路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

 路地裏のバーのカウンターから見える「偽政者」たちに荒廃させられた空疎で虚飾の社会。漂流する日本。大丈夫かこの国は? 

【社説】:景気動向指数 後退への黄信号と捉えよ

2019-03-15 00:20:40 | 【経済・産業・企業・起業・関税・IT・ベンチャー・クラウドファンティング

【社説】:景気動向指数 後退への黄信号と捉えよ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:景気動向指数 後退への黄信号と捉えよ 

 景気の雲行きが怪しくなってきた。内閣府が発表した1月の景気動向指数の速報値によれば、景気の現状を示す一致指数が3カ月連続で悪化した。それらを基に機械的に判定した基調判断は「下方への局面変化を示している」といい、数カ月前に景気のピークである「山」があった可能性が高いという。

 その1月には、景気の拡大期間が戦後最長を更新したというニュースが流れていた。いったいどうなっているのか、と戸惑う人も多いだろう。

 景気に関する政府の公式見解は、毎月発表される月例経済報告だ。国内外の経済状況を分析して足元の景気を判断する。1月の発表の際、茂木敏充経済再生担当相は「政権復帰をした時に始まった今回の景気回復は今月で74カ月となり、戦後最長になったとみられる」と述べた。

 景気拡大が始まったのは現在の安倍晋三政権が誕生した2012年12月。政府は経済政策「アベノミクス」の成果で景気が上向いたとアピールしてきた。

 大胆な金融緩和、機動的な財政出動、成長戦略を「三本の矢」として取り組まれているのがアベノミクスだ。確かに円安ドル高の為替相場が輸出の追い風となり企業業績は好調で、有効求人倍率は全都道府県で1倍を超え、雇用環境は大幅に改善した。海外からの観光客が増えて地域経済にも活気がある。

 ところが1月の景気動向指数は「戦後最長更新」が幻だったことを示唆する。もとより、景気拡大が言われた期間でも、それに見合うほどの賃金上昇は伴わず、好景気を実感できない人が多かったのも事実だ。

 景気循環の「山」や「谷」があったかどうか、あったのならそれはいつだったのかの判断は有識者研究会の検証を経て決定する。結論は1年ほど先の見通しで、政府は今も景気は緩やかに回復という認識に「変わりはない」との説明を続けている。

 当面は今月の月例経済報告が注目されるが、景気の実態を的確に認識することが何より大切だ。政策判断の前提となるからだ。医者が誤った診断を基に薬を処方すれば、患者の症状は改善どころか悪化の恐れもある。

 好調だった世界経済に陰りが見える。中国経済は米国との貿易摩擦で成長が鈍化し、19年の実質成長率目標を引き下げた。中国向け輸出の不振で、日本の半導体メーカーが九州を含む工場で大幅な減産計画を発表するなど影響が広がっている。

 10月には消費税の増税を控えている。政府は、今回の速報値を「日本経済の先行きに黄信号がともった」と捉え、これまで以上に、実体経済の動きに目を凝らす必要がある。

 =2019/03/14付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】  2019年03月14日  10:48:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【春秋】:超科学兵器を使った最終戦争…

2019-03-15 00:20:30 | 【防衛省・自衛隊・防衛費、大綱・沖縄防衛局・軍需産業・Jアラート・シェルター】

【春秋】:超科学兵器を使った最終戦争…

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【春秋】:超科学兵器を使った最終戦争… 

 超科学兵器を使った最終戦争。たった60分で文明は崩壊した。生き残った人々は車輪で移動する都市を築いた。大都市は小都市を襲い、食料や資源を奪って生き残る壮絶な弱肉強食の世界になっていた…

 ▼「ユートピア(理想郷)」とは正反対の社会「ディストピア」を描いた英作家リーブの小説を映画化した「移動都市 モータル・エンジン」が公開中だ

 ▼現実に発達した科学兵器を用いた大戦が起きたら、世界はどうなるか。天才科学者は答えた。「第3次世界大戦がどのように行われるかは分からない。だが、第4次世界大戦が起こるとすれば、その時に人類が用いる武器は石とこん棒だろう」

 ▼核戦争をすれば人類の大半は滅び、文明は崩壊する-。映画のようなディストピアの未来に警句を発したのは、現代物理学の父、アインシュタインである

 ▼ナチスの迫害から逃れて米国に渡ったアインシュタインらは、ナチスの原爆開発を恐れ、先に開発するよう進言した手紙を米大統領に送った。それが、米国の原爆実用化のきっかけになったともいわれる。晩年のアインシュタインは、広島、長崎への原爆投下に心を痛め、大統領への手紙は「間違いだった」と言い残した

 ▼米ロが中距離核戦力(INF)廃棄条約の停止を表明するなど、今、世界は核廃絶の理想から後退しつつある。きょう生誕140年を迎えるアインシュタインの警句を思い起こしたい。

 =2019/03/14付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【春秋】  2019年03月14日  10:47:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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【風向計】:見過ごした有刺鉄線 東京運動部長 西口 憲一

2019-03-15 00:20:20 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【風向計】:見過ごした有刺鉄線 東京運動部長 西口 憲一

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【風向計】:見過ごした有刺鉄線 東京運動部長 西口 憲一 

