


木面先輩は僕を怪し気に見る
「まるで異次元の扉から入ってきたみたいに 急に現れたように見えたけどー」

先輩は溜息をついた
「いいわ ややこしくなっては困るから 私が倒れている大野さんを見つけたことにしてあげる
どうせいつもの他人には理解できない事情がありそうだし

大野さんを医療室に運んでちょうだい
これで何事か解決したのなら 良かったわね」


何があったのか暫くして目覚めた大野さんは覚えていなかった
振袖の事すら

大野莉子が無事だったことで上品寿(かみしな ひさし⦆は大騒ぎ

いつもの日常が戻ってきていた



おやつなど

2019-06-12 21:19:13 | 子供のこと身辺雑記
先日作ったレモンカードが割かし気に入り(何しろ簡単に!作れる 特別な材料はいらない♪)また作りました



食パンに塗ってからトーストする
薄切りのフランスパンをトーストしたのにつける

久しぶりにインチキ・ビスケットを焼きました



柔らかくしておいたバターにグラニュー糖を混ぜて 小麦粉と片栗粉をふるいにかけて加えて混ぜる
アーモンドパウダーかスライスアーモンドを加えて 好みで卵一個も混ぜる(卵は加えなくてもいいです)



カレー用のスプーンなんぞで生地をすくって丸めて 平たくして
(フォークの先で刺して表面に穴をぽつぽつつけて遊んで下さいー)

オーブントースターにて180度 25分焼きます

このまま食べてもいいし レモンカードにも合うんです

「よたばなし」-16-

2019-06-11 20:06:06 | 自作の小説
ー振袖狂乱ー

静森主膳は生まれついての浪人ではない
生家は某藩のそこそこの役付きだった
名ばかりに拘り異端を恐れる其の家の者達は 畜生腹と双子が生まれた事を忌み・・・
我が子を座敷牢で育てていたが その兄の方が・・・何やら目に視⦅み⦆えぬ存在と会話するのを見て 
化け物が生まれたーと寺へ捨てた


