【社説】:景気動向指数 後退への黄信号と捉えよ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:景気動向指数 後退への黄信号と捉えよ
景気の雲行きが怪しくなってきた。内閣府が発表した1月の景気動向指数の速報値によれば、景気の現状を示す一致指数が3カ月連続で悪化した。それらを基に機械的に判定した基調判断は「下方への局面変化を示している」といい、数カ月前に景気のピークである「山」があった可能性が高いという。
その1月には、景気の拡大期間が戦後最長を更新したというニュースが流れていた。いったいどうなっているのか、と戸惑う人も多いだろう。
景気に関する政府の公式見解は、毎月発表される月例経済報告だ。国内外の経済状況を分析して足元の景気を判断する。1月の発表の際、茂木敏充経済再生担当相は「政権復帰をした時に始まった今回の景気回復は今月で74カ月となり、戦後最長になったとみられる」と述べた。
景気拡大が始まったのは現在の安倍晋三政権が誕生した2012年12月。政府は経済政策「アベノミクス」の成果で景気が上向いたとアピールしてきた。
大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略を「三本の矢」として取り組まれているのがアベノミクスだ。確かに円安ドル高の為替相場が輸出の追い風となり企業業績は好調で、有効求人倍率は全都道府県で1倍を超え、雇用環境は大幅に改善した。海外からの観光客が増えて地域経済にも活気がある。
ところが1月の景気動向指数は「戦後最長更新」が幻だったことを示唆する。もとより、景気拡大が言われた期間でも、それに見合うほどの賃金上昇は伴わず、好景気を実感できない人が多かったのも事実だ。
景気循環の「山」や「谷」があったかどうか、あったのならそれはいつだったのかの判断は有識者研究会の検証を経て決定する。結論は1年ほど先の見通しで、政府は今も景気は緩やかに回復という認識に「変わりはない」との説明を続けている。
当面は今月の月例経済報告が注目されるが、景気の実態を的確に認識することが何より大切だ。政策判断の前提となるからだ。医者が誤った診断を基に薬を処方すれば、患者の症状は改善どころか悪化の恐れもある。
好調だった世界経済に陰りが見える。中国経済は米国との貿易摩擦で成長が鈍化し、19年の実質成長率目標を引き下げた。中国向け輸出の不振で、日本の半導体メーカーが九州を含む工場で大幅な減産計画を発表するなど影響が広がっている。
10月には消費税の増税を控えている。政府は、今回の速報値を「日本経済の先行きに黄信号がともった」と捉え、これまで以上に、実体経済の動きに目を凝らす必要がある。
=2019/03/14付 西日本新聞朝刊=
元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】 2019年03月14日 10:48:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。