 道を隔てた向こう側に警察署、校門を出れば自衛隊の駐屯地や刑務所の塀が近くに見えた。私が三十数年前に通った北九州市内の高校にはフェンスに有刺鉄線が張り巡らされていた。こんな物々しい環境だからかなあ、ぐらいにしか当時は感じていなかった。

 「生徒が脱走しないようになのか、不審者の侵入を防ぐためなのか。戦地じゃあるまいし、そんなもの学校にそぐわんやろ、と」

 声の主、久保英二校長は私の先輩であり恩師でもある。私の在校時は常勤講師になりたての20代の熱血漢だった。時は流れ、校長として母校に戻った2014年春、手掛けたのが有刺鉄線の撤去。「現場の『今』に疑義の念を抱かない姿勢が一番の問題。ましてや自分が通い、最初に教壇に立った学校だから」。地域の声だけでなく、己の中で湧いた疑問にも耳を傾けた。

 誕生日が8月15日。人一倍平和への思いが強かった。「誰かに生かされている、助けられている」との思いが“背骨”となり、「誰かの力になりたい」と教育者を志した。情熱や行動力を買われ、校長就任2年目には、福岡県高校野球連盟の会長にも就いた。

 少林拳の経験こそあれど、野球は門外漢。それでも、夏の大会中に出場校が希望する1日だけは全校生徒の入場を無料にする「全校応援の日」を設けたり、初めて副会長に女性を登用したりした。「高校野球は、家族やファンなど多くの女性に支えられている」。球場に女性用トイレを増設したのもその副会長の「なぜ」を反映させた結果だ。

 県高野連は17年春、指導者による「体罰撲滅宣言」を採択。野口敦弘理事長(57)とともに改革に取り組む一方、各学校を通じ球児に自分たちが取り組むべき誓いを立てさせた。県高野連のホームページ冒頭にあるスローガン「恩返し」も、各校の主将が案を持ち寄って決めた。先月末の理事会で確認された18年度の不祥事は前年度から約3割減り、いじめや体罰など悪質なものはなかったという。

 「即席で成果が出たらどんなに楽やろ、とも思った。でも問題から逃げずに、こつこつと地道にぶつかっていくことが教育なんかもしれん」。校長と会長。昨夏で60歳となった久保校長は今月いっぱいで二つの肩書が外れる。

 「既成概念にとらわれず、まずは動いてみることじゃないかな」。殺伐とした有刺鉄線を気にも留めなかった高校生の頃のように、大切なものを見過ごしていないか。はなむけの言葉を贈るつもりで設けた酒席で、逆に贈られた恩人の言葉を反すうする。

 =2019/03/13付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【風向計】 2019年03月13日  10:55:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説】:新出生前診断 安易な普及は許されない

2019-03-15 00:20:10 | 【医療・診療報酬・病気・地域・オンライン診療・マイナ保険証・薬価・医療過誤】

【社説】:新出生前診断 安易な普及は許されない

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:新出生前診断 安易な普及は許されない 

 不安を抱かざるを得ない実施要件の緩和である。

 妊婦の血液から胎児の染色体異常を調べる「新出生前診断」について、日本産科婦人科学会が新たな指針案をまとめた。

 現在は、豊富な知識を持つ産婦人科医と小児科医がいて、うち1人は遺伝の専門医の資格を持つことが、診断を実施できる認定施設の要件である。新指針案では、学会指定の研修を受けた産婦人科医がいる「連携施設」でも検査できるようになる。

 この診断は2013年に臨床研究として始まった。主眼は、予測される多様な心身の障害に関する情報を妊婦に提供することにある。このため、検査の意義や精度、出生後の経過には個人差があること、障害の側面だけで子ども見ないことなどを、丁寧に説明するカウンセリングが欠かせない。学会が認定施設に厳しい要件を設けたのは、そうした手厚い態勢を保障するためだったはずだ。

 認定施設は全国に約90ある。高齢出産の増加などを背景にニーズが高まり、ルールを守らずに検査を提供する無認定クリニックなどが出てきている。要件緩和の狙いは、こうした現状の是正にあるとされる。

 新指針が定める研修で、質の高いカウンセリングを本当に担保できるのか。妊婦側のニーズがあるからと軽々しく検査を勧める医師が現れないか。学会は春以降に新指針を正式決定するという。研修の実効性にも踏み込んだ丁寧な議論を求めたい。

 診断を経て胎児の染色体異常が確定したこれまでのケースでは、妊婦の約9割が中絶を選択している。子どもに障害があると分かれば、心穏やかではいられまい。家庭の状況によっては養育の負担に悩むこともあろう。それぞれの事情を踏まえ、悩んだ末に決断したに違いない。それを第三者が一律に批判することは到底できない。

 しかし、重い障害や疾患があっても、豊かな人生を送っている当事者や家族はたくさんいる。社会的支援をより充実させることで、家族の負担を軽減していくことは可能なはずだ。

 新出生前診断には「命の選別」につながる懸念が拭えない。きめ細かいカウンセリングを前提に、慎重に取り扱うべき医療技術だ。なし崩し的に広がれば、妊娠後の受診が一般化しかねない。やがては、異常が見つかれば、出産を控えることを当然視するような風潮が広がりはしないか。安易な普及には歯止めをかけるべきだ。

 私たちが目指すべきは、「多様な生」を認め、支え合う社会づくりのはずだ。議論を医学界に限定せず、社会全体で立ち止まって深く考える必要がある。

 =2019/03/13付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】  2019年03月13日  10:53:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【春秋】:「亀鳴く」は春の季語だが、実際はカメは鳴かない、と先日の小欄に書いた…