弟・主膳は座敷牢から出されて・・・育てられたが

藩がとり潰し・・・・・浪々の身となることを恥じた両親は自ら死んだ


茫然とするまだ少年の主膳に兄弟の存在を教えてくれたのは乳母だった

「余りに酷いなさりよう 親が子を捨てるなどー」
これも天罰かもと乳母は言った

魔のモノから解放されても眠り続けるおしずを見ながら 主膳は来し方を振り返る

やっと見つけた兄は目の前で死んだ


双子
主膳も兄とは異なるが魔を退治する力を持っていた

この寺の先代の住職だった兄は いまわの際の苦しい息の中 弟に言った

「持って生まれた力 正しく使え 生きのびろ」

もっと早く会いたかったなー笑って言った それが最後の言葉だった

兄のようには生きられぬがー

魔のモノが離れても主膳はこの娘おしずが気懸かりだった


この娘が無頼の輩に絡まれた時 どうしてあんな場所へ迷い込んだか
供の者とはぐれたか

気になって調べた主膳は悪い噂を聞いていた


まだ 放ってはおけないー

花は美しい故に害虫に狙われる
この娘という花には「大店」そうした人の欲をそそるものまでついている

生きている人間の方が厄介だ

忠義者の顔をしながら

人は裏切る
大事なのは何より自分
楽をしたい うまいものを食べたい いい女を抱きたい 金が欲しい

どうにかして手に入れたいと悪企み


漸くおしずが目を覚ました時 外は既に暗くなっていた
おしずの家では大騒ぎしているに違いない

「あたし・・・・あたしは・・・・」

「何も覚えていないか おしずさんが誘ってきたのだ」

娘は気の毒なくらいに真っ赤になった 俯いて震える

「誘いにこたえてもいいのだが」主膳のからかいの言葉に娘はただ震える

もとのおぼこな娘に戻っていた


主膳は立ち上がると おしずに手を差し伸べた
「送ろう 家族が心配しておられよう」

主膳の大きな掌の上に おしずの細い指がおずおずと置かれる
主膳の手に縋るようにおしずが立ち上がった

振袖は消えての長じゅばん姿・・・
これで娘が外を歩くのは恥ずかしかろうーと主膳は気付く

「待っておれ 幾ら荒れ寺でも何か残っていようー」

どこをどう捜したのか 主膳は男物の着物を見つけてきた
角帯を前結びにしてやり「芝居の装束のようだが」と明るく笑う
「夜道で良かった まだ悪目立ちはすまい」

寺を出て幾らも進まぬうちに 二人は殺気立った集団と遭遇した
先頭にいた男が険しい表情を主膳に向ける
「てめえはいつぞやの邪魔浪人」
先日 おしずを襲おうとした男達の一人だった

その男の後ろにいた男が主膳の背後のおしずに目を止めた

「お嬢様 捜しましたよ ご無事で何より さあ一緒に帰りましょう 旦那様が心配しておられます」

手代の京助だった

「その大切なお嬢様に悪い事しようとした男達と一緒にいることで正体はバレてるぜ 」

主膳の冷笑に京助は開き直る
「これはお武家様 とんだ言いがかり  お嬢様のお姿が見えなくなり 顔の広いこの方たちにご助力をお願いしたのでございます」

色の白い優男 自分のいい男ぶりを鼻にかけたような表情で笑顔を作る
安い笑顔だ 信用できぬ目つきは消せない
「さあさ お嬢様 おかしな男と出歩かれては評判に傷がつきます
手前どもと一緒に帰りましょう」

「いいえ 京助 あたしはこの御方に送っていただきます」
思いのほか毅然とした声でおしずが告げた


「お嬢様 その身が大切なればこそ お送りすると申し上げております
御身大事ではありませぬかな」

京助は背後の男達に視線を投げ口元をゆがめる
「女に飢えた餓狼のような男達でございます 素直にお嬢様が同行せず逆らわれると言われるなら
面子を潰されたーとどのような手段を取るかー

手前はお嬢様が見つけられたら 旦那様がいかような礼もしようとーお嬢様探しをお願いしました
その身に何が起きても良いのですな
いや その姿
既に何か起きたあとですかな

ならば我等は何の遠慮もいらぬ
教えてさしあげましょう 女の体というものを

お前達 頼みましたよ」

京助は男達を振り向く

評判の小町娘 大店のー本来なら自分達に手の届かぬ娘
それを自由にできるというお楽しみに舌なめずりする男達

先日 主膳に歯も立たなかったことを忘れたのか
余程頭が悪いのか 先日の倍いるから今度は勝てると踏んだのか

「飽きるまで弄んだら 何処かへ叩き売ってやればいいよ」
京助はけしかける

男達にさらわせ傷物になれば そうした噂が立てば 縁談も来なくなりー自分が婿になれるのではないかとの企みは主膳に邪魔された

自分に靡かぬ女となれば どうなと滅茶苦茶にされればいいのだ
それを見て笑ってやる
根性のひね曲がった男なのだ

「怪我をしてはつまらない 下がっていなさい」
おしずに言って主膳は離れ ならず者達に向かい静かに刀を抜いた

人間の心根の悪いのは 魔よりも性質(たち)が悪いー主膳の口の端にうっすら笑みが浮かび それがならず者達を激昂させる

「何を笑いやがる この食い詰め浪人め」
「たたんでやる」

卑劣な男達は主膳の隙を見て おしずに近寄ろうとするができずに苛立ち主膳にぶつかるも それは燃える火に自ら飛び込む蛾の如く
刀の峰で叩かれ のけぞるばかり
「ええい もうっ」
堅気の商人らしくない匕首抜いてかかってきた京助も主膳の手刀を首筋に叩き込まれて倒れる


