【社説】:「東日本大震災8年」 息長く支援続けるために
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:「東日本大震災8年」 息長く支援続けるために
2011年の東日本大震災からきょうで8年になった。
1万5897人が死亡し、今なお2533人が行方不明のままだ。約5万2千人が各地で避難生活を余儀なくされている。
巨大な地震と津波に、東京電力福島第1原発の過酷事故が重なり、8年を過ぎても地域の再生は容易ではない。
被災者の生活再建は道半ばだ。福島第1原発は、廃炉のめどさえ全く立たない。
もともと過疎に悩んでいた被災地は、震災により人口減少と高齢化が加速した。こうした課題を踏まえ、これまでの復興政策を検証する必要がある。
国が被災地を重点支援する「復興・創生期間」は21年3月で終わり、復興庁は廃止される。
政府は、復興庁の後継組織を設ける方針だ。被災地の声を十分にくみ取り、息の長い支援を行うための組織としなければならない。
日本は近年、地震や豪雨、火山噴火などの災害に繰り返し見舞われている。大震災を教訓にした、防災から復興までを担う「司令塔」の創設も検討課題だろう。
■孤立化防止欠かせぬ
岩手、宮城、福島の被災3県ではこれまでに、ストレスによる体調悪化や自殺などの震災関連死が3600人を超える。
震災でコミュニティーを失い、不便な仮設住宅で失意のうちに孤独死する人は少なくない。
新たな生活拠点である約3万戸の災害公営住宅が3県に完成し、約2万7千人が入居した。
ただ、災害公営住宅は65歳以上の高齢者が4割を超え、地域の平均を上回る。独り暮らしも目立つ。15年に14人だったここでの孤独死は、17年には53人に増えた。
近所づきあいも希薄となり、プライバシーが守られる一方で隣人の異変に気づきにくくなる。
孤立化の防止、見守り態勢の充実、コミュニティー形成の支援など、福祉とも連携したきめ細かなサポートが欠かせない。
津波被害を受けた漁港の再建、水産加工業の人手不足対策といった産業再生の後押しも急がれる。
福島県では、除染で出た土の袋約1千万個分が10万カ所以上の仮置き場などに置かれたままだ。
帰還困難区域を除くほとんどの地域で避難指示が解除されたが、帰還率が1割に満たず、存続さえ危ぶまれる自治体もある。
子どもの教育や、放射性物質に対する危惧など、故郷に戻らぬ理由はさまざまある。個々の事情に寄り添った支援が不可欠だ。
帰還を押しつけるようなことはあってはならない。
気がかりなのは、道内を含む自主避難者への家賃補助などが、今月末で打ち切られることだ。
ぎりぎりの生活を強いられる人も多く、柔軟な対応を求めたい。
■防災体制の再構築を
政府は、福島第1原発事故への対応は今後も中長期的に責任を持ち、津波の被災地では心のケアなどを一定期間続けるという。
復興庁の後継組織がその中心的役割を果たすことになるだろう。
問題は、現在の復興庁が省庁横断といいながら、各省庁の出向者で構成される寄り合い世帯の感が否めず、仕事も自治体などの調整にとどまりがちだったことだ。
リーダーシップを発揮したとは言い難く、経験の蓄積という点でも疑問が残る。
全国知事会や専門家などは、災害対応を一元的に引き受ける「防災省」の設置を訴えている。
1995年の阪神大震災以来、こうした組織の必要性が繰り返し指摘されてきたが、政府は消極姿勢を崩さない。
昨年だけでも大阪北部地震、西日本豪雨、胆振東部地震など災害が多発している。
最悪で死者32万人以上が想定される南海トラフや、首都直下、道東沖の巨大地震はいつ発生してもおかしくない。
財政的な裏付けを確保する観点からも、防災省構想も含め、体制の再構築を検討するべきだ。
■経験の伝承が大切だ
災害に関する各種業務が多くの省庁にまたがる現状は複雑で、機敏な対応も制約されよう。
59年の伊勢湾台風を受け制定された災害対策基本法や、阪神大震災をきっかけにできた被災者生活再建支援法など、大災害のたびに、対策が追加されてきた。
災害法制を見直し、国と自治体の役割分担や責任の明確化といった課題を洗い出す必要もある。
自治体側も、防災ハザードマップの更新に加え、被災時の避難経路や災害弱者の支援方法の確認に努め、住民に広く周知しなければならない。
住民と協力して防災力を高めるとともに、東日本大震災の記憶を風化させず、経験を伝承していくことが大切だ。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2019年03月11日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。