2019-03-15 00:20:00 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【春秋】:「亀鳴く」は春の季語だが、実際はカメは鳴かない、と先日の小欄に書いた…

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【春秋】:「亀鳴く」は春の季語だが、実際はカメは鳴かない、と先日の小欄に書いた… 

 「亀鳴く」は春の季語だが、実際はカメは鳴かない、と先日の小欄に書いた。同僚から「うちのカメは鳴くぞ」と“抗議”が。実は、わが家のカメも。鼻から息を吐くはずみに「キュ」、口を開けて「グゥ」。後者はげっぷの類いか

 ▼セミやスズムシは喉から声を出すわけではないが、一般に「鳴く」といわれる。「鳴く」は自らの意思で音を出すかどうかが重要なのかも

 ▼こいつも鳴くのか?と首をひねる変な季語が秋にも。「蚯蚓(みみず)鳴く」。辞書を引くと〈秋の夜、土中で「じいい」と鳴く声をミミズの鳴き声としたもの。実は螻蛄(けら)の声〉と

 ▼ケラはコオロギに似た虫で、土中に穴を掘ってすむ。前肢に発声器があるそうだ。一説では、一文無しを意味する「おけら」は、この虫が由来。正面から見ると万歳したような格好なので、「お手上げ」に見立てたとか

 ▼では、どうしてミミズは鳴くと思われたのか。こんな話がある。昔、ヘビは歌が上手だったが、目を持たなかった。歌を教えてほしいと頼むミミズに、ヘビは言った。「目と交換なら教えてやろう」。こうしてヘビは声を、ミミズは目を失った-

 ▼民俗学者の柳田国男は、歌のうまい盲目の座頭が、音曲の合間に語った物語ではないかと考えた。座頭は自身に重ねて、今は目がないミミズも、かつてはヘビのような美しい目を持っていたのだ、と。もしもミミズが鳴くのなら、きっと切ない声だろう。

 =2019/03/13付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【春秋】  2019年03月13日  10:50:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【風向計】:十七文字が伝える福島 佐世保支局長 前田 隆夫

2019-03-15 00:19:50 | 【原発事故・東電福島第一・放射能汚染・デプリ・処理水の海洋放出と環境汚染

【風向計】:十七文字が伝える福島 佐世保支局長 前田 隆夫

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【風向計】:十七文字が伝える福島 佐世保支局長 前田 隆夫 

 母ひるね そっともうふをかけるぼく (小4)
 がまんして 子の優しさに汗をかく (母)

 お母さんは毛布の中でたぬき寝入りをしているのかな。声に出して読んでみると、顔がまたほころぶ。

 福島県教育委員会が募集する「ふくしまを十七字で奏でよう 絆ふれあい支援事業」の2018年度入賞作(絆部門)の一つ。2人が暮らしの中で感じたことを五七五の十七字で伝え合う。組み合わせは親子、孫と祖父母、子ども同士、きょうだいでもいい。

 夏の海 七年ぶりの 磯遊び (小6)
 七年の 年月語る 防潮堤 (母)

 はじめてね そうまのうみであそんだよ (小1)
 我(わ)が子らに ようやく教えた塩の味 (父)

 さびしいな となりのおばちゃん 帰ってく (小4)
 復興と 言う名の別れもさみしくて (母)

 この3点は復興部門の入賞作。福島では昨年夏、東日本大震災以来初めて海開きがあった。波打ち際に子どものはしゃぐ声が戻ってきた。避難指示の解除も進み、帰郷と別れが交錯する。

 県教委によると、応募作品の趣が年々変化している。震災のつらさよりも、復興を感じる作品が増えたそうだ。

 「波の音を聞く子どもの耳や心が変わった。大人もそうです」

 審査委員を務める詩人で、高校教諭の和合亮一さん(50)は実感している。

 震災後しばらく、海や波の言葉に誰もが敏感だった。教科書に出てくるその言葉を、あえて飛ばす先生もいた。

 和合さんは最近、中学1年生が震災直後の体験をつづった文章に感慨を抱いた。「当時は5歳くらい。言葉を獲得して、あの時からずっと心の中にあったことを鮮明に書いていました。語りたい、という思いが伝わってきます」

 大人も子どもも、時を経たからこそ、表現できることがあるのだろう。

 この数年、福島や福岡で和合さんに会い、被災地の実情に接してきた。さまざまな変化の一方で、当たり前でない物が、当たり前のように存在する風景もあると聞いた。ある地域では震災犠牲者慰霊塔のそばに、フレコンバッグがどんと居座る。除染土を詰め込んだ、あの黒い塊だ。

 「それも福島の現実なんです」。8年がたって変わったこと、変わらないこと。両方に目を凝らしたい。

 =2019/03/12付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【風向計】 2019年03月12日  10:49:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説】:ポスト「復興庁」 国の責任を貫徹してこそ