そうこうするうち騒ぎに役人が駆けて来る
役人に従う下っ引きの一人が主膳を知っていた
「これは旦那 何事で」

おしずと主膳が事情を話し 京助とならず者らはひとまとめにお縄となる


その後 幾度も娘の危ないところを救われたおしずの両親は滅法 主膳の人柄にもに惚れこんだ
主膳が固辞しても どうか娘を嫁にとー

親は娘には弱い

この御方なら娘が惚れても当然と

ほとほと呆れて主膳はおしずに言う

この血筋 自分一代でおしまいにするつもりだーと

おしずは めげなかった
おしかけるように主膳の家に居付きー


根負けしたのは男の主膳の方だった

彼もまた寂しかった
孤独な男に おっとりとはしているけれど 芯は強いしっかり者の娘
恋の勝敗は見えていたのかもしれない

おしずには もう振袖は必要ない







「よたばなし」-15-

2019-06-10 14:56:34 | 自作の小説
ー振袖狂乱ー

気に入ったかー魔のモノに魅入られたは おしずの不運
それが己への娘らしい思慕の念ゆえに
ならば哀れを誘う

あの無垢で清らかな娘をこうも汚すか

「お前は この娘の為にはならぬ」

主膳の言葉におしずに憑いたモノはせせら笑う
「何とすると 我が身は妖し その刀では我は斬れぬ この娘の体が傷つくだけ
それに ほれ哀れやな お前の拒否の言葉に娘は傷つき 我の中で泣いておる
我が離れると この娘 羞恥から自ら果てるやもしれんぞ」


「案ずるな 俺には一つ方策がある」

主膳はおしずに当身を喰らわせ肩に担いだ

「お前!」
意識ないおしずが魔物の声で口をきく

振袖の形となる魔のモノは主膳が何者かを知らぬ「何をするつもりだえ」


「案ずるな 天下の往来は人目につきすぎる 何をしようにも・・・な」


「信ぜぬぞ 男というケダモノは女を騙す 犯す 食い物にする
我が妻でさえ 己が出世の為に利用する
金の為に娘さえ売る」


「そんなろくでもない男の一人であるこの身にお前は その娘をけしかけ誘わせたではないか」


ソレは言葉に詰まった・・・・・
だが今はおしずに憑いていて 離れられぬ

主膳がどうするつもりか好奇心もあったのだ

此の世との依り代となっている娘おしず


おしずは魔のモノにその身の自由を奪われていて 魔のモノの内側から魂がもがいている
ーこれは わたしがしたい事ではないのに 言いたいことではないのに
ー出して 出して ここから出して


振袖が帯がおしずの体を身動きとれなくし 締めあげる


おしずは もう一度自分を救ってくれた男に逢いたかった
娘らしい憧れを持って

言葉を交わせたら それで良かった
それで嬉しかったのに

娘の着飾りたい気持ちに ソレはつけこむ
取り入る

娘の魂を取り囲み・・・・・・


主膳が壊れた塀から入っていったのは荒れ寺だった 住職どころか狐狸さえ逃げていきそうな薄気味悪さ
本堂だったらしき場所で主膳は足を止め おしずの体を下に置いた

「ここは・・・」魔のモノが気味悪げな声を立てる

「先代の住職は ここで果てた
大層な化け物と戦って血を吐いて死んだ」

おしずの体の横に腰を下ろした主膳は乾いた口調で続けた
「たまにいるのさ 人間も生まれつき人外の輩に対抗できる力を持った者が そういう家系もある
先代の住職は気の毒に その力を二親から気味悪がられ寺に捨てられた

寺はその力を重宝に使って金儲けしていたよ
欲にかられた先々代の住職は そうした欲深い人間にあだなす化け物に取り込まれてな
妖怪と成り果てた

先代の住職を親が捨てたのは 双子だったからだ
親は気味悪く思う子供の方を捨てた

双子の片割れは いつか自分に兄弟がいたことも幼さゆえに忘れ 随分大きくなるまで存在を知らなかった
乳母が教えてくれるまで兄弟が何処にいるかもわからなかった


兄弟の死闘に双子の片割れは間に合わなかった
助けてやれず看取るしかできなかった

ただ その最期の言葉を聞くしかー」

「その双子の片割れがー」

「ああ・・・・ここは兄弟の血が染みた場所だ 」

兄弟の遺産 それは血による化け物封じの結界

この寺の最後の住職となった若者が魂の最後のひと欠片までも・・・

魔を封じる場所として

「おのれ おのれ たばかったな」ぎりぎり歯噛みをする おしずの体を使って話す魔のモノは
おしずの体を覆う振袖がひくひく震える

「ただ封じるだけでは いつかお前はまた人に仇なそう 完全に消えていただく」

「どう・・・やると・・・」


魔のモノの声が怯えを含む
ただの人間が自分という存在に何かできようはずがない
しかし いっそ疲れたような主膳が不気味だった
魔のモノを怯えさせる男

その魔のモノを何処からか現れた二本の腕が おしずの体から引き離した
「つかまえた」

主膳には二本の腕の持ち主が視(み)えたらしい
「ご助力忝い」

腕の持ち主は明るい陽気な声でこたえた「とどめをどうぞ」


「や・・・やめろ やめろ やめろ やめろ!」未練がましく振袖の形をしたモノはもがく 暴れる

主膳が懐から出したモノは青い炎
それが魔のモノを貫いた


ザ・・・ン
ソレは消えた


ソレをとらえていた二本の腕も消える




休日もやっぱり台所

2019-06-09 12:17:52 | 子供のこと身辺雑記
基本 日曜日は姑の家に行かなくていい私にとっては出かけないでいいお休みの日♪

台所に一日張り付いていなくていいし そこそこ以上に手抜きで過ごせる

朝食の片付けが終われば お昼と夕飯の下拵えなども済ませ 使う野菜もさっさか切って あとは調理するだけーなんぞにしておく
出る生ゴミもまとめて庭に埋められるし

あとあとのラクっばか考えて過ごしている


雑誌の付録で見つけたレモンカードを作ってみました










取り立てて難しいものではありません

やや大きめの手鍋に湯を沸かしておき そこにバターを入れた容器を置いて溶かしておきます
電子レンジで数分加熱でもOK

今回は湯せんにお湯を使うので 使い回しで


レモンを絞っておきます

使う量のグラニュー糖も小鉢に取り分けておく

大きめのボウルに卵一個を割り入れて 泡だて器でほぐし混ぜ
レモンの絞り汁・溶かしておいたバターを加えます

グラニュー糖を加えたら 湯の入った手鍋にのっけて ゴムべらでまぜます

へらが重くなったぞ とろみついてきたんじゃないーとなったらできあがり


目の粗いざるで漉して バットに入れて冷蔵庫へ
1時間もしたら保存容器に移して下さい

トーストにつける プリンに添える パイとかタルトの中身にも使えます














三角に切ってから 溶き卵・蜂蜜・牛乳・シナモンパウダー・バニラエッセンスに漬けておいた食パン

バターを溶かしたフライパンで両面焼いてから ピザ用チーズをのせて鍋の蓋をして数分して火を止める

皿に置いてから レモンカードを少しかける





有り合わせ野菜とウィンナー・固形ブイヨンがあれば作れるポトフもどき




黄な粉と牛乳のプリン ゼラチンを使うので簡単です






宮崎県の従兄から届いたマンゴー
二日ほどしたら 食べごろだそうです

見下ろしたい猫

2019-06-08 09:39:56 | ペット
パソコンの奥にプリンターを置いています
私がパソコンで遊んでいたら 瑠奈は時々プリンターの上に乗って 上から私がする事を見ています







棚二つのパソコン机

上の棚と下の棚との間の狭い空間が落ち着くようです



私の膝の上

パソコン机と飛び移っていく瑠奈ですが キーボードを踏むこともあり ちと迷惑です

おかずから

2019-06-08 09:31:29 | 子供のこと身辺雑記



姑に届けるおかずは煮物が多いのだけれど 時々邪道おかずを入れて遊んでみます
サツマイモを皮ごと蒸し器で蒸す
温かいうちに皮をむき 大きめのボウルに入れてポテトマッシャーで潰す
グリンピース・刻んだハムとチーズ・卵・唐揚げ粉と混ぜる