2019-03-15 00:19:40 | 【政策・閣議決定・予算・地方創生・能動的サイバー防御・優生訴訟・公権力の暴力】

【社説】:ポスト「復興庁」 国の責任を貫徹してこそ

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:ポスト「復興庁」 国の責任を貫徹してこそ 

 復興庁が廃止されれば、国の支援が打ち切られたり、先細りしたりするのではないか-。

 そんな東日本大震災被災者の不安や懸念を拭い去り、「復興が成し遂げられるまで必ず国が責任を負う」という不退転の決意を貫徹すべきである。

 2020年度末で廃止される復興庁について、政府は後継組織を設置する方針を正式に決めた。8日に閣議決定した「復興の基本方針」に、「復興庁と同じような司令塔として政治の責任とリーダーシップの下で復興を成し遂げるための組織を置く」と明記した。

 巨大地震と大津波、原子力災害が重なった未曽有の大災害である。被災地の復興はなお道半ばという現状を考えれば、後継組織の設置は当然だろう。

 復興庁は「3・11」から9カ月後の11年12月に成立した復興庁設置法に基づき、12年2月に発足した。内閣に設置された首相直属の機関で、大震災後10年を復興期間と定め、法律上はそれが終わる21年3月末までに廃止される予定だ。

 復興庁は「被災地に寄り添いながら、前例にとらわれず果断に復興事業を実施するための組織」と自らを位置付けている。

 具体的には複数の省庁にまたがる政策・予算・事業の総合調整を担うとともに、被災自治体と政府を結ぶ一元的な窓口として機能してきた。岩手・宮城・福島3県に復興局があり、計約520人の職員を抱える。

 また、大震災の発生当初は防災相と兼務で復興担当相を置いていたが、復興庁の発足と同時に専任の復興相が任命された。

 新たな「復興の基本方針」では、後継組織を置く方針こそ明示されたものの、その具体像には触れていない。

 政府や与党では、現在の復興庁を内閣府に移管する案が検討されているという。内閣府の防災組織と統合して、復興事業と防災行政を一元化した組織をつくる案も浮上している。

 その場合、期限を区切らない常設の新組織となる一方、大震災復興以外の役割も担う。費用対効果も勘案しながら、大震災の被災者に「置き去りにされた」と感じさせない組織の在り方を柔軟に模索してほしい。政治の責任を明確にするため、担当閣僚は引き続き置くべきだ。

 組織形態だけでなく、財源確保も大きな課題である。「復興の基本方針」は「今後検討する」というレベルにとどまっており、復興を担う組織と財源をセットで論じる視点も求めたい。

 復興期間を通じ総額約32兆円と見込まれる復興予算は、どう使われたか。事業ごとの厳正な検証が後継組織論議の前提となるのは改めて言うまでもない。

 =2019/03/12付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】  2019年03月12日  10:48:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【春秋】:他人には意味が分からなくても、当事者には大切なやりとりがある…

2019-03-15 00:19:30 | 【医療・診療報酬・病気・地域・オンライン診療・マイナ保険証・薬価・医療過誤】

【春秋】:他人には意味が分からなくても、当事者には大切なやりとりがある…

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【春秋】:他人には意味が分からなくても、当事者には大切なやりとりがある… 

 他人には意味が分からなくても、当事者には大切なやりとりがある。フランスの作家ユーゴーが出版社に送った手紙は疑問符「?」の1文字。返信も感嘆符「!」の1文字。「世界で最も短い手紙」といわれる

 ▼「ああ無情」の邦題で知られる「レ・ミゼラブル」を出版したユーゴーは、評判が気になって「?」と書き送った。その返事が、売れ行き上々を伝える「!」

 ▼この7文字の意味は。「とうたすかかか」。人工透析治療を中止して死亡した腎臓病患者の女性=当時(44)=が亡くなる日の朝、夫に送ったメール。「何時(いつ)来るの?」「何時来るの?」に続く最期の言葉だ

 ▼妻の死の前日、夫は手術を受けた。翌日、麻酔から覚めると、妻は旅立っていた。夫は「とう(父ちゃん)たすけて」と打とうとしたのでは、と。携帯のメールは「か」を素早く4回打つと「け」に変換する。動かない指で3回打って力尽きたのか、と想像すれば胸が痛む

 ▼病院は、透析中止は死に至ると説明した上で継続か中止かを選択させた。女性は自分の意思で透析中止を決めたが、容体悪化後、中止撤回とも受け取れる発言をしたそうだ

 ▼苦しさで決心が揺らぐこともあろう。7文字は「生きたい」という必死の訴えのようにも。担当医は苦しむ女性に透析再開か苦しさを和らげるかを選ばせ、透析しなかったという。その対応には疑問符が付く。「無情」に思えてならない。

 =2019/03/12付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【春秋】  2019年03月12日  10:46:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【提論】:「地域主義」のラグビー 徳増 浩司さん

2019-03-15 00:19:20 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【提論】:「地域主義」のラグビー 徳増 浩司さん

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【提論】:「地域主義」のラグビー 徳増 浩司さん 

 ◆多文化共生のヒントに

 ラグビーのワールドカップ(W杯)日本大会の開幕までいよいよ200日を切り、開催を担当する者として、緊張感を覚える日々となった。

 4年前のW杯で日本代表は南アフリカを破る金星を挙げて、世界を驚かせた。その試合で決勝トライを決めたのが、ニュージーランド出身の選手だったことなどから、日本代表の選手資格について、質問を受けることがある。

 「なぜ外国人でも日本代表になれるのか」。ラグビーでは、本人や両親、祖父母の出生地ばかりでなく、その国に3年以上連続して居住した者も代表になる資格を有する。こうした「地域主義」は「国籍主義」の五輪やサッカーW杯などの他競技と違って、ユニークなルールと言える。