サランラップで包むかナイロン袋に入れて冷蔵庫へ

冷えて固くなったところで好みの大きさに切り分け 団子に丸めて揚げる

中に入れる具を変えれば おやつにもなります





溶いた卵に茹でたほうれん草・薄く切った蒲鉾など入れて焼いたもの

中に入れる具はハムか魚肉ソーセージを薄切りしたのと刻んだ葱を合わせることも

米澤穂信著「本と鍵の季節」 (集英社)

2019-06-06 00:20:11 | 本と雑誌
本と鍵の季節 (集英社文芸単行本)
米澤穂信
集英社



堀川次郎と松倉詩門は高校二年生で図書委員をしている
二人共成績は上位の方

何故か相談事が持ち込まれたり 遭遇した謎を解いたり
そんな日々は 松倉の父親が残した謎にも向き合う時へつながっていく


「913」図書委員を引退した三年生の先輩から 亡き祖父の金庫の鍵をあけてほしいー
頼まれて先輩が案内した家に向かった
謎を解いた二人は 先輩の嘘に気付く


「ロックオンロッカー」散髪した店での異変 堀川と松倉は 何が起きていて誰が犯人なのか
推理する


「金曜に彼は何をしたのか」
図書委員の後輩の兄が教師から勝手に犯人と決めつけられてしまった
兄にはアリバイがあるはずなのに
があるはずなのに
そんな相談を受けた堀川と松倉は その兄が何をしていたか推理し確認を

あるオチつき



「ない本」
自殺した三年生が最後に読んでいた本を捜してほしい そこに遺書があるはず
同じ三年生からの頼まれごと

だけどそれは ありえない本


「昔話を聞かせておくれよ」
松倉の昔話は一つの謎につながっていた
その謎解きを手伝う堀川

「友よ知るなかれ」

「昔話をー」と続き松倉の父のこと
堀川は松倉が隠していることに気付いていた

松倉の秘密を知っても 学校で松倉を待つ堀川

松倉は学校に来るだろうか





まあまあ幸せな人生です

2019-06-05 09:32:27 | 子供のこと身辺雑記
友人に美容師がいる
彼女は大阪で暮らす闘病中の父親と高齢と病気とで在宅では手が回らず施設へ世話をお願いするようになった姑の所に通いつつ 自分の店で頑張っている

けれどやむを得ぬ事情で店を開けていられない事の方が多い

だけど私の姑は この友人の店でなくては行きたくないと言う

友人は自分の母親を看病して看取り 自分の姑の介護も長く続けてきた

だから洗髪や 足元が頼りない姑にもとても優しく接してくれる
ツボが分かっているというか

耳が遠い相手への話しかけ方も巧みだ

それで随分前から友人が時間が空けられる日を尋ねておいて予約して 姑を連れていくことになる

先月末 私は左目への注射など眼科の治療があったので 友人に月が変わってからの都合の良い日を尋ねておいた
姑には「来月 髪を切りにいきましょうか」と告げて

嬉しそうな姑
暑くなってきたからすっきりさせたかったらしい


親切で仕事は丁寧で上手
そのうえ友人の店は とっても料金も申し訳ないくらいに安いのだ

それで姑の家へ迎えに行って友人の店で姑のカットと洗髪などなどしてもらった

それから家まで姑を送り届けて 今度は姑のお昼ご飯の片付けまで済ませて

午後からは私は染めてもらいに友人の店へ行ってきた

優しい友人と他愛ないバカ話して 

帰宅してからまずは花に水やり

裏口横のプランターにも水やりしていたら 塀越しに隣家の末娘(小学生 低学年 とてもかわいい)が声をかけてきた

「髪切ったん 」

「 眼の治療で頭に頭巾被るからね 短くしてるの」

「似合ってます かわいいです」

「有難う いやあ もうババアだしね」と笑ったら 首を振る性格の良いコ
かわいい子に「かわいい」って言われてもね その前に美容院の大きな鏡で 自分の真実の姿見ちゃってるし(笑)

そしたら何かの拍子に「幸せな人生でしたか?」って尋ねられてしまった

この日 隣家の末娘は熱があって学校を休んで家に一人で寂しかったのかもしれない

どう答えようか ちょっと空を見上げて考えた
「どうかな まあまあ幸せってとこかな 幸せは心の持ちようって言うしね」

それからそのコのお姉ちゃんの話など暫く聞いて 別れて家に入った



そして夕方 再び姑の家へ行き食事の用意をしていたら帰宅した夫

姑を見て私に言った
「綺麗になってる 有難う」


だがー夫は私が髪を随分短くしたことには気付いていないようだった

まあ いつもの事だけれど





玄関前の鉢植えの紫陽花









駐車場の鉢植えの紫陽花

中山七里著「総理にされた男」 (宝島文庫)

2019-06-03 16:24:04 | 本と雑誌
総理にされた男 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
中山 七里
宝島社




売れない役者の加納慎策は 時の総理に生き写しな事から その物真似で舞台の前座をつとめている
役者では食えないことから 恋人の家に同居
それも男としては心苦しいのだが

彼を愛する珠緒は全然苦にはしていないのに

そんな加納は車へと拉致される

真垣統一郎総理大臣急病
しかも極めて重いー

政権を取り返したばかり 安定してはいない中 政権維持の為に内閣官房長官の樽見政純は奇策を思いつく

似ているとネット動画にもある人物に・・・総理を演じてもらおう

偽物総理を自分の操り人形にしようと思っていた樽見は やがて加納が演じる総理という政治家に夢を見始める


自分達が失った純粋さ

その資質は敵対する人間すら動かす

そんな中 加納を捜し続ける珠緒は 総理大臣に加納と同じ貧乏ゆすりのクセを見つける

本物の総理大臣の死
樽見は 加納に総理大臣の真垣であり続ければいい
死んだのは加納だと


友人の風間からも知識を得つつ 政治ド素人の加納は人を思う心で突き進んでいく

だがー風間からは切り離され

アルジェリアの日本大使館がテロリストに占拠され 彼等は自分達の希望が通るまで 日本人の人質を殺していくといい実行し続ける

そして・・・樽見までが倒れ重体に


大変な事態の中 人質となった日本人を救う為に加納は大きな決断を下す

彼はテレビを利用し国民の審判を待った


加納の帰りを待ち続けている珠緒は いきつけの店が貸し切り状態になっていることに気付く

そこに現れた男は

珠緒がひたすらに帰りを待ち続けていた男は 全ての事情を話し終えると こう続けた

「それについては一つの腹案がある

ファーストレデイになってくれないか」




有り得ない話だけれど 今後のことも とっても心配だけれど
こういうおとぎ話があってもいいかなと

苦労の絶えない人生になりそうですが
他人の名前で生きていくのだから

「よたばなし」-14-

2019-06-01 20:31:38 | 自作の小説
ー彼についてー

勝手知ったる様子で木面衣都子(きづら いとこ)の研究室に勢いよく入ってきた長身の女性は ちとがっかりした表情になる

「今日は誰もいないんだ」


衣都子は呆れた顔になる
部屋の主がいるのに誰もいないとは随分な言い草だ

「あたしは幽霊か」

「ああ ごめん 衣都子」てへへ・・・・と笑って誤魔化す


「全くね たまにはよそでお昼食べなさいよ」

「学食安いしおいしいもん 持ち帰りもできるし
今の会社に就職決めたの大学に近かったからだもん かと言って衣都子ほど優秀じゃないから大学には残れなかったし」


「それ会社の人が聞いたら嘆くよ」

長身の女性 加東玲羅(かとう れいら)は衣都子と同期 十代からの親友だ
「いいの衣都子と離れたくなかったんだもん それに最近はイケメン鑑賞の愉しみもあるし
衣都子の後輩のコ クールよね
それにオマケで時々来る賑やかなのも 
自分より背が高い男がいると 見上げられていいの」