 背景には、ラグビーが普及した経緯がある。ラグビー発祥の地、英国から19世紀にニュージーランドやオーストラリアなどの植民地へ渡った英国人の扱いをどうするか。議論の末、「地元の人たちと一定期間、一緒に生活し練習すれば、仲間として認めようじゃないか。その国の代表としてプレーできるようにしよう」という独自のルールができた。国籍にかかわらず一緒に汗を流した仲間たちが一つのチームになって戦う。多文化共生や多様性が叫ばれる今日、ある意味、時代を先取りした発想ともいえようか。

   ---◆---

 労働力不足が深刻化しているわが国で、外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法が4月から施行される。本紙でも「新 移民時代」という連載で、日本での就業を目指すネパールの現状が報道されていた。法律の呼称は改正入管難民法だが、人口減が進む日本社会のあり方が大きく変わる一歩となるだろう。多言語対応や生活相談窓口の設置など、外国人労働者を受け入れる企業や自治体に、新たな負担や対応が求められている。

 私たちはここから後戻りはできない。段階を経て、海外国籍を持った方々が増えていくのは時間の問題だ。街に買い物に行っても、地域の集まりに参加しても、同じ住民として、常に一定数の外国人と触れ合うことになる。企業や自治体ばかりでなく、私たち市民一人一人が、日常生活のレベルで「新しい時代がやってくるんだ」という意識を持つことが大切だと思う。

 言葉も違う、生活習慣も違う。多くの日本人にとって、未知に近い体験となるに違いない。

   ---◆---

 そこで、提唱したいのが、教育現場においても、子どものころから、他国籍の友達と一緒に生活するシミュレーションをしたり、そういう題材を教材の中に積極的に取り入れたりしていくことだ。また、これまで以上に、近隣であるアジア各国との国際交流に重点を置き、取り組んでいく必要もあろう。

 もう一点、W杯の招致活動で世界を駆け回って痛感したことがある。最後に実際に投票してくれたのは、結局は個人と個人との信頼関係だった。自分の隣人がどこの国から来た人かという国籍ではなく、あくまで個と個として付き合い、信頼関係を築く。そのための努力を双方が続けていくことが重要だ。私たちが一緒に壁を乗り越えていかないと、先に進めない。

 ここで「地域主義」のラグビーがヒントになるのではないか。「(国籍にかかわらず)ずっと一緒に生活し練習して来たんだから、私たちの仲間だ」という発想だ。W杯で史上初の8強を目指す日本代表も「多国籍集団」ながら言葉や文化の壁を乗り越えて一丸となろうとしている。

 道のりは、決して簡単なものではないだろうが、国全体で先に進む一歩が、始まろうとしている。

徳増 浩司(とくます・こうじ)さん=ラグビーW杯2019組織委事務総長特別補佐

 徳増 浩司(とくます・こうじ)さん=ラグビーW杯2019組織委事務総長特別補佐

 【略歴】1952年、和歌山県生まれ。国際基督教大(ICU)卒、新聞記者を経てカーディフ教育大留学。帰国後、茗渓学園高ラグビー部を率い全国優勝。95年から日本ラグビーフットボール協会勤務。アジアラグビー会長を経て現在は同名誉会長。

 =2019/03/11付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【提論・明日へ】 2019年03月11日  11:00:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

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【社説】:原子力政策 国民的議論から逃げるな

2019-03-15 00:19:10 | 【原発事故・東電福島第一・放射能汚染・デプリ・処理水の海洋放出と環境汚染

【社説】:原子力政策 国民的議論から逃げるな

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:原子力政策 国民的議論から逃げるな 

 東日本大震災の発生から8年の節目を迎えた。避難者はなお5万人を超える中、東京電力福島第1原発事故の後始末が被災地復興の足かせとなっている。史上最悪レベルとされる原発事故の反省と教訓は、国の原子力政策に十分に生かされているのか。

 国民の間では、原発を減らして将来的にはゼロを目指すべきだとの意見が多い。なし崩しの「原発回帰」は許されない。

 安倍晋三政権は、原子力規制委員会が新規制基準に適合したと判断した原発は再稼働させる方針を堅持している。原発への不安がぬぐえない中で、これまでに九州電力川内原発(鹿児島県薩摩川内市)1、2号機、玄海原発(佐賀県玄海町)3、4号機など9基が再稼働した。

 新規制基準は、「安全神話」に陥り過酷事故を防げなかった反省から、地震や津波、テロなどに備え安全対策の強化を求めている。九電の場合、再稼働した原発4基に投じる安全対策費は九千数百億円に達する見通しだ。「想定外」の事故を再び起こさないための費用が膨らむ。

 ●「玉虫色」の基本計画

 政府は既存原発の活用には積極的なのに、原子力政策を正面から語りたがらない。昨年7月に閣議決定したエネルギー基本計画も、原発については「玉虫色」の取り扱いとなった。

 同計画はエネルギー政策の基本的な方向性を示している。風力や太陽光など再生可能エネルギーの主力電源化を打ち出した。

 原発については「可能な限り原発依存度を低減する」としつつも、安定性や地球温暖化対策の視点から「重要なベースロード電源」と位置付けた。

 2030年度の電源構成は再生エネ22~24%に対し、原発は20~22%とした。この実現には30基程度の再稼働が必要とされる。運転期間が原則40年と定められた原発を延命して再稼働させなければ達成できない。

 ベースロード電源として活用するなら新増設が必要なのに、政府は中長期的な議論を避けてきた。新増設問題が選挙の争点になるのを嫌って課題を先送りしているのなら、この国の将来に責任ある姿勢とは言い難い。

 原発について政府が幅広く国民の声を聴いたことがある。原発事故でエネルギー政策の仕切り直しを迫られた当時の民主党政権は、12年に討論型世論調査や意見聴取会を実施した。30年の原発比率について0%、15%、20~25%の3案を示し意見を求めたところ、0%支持が最多だった。

 これを受けて政府は「2030年代に原発稼働ゼロを可能とする」とする、革新的エネルギー・環境戦略を打ち出した。安全確認を得た原発は重要電源として活用しつつ、新増設は認めないとの原則を明示して、「脱原発」にかじを切った。

 それを見直し「脱原発依存」に転換したのが、その年の12月に誕生した安倍政権だ。以来、「可能な限り低減する」との曖昧な態度を貫いている。

 官民一体で進めた原発輸出も行き詰まっている。安全対策費がかさんだこともあり、ベトナムや英国への輸出計画が頓挫した。しかし、政府は原発技術輸出の旗を振り続けている。国内と海外で態度を使い分けるようでは、国民の信頼は得られない。

 ●経済界もメッセージ

 原発について幅広い議論を求める声は、経済界からも上がっている。経団連の中西宏明会長(日立製作所会長)は1月の記者会見で、エネルギー全体に対する国民的議論が必要との認識を示した。

 なかなか再稼働が進まない現状への危機感が背景にあるが、原発の将来像を語らない政府へのメッセージとも受け取れる。産業界には、エネルギー安全保障や地球温暖化対策の観点から原発活用を求める声もある。

 確かに原発は二酸化炭素(CO2)は出さないが、廃炉や使用済み核燃料の再処理で放射能を帯びた核のごみが出る。危険物は地下に埋めて隔離しなければならないが、そうした処分場所の選定は手付かずだ。安全対策費や廃炉費用を考えれば、原発は低コストとの説明には疑問が生じている。

 私たちは、再生エネの開発と導入をもっと積極的に進め、「脱原発」への道筋を具体的に描くべきではないかと主張してきた。

 ここで改めて、原発事故で古里を奪われた人たちのことを心に刻み、必要十分な判断材料を示した上で国民的議論を始めるよう、政府に求めたい。

 =2019/03/11付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】  2019年03月11日  10:38:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【春秋】:学校に来ると声が出なくなる場面緘黙(かんもく)症の少女と、支え励ます教師…

2019-03-15 00:19:00 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【春秋】:学校に来ると声が出なくなる場面緘黙(かんもく)症の少女と、支え励ます教師…

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【春秋】:学校に来ると声が出なくなる場面緘黙(かんもく)症の少女と、支え励ます教師… 

 学校に来ると声が出なくなる場面緘黙(かんもく)症の少女と、支え励ます教師。先日の小欄で重松清さんの小説「青い鳥」を取り上げたところ、大分県日田市の男性から手紙が届いた。「私の教職生活の中でも現実にあったのです」-

 ▼30年ほど前。小学6年のクラスに同じ病名の女子児童がいた。「家ではよくしゃべるのに」と母親も原因が分からない。「学校が嫌なのか」「自分の態度が悪いのか」。担任として無力感ともどかしさが募った

 ▼卒業式が迫る。男性は「口で言ったら圧力に感じるだろうし、何度も読み返してくれるだろうから」と手紙で思いを伝えた。「はい」の二文字でいい。最後に先生はあなたの声を聞きたい…。式本番。名前を呼んだ。期待は砕かれた

 ▼4月。卒業生が遊びに来た。意外な、思いもしない事実を告げられた。「○○ちゃん、卒業式でちゃんと返事してたよ」「小さな声だったけど、近くにも聞こえるくらいの声で『はい』って」

 ▼「驚いて感激して、何より『ああ良かった』の思いでいっぱいでした」と男性は言う。「耳には聞こえなかったけど、今でも思い出すと声が聞こえるようでうれしさがこみ上げます」

 ▼小さな声を出すために、彼女はきっと大きな勇気を振り絞ったのだろう。自分のため。心配してくれた先生のために。男性の便りには「中学生になった彼女は、友達と普通に会話をしているとのことでした」とあった。

 =2019/03/11付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【春秋】  2019年03月11日  10:46:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【意見・見解】:国民投票、汚染で得た経験 東原正明氏

2019-03-15 00:18:50 | 【脱原発・脱炭素・再生エネ・天然ガス・地熱・メタンハイグレード・EV・水素社会】

【意見・見解】:国民投票、汚染で得た経験 東原正明氏

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【意見・見解】:国民投票、汚染で得た経験 東原正明氏 

 ◆反原発国家オーストリア

 中欧の小国であるオーストリアは、1978年に国民投票を行い、国民が自らの意思で脱原発を決めた国である。それは、スリーマイルアイランド(79年)やチェルノブイリ(86年)の原発事故よりも前のことであった。

 戦後のオーストリアでは、社会党と国民党という左右の二大政党がともに「原子力の平和利用」に賛成の立場であった。両党のもとで、ウィーン近郊のツヴェンテンドルフに最初の原発建設が決定され、建設が開始された。一方、農民や自然保護組織などの保守的な層から原発建設反対運動は始まった。その後、左翼の学生にも広がった。