「ああ深空野(みそらの) あれはクールじゃなくて 生身っぽさがないというか
謎の生き物だわ いい奴だけど


勝手に連れ振舞いする上品(かみしな)は 逆に感情の起伏が激し過ぎてね
学部の学生が 可愛い女子が行方不明とかで大騒ぎして捜してる
深空野も巻き込まれたんじゃないかな」


「あらら・・・・行方不明って?」

ちょっと衣都子は溜息をついた
深空野に上品が自称・親友と離れない人懐こさ・・・玲羅にもそれに似たところがある

一旦興味を持てば納得できるまで その話題から離れない

「ほら 差し入れ食料は4人分あるわ 優しい親友のおかげで学食まで行かずに済むのよ
食べながら詳しく教えてよ」


それで時々研究室に来る大野莉子に上品が一目惚れしたこと
でも莉子は 実は深空野が好きらしいこと
全然気づいていない深空野
「あれは 本当 自分に寄せられる好意には超鈍感だから」

「あらあ そこがいいんじゃない」と玲羅はにっこり


「でねえー」と衣都子は続ける
少し以前から妙な振袖が噂になっていたこと

それもどうやら片想いにせよ恋している娘が ある振袖を手に入れると様子がおかしくなり 居なくなったり事故にあったりする
そして振袖は消えているーと


どうやら莉子も振袖を手に入れていたらしいこと

「でも振袖って高いよね そうそう学生じゃ買えるものでも」

「古着屋さんで見つけたらしいわよ」


「それが どうして深空野クンまで巻き込むの」

「ほら上品だから 深空野はなつかれると弱いみたいなとこあるしね」

「ふふふ・・・・」玲羅が意味ありげな笑みを浮かべた
「なんのかんのと言いつつ 深空野クンのこと 気になってるんじゃない」

「そりゃ後輩だからね」


「いや~~違うって ラブよラブ そりゃちっとは年下だけどさ ありゃあ中々の男じゃない」

衣都子は人差し指と中指で眼鏡を押さえた「あのね 私は職場に色恋は持ち込まないの」

「恋は思案の他って言うじゃない」

続く玲羅の軽口に衣都子がじろりと睨む「次から立ち入り禁止にしてやろうか」


「ははは・・・・降参 分かった分かった もう言いません 」小さく「今日は」と続ける
更に言う「ここはオアシスなのよ さて一休みしたから会社に戻るわ 残り食べていいからね」

玲羅が出ていくと部屋がひどく静かに感じられる
アイスオーレの入っていた紙コップに残った氷を衣都子は一つ噛み砕いた

パソコンに書きかけていた文章に戻る

しかし そうそう気持ちは切り替えられるようで 切り替えられない
ーありゃあ 中々の男じゃないー
親友の言葉が頭に残ってる

そうー衣都子は自宅のちょっとしたトラブルを片付けて貰った時に 真夜のひどく人間離れした面を見てしまった
口止めされるまでもなく誰に対しても言いふらす気はない

褒めたつもりで漏らした言葉に飛びつく上品のような人間もいる
それでも上品は謎の節度があり真夜に対し仁義を守っているようだ
しかし世の中には悪意に満ちた人間もいる
真夜の特殊性は秘密にしておいたほうがいい

真夜がまだ大学生の頃 いまどきの若者らしくない
こう超越した静けさを感じて 
無口というのでなく 口がかたいところも

だんだん こいつ信用できる

学業も優秀だし

見た目 細いので文が勝っている青年かと思っていたが からんできた相手をどうやったか倒したのも見た

「コツがある それだけ」

腕を自慢することもない

女学生が真夜を好きーそんな噂は耳にしたことがあるが 超鈍感男の真夜は気付かず

逆に真夜が誰かを好きだ 恋している そんな話は聞いたことがない

千ほども運命の相手がいるらしい上品は別にしても


真夜と恋愛が結びつかない
男として 雄という生き物としての真夜が想像できない
そうした面は欠落しているのではないかと思える

頼れる良き後輩なのだが

あれはどんな人生を歩んでいくのだろう

衣都子が案じることでもないのだが