 左派の社会党政権は原発推進の立場を明確化するとともに、ツヴェンテンドルフ原発稼働の是非を問う国民投票の実施を決めた。国民の間に原発の是非に関する議論が広がり、投票結果は、50・5%が稼働反対、49・5%が賛成と、僅差ながら反対が賛成を上回った。この直後、社会党はオーストリアでの原子力の利用を認めないとする法案を国民議会に提出し、「原子力禁止法」として全会一致で可決された。

 これで原発をめぐる議論が決着したわけではなかった。経営者団体や、雇用の確保といった観点から労働組合も引き続き稼働を求めた。議論に終止符を打ったのはチェルノブイリ原発事故である。事故によってオーストリアの国土も汚染され、「チェルノブイリはオーストリアを『反原発国家』へと変えた」(オーストリアの研究者アンドレアス・クーフラー氏)のであった。

 その後の歴代連邦政府は「積極的な反原発政策」を掲げ、周辺諸国の原発について欧州司法裁判所に訴えるなど主張は明確である。現在の環境大臣(国民党)は「ヨーロッパに原子力の居場所があってはならない」とまで述べ、小国の発するメッセージは強烈だ。国民投票を通じて国民は原発について学び、主体的にその立場を決定した。曲折があったとはいえ、連邦政府もまた、その民意に応える政策を推進してきた。EU加盟国としての制約や、極右政党が原発を保有する隣国を批判する際に反原発を主張するなど、問題点はある。それでもなお国を二分する議論を経て、国土の放射能汚染を経験したのちに、40年かけてたどり着いたオーストリアの結論から学ぶべきことは多い。

福岡大法学部准教授 東原 正明氏

  福岡大法学部准教授 東原 正明氏

 東原 正明(ひがしはら・まさあき)福岡大法学部准教授 

 1973年生まれ。福岡市出身。北海学園大大学院単位取得満期退学。博士(法学)。オーストリア抵抗文書館客員研究員などを経て、現職。専門は政治学。

 =2019/03/10付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【意見・見解】 2019年03月10日  11:01:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【時代ななめ読み】:やるなあ、星野君

2019-03-15 00:18:40 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【時代ななめ読み】:やるなあ、星野君

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【時代ななめ読み】:やるなあ、星野君 

 「かんとくの指示は、バントだけれど、今は打てそうな気がするんだ。どうしよう…」

 ピッチャーが第1球を投げ込んできた。星野君は反射的に、思いきりバットをふった-。

 これは小学6年の道徳教科書に掲載されている読み物「星野君の二塁打」の一節。小学校道徳で使用される8社のうち複数の教科書がこの話を載せている。

 少年野球の地区大会で、監督の「バント」の指示に背いた星野君は見事二塁打を放った。これでチームは勝利し、市内野球選手権大会への出場を決めた。

 翌日、監督はメンバーを集め「僕は星野君の二塁打が納得できない」と切り出す。バントで送るのが「チームで決めた作戦だった」として、勝手に打って「チームの和を乱した」と星野君を非難する。

 さらに監督は「ぎせいの精神の分からない人間は、社会に出たって、社会をよくすることなんか、とてもできないんだよ」と諭し、大会で星野君を出場禁止にすると宣言する。

 ある教科書はこの教材の「学習の道筋」として「決まりを守り義務を果たすことの大切さについて考える」と添え書きしている。

   ◇    ◇

 この話に、私はかなりの違和感を覚えてしまう。

 この違和感はどこから来るのか。「危ない『道徳教科書』」(宝島社)などの著書がある元文部科学省官僚の寺脇研さんに聞いた。

 「この教材で授業をすれば、子どもたちの意見は『星野君は間違ったことをした』になるのは明らか。これでは『結論の押し付け』だ。たとえ監督の指示が間違っていても守らなくてはいけないのか。指示に反したら必ずペナルティーを受けなければならないのか。この話では、そうした議論の発展が生まれにくい」

 「さまざまな問題は『個人』と『公共』との間合いの取り方に起因する。100%自分を主張することも、100%自己を犠牲にすることも不自然。ケース・バイ・ケースの判断が必要だ。それを『組織の指示には従うべきだ』と教え込めば、例えば過労死という悲劇が生まれる」

 「そもそも、今の若者にはこうやって教え込まねばならないほど『犠牲の精神』が足らないのだろうか。東日本大震災でも熊本地震でもたくさんの若者が現場に行ってボランティアをしている。それが当たり前の社会になっているのに」

 全面的に同感である。

   ◇    ◇

 今、「星野君の二塁打」を読んで多くの人が想起するのは「日大生のタックル」を巡る議論だろう。私は現在の日本社会には「ただ指示に従う人間」より「何が最善か自分で考える人間」が求められていると思う。

 道徳とは物の分からない子どもに最低限の徳目をたたき込むことだ、と考える人もいるだろう。しかしそれは家庭の仕事であり、学校教育では、簡単に答えが出ないことを自分で考え抜く「頭と心の体力」を養うべきではないか。用意された「答え」は要らない。

 ちなみに、この話を読んだ私の感想は「やるなあ、星野君」であり、「監督、器(うつわ)が小さい…」である。

 小学校で昨年4月から、検定教科書を使う「教科」としての道徳の授業が始まった。中学校では今年4月からである。 (特別論説委員)

 =2019/03/10付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【時代ななめ読み】 2019年03月10日  10:52:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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【社説】:3・11と九州 必ず来る「次」への備えを

2019-03-15 00:18:30 | 【社説・解説・論説・コラム・連載・世論調査】:

【社説】:3・11と九州 必ず来る「次」への備えを

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説】:3・11と九州 必ず来る「次」への備えを 

 美しい海が表情を一変させ、大津波となって人々に襲いかかる。8年前に発生した東日本大震災は、大自然の桁違いの力をまざまざと見せつけた。

 福島の原発事故被災地はもちろん、岩手、宮城を含めた沿岸部の津波被災地も、今なお懸命の復旧・復興の途上にある。

 地震や津波による被害は有史以前から繰り返されてきた。初めて見聞する出来事ではなく、伝承されてきたはずの災害である。それでも長い年月とともに人々の記憶は薄れてしまう。

 九州は、この8年に限っても熊本地震と、北部を中心にした2度の豪雨災害を経験した。阿蘇や霧島、桜島などの火山も噴火災害の懸念は続いている。

 とりわけ昨年は災害が多かった。1年間に起きた主な災害の数や規模を、よどみなく言える人はどれくらいいるだろう。6月の大阪府北部地震、7月の西日本豪雨、9月の北海道地震に加え、台風のほか「災害級」とされた猛暑にも見舞われた。

 災害を忘れることも怖いが、慣れることも恐れたい。

 今年1月3日には、熊本県和水(なごみ)町で最大震度6弱を観測する地震が起き、九州一円の大地を揺らした。揺れが比較的小さかった地域を中心に、「また一連の余震だろう」という油断に終わっていないか。この地震は、熊本地震とは別の未知の断層が動いたとの見方もある。

 風水害の増加は地球温暖化との関連がしばしば指摘される。一方で、地震や津波、火山噴火は未解明のことが多い。こうであるはずだという思い込みは慎みたい。熊本では「地震は起きない」と思い込まれていた。

 その意味で、政府の地震調査委員会が先月発表したデータは警鐘を鳴らす内容だった。

 宮城県沖で、30年以内にマグニチュード(M)7~7・5程度の地震が起きる確率は90%程度だという。調査委は「東日本大震災があったので、しばらく大きな地震は起きないとは考えないでほしい」と呼び掛けた。M9だった東日本大震災とは違う仕組みで起きるためという。

 近い将来に起きるとみられている南海トラフ巨大地震は、九州にとっても「3・11」級の脅威である。30年以内の発生確率は70~80%程度と極めて高い。最大でM9・1、最大震度7が予測される。津波は大分県佐伯市や宮崎県串間市で十数メートルの高さに達するという。

 地震や津波は、いつどこで起きても不思議ではない。火山の噴火も、登山者の命を奪うような水蒸気爆発は噴火警戒レベル1であっても起こり得る。

 「次」は必ず来ると肝に銘じて、経験と教訓を生かし、「その時」に備えたい。

 =2019/03/10付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【社説】  2019年03月10日  10:45:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

 

 

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【春秋】:この女性童謡詩人の命日が東日本大震災の発生日とほんの1日違いなことに、

2019-03-15 00:18:20 | 【学術・哲学・文化・文芸・芸術・芸能・小説・文化の担い手である著作権】

【春秋】:この女性童謡詩人の命日が東日本大震災の発生日とほんの1日違いなことに、因縁めいたものを感じる…

 『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【春秋】:この女性童謡詩人の命日が東日本大震災の発生日とほんの1日違いなことに、因縁めいたものを感じる… 

 この女性童謡詩人の命日が東日本大震災の発生日とほんの1日違いなことに、因縁めいたものを感じる。きょう3月10日は89回目の金子みすゞ忌。そしてあす11日は震災からちょうど8年である

 ▼震災直後しばらく、テレビから企業CMが消えた。人と家をのむ津波、街を焼く炎、拡大する原発事故。悪夢のような映像の洪水の合間、ACジャパンの公共CMで、みすゞの詩「こだまでしょうか」が何度も流れた。一服の清涼剤か鎮魂歌のように

 ▼〈「ごめんね」っていうと「ごめんね」っていう。こだまでしょうか、いいえ、誰でも〉。結びの一言が、未曽有の災害を自分のこととして捉えなさい、と諭すように聞こえた。彼女の詩には「命」への共感を呼び起こす力がある

 ▼そんなみすゞが26歳の若さで自殺したのはご存じか。原因は夫。自分は遊郭で遊び、みすゞには童謡の創作や手紙を禁じた。みすゞは離婚するが、3歳の一人娘を引き渡すよう迫られていた

 ▼命を絶つ前日、みすゞは写真館で最後の肖像を撮り、買ってきた桜餅を娘と食べた。遺書には、娘を心の豊かな子にしたいので母に育てさせて、と記してあった。命を賭した夫への抗議であった

 ▼3・11。時代の分水嶺(れい)などと大げさな言葉を用いずとも、いろんな命に思いを巡らせる、きょうあすにしたい。お薦めはみすゞのこの詩。〈鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい〉

 =2019/03/10付 西日本新聞朝刊=

 元稿:西日本新聞社 朝刊 主要ニュース オピニオン 【春秋】  2019年03月10日  10:48:00  これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。

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