【政局】:菅政権の新型コロナ対策を翻弄しダダ滑りにする3つの想定外 ■ついに感染爆発、長期間対応の覚悟を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【政局】:菅政権の新型コロナ対策を翻弄しダダ滑りにする3つの想定外 ■ついに感染爆発、長期間対応の覚悟を
◆やっぱり想定外の感染爆発
東京オリンピックは無観客とは言えまずまずの活況とともに終わりました。
本音で言えば、もう1年延期してからお客さまも海外から来ていただいて、万全の体制でやりたかったところですが、衆議院選挙も予定されている中で何とか開催したいという事情があったのは仕方がない、と国民として割り切るべきなのかどうか。
結果として、調査日はオリンピック閉会式を挟む形となったNHK世論調査では、国民は東京五輪に概ね満足だけど、開催を強行した菅義偉政権に対しては強いNOを突き付ける結果となりました。事前の予想通り内閣支持率は無事30%を割り、9月末に行われる(かもしれない)自民党総裁選での菅さん再選に黄信号点滅であります。
間隙を縫う形で、高市早苗さんが若干当て馬気味ながら総裁選に意欲を示す記事を出すなどして頑張って期待感を煽ったりもしておりますが、支持の動向を見る限り、国民の関心事は間違いなくコロナ対策と経済(景気)政策一色となっています。
これはもう、五輪もやっちゃったわけだし、パラリンピックは再延期なり中止なりして感染症のこれ以上の拡大を食い止め、しっかりとワクチン接種の推進を行い、年末商戦のころには景気回復の足取りが国民に実感させられるような体制にしていかなければなりません。
ところが、菅政権のコロナ対策はいまなお方針が定まらずふらふらしている側面があります。
ワクチン担当大臣の河野太郎さんはワクチン接種推進で頑張って成果を出した一方、ワクチンを接種していない人たちを中心におおいに感染者が増えてしまい、⽂字通り医療の逼迫は現実のものとなって⾃宅待機・療養を余儀なくされている国⺠は⾸都圏だけで1万⼈を超えてしまいました(8⽉11⽇現在)。
もっと大変なのは変異株で猛威を奮っているデルタ株に対して、査読前ながらカタールの接種事例に対する研究においても国民に先行接種したファイザー&ビオンテック社製ワクチンの有効性が53%にまで低下していることが判明したことです。
もちろん効果はあるし打つべきなのですが、当初言われていた「変異株にも9割近く有効なのではないか」という楽観論が打ち砕かれることになり、本当にしょんぼりです。
ここに至る経緯として、菅政権のコロナ対策の思い違い、想定外がいくつか重なった結果、当初予想されていた通り、感染症が7月末までに5000人前後、このままいけば8月下旬には2万人規模という空前の感染者数になってしまう怖れにまでなってしまいました。
◆ワクチン接種を加速したものの
想定外その1 ワクチン接種を推進して2回接種が国民の3割に到達したところで、感染者数の抑制にはまったくならなかった
あくまで政府の想定としては外れていて、感染症対策や社会統計を手がけている人たちからすれば当然のことだったのですが、ワクチン担当大臣・河野太郎さんやこれを実現するシステムを担当した衆議院議員・小林史明さんら、自民党でも推進者としては比較的まともな人たちが選抜されてワクチンの接種自体はきちんと進みました。
もちろん、現状のワクチン調達や接種推進の状況について、批判したい人たちもいるでしょうし、100点満点だったかと言われるとそこまでではないでしょうが、しかし相応に日本はきちんとワクチンを国民のために仕入れ、なかなかのスピードで推進できたという事実には違いはありません。
当初、無謀かと思われた7月末までに高齢者へのワクチン接種を完了せよという、いわゆる「ガースー緊急指令」はまずまず達成と言っても良い進捗で、実際にこれだけ感染者数が増えているにもかかわらず、高齢者の重症者・死亡者は大きく減少。自治体対応や医療機関・保健所の踏ん張りもあって、どうにかなって良かったねというのが正直なところです。
ところが、⼤きく想定外だったのは、このワクチン接種から漏れた若い⼈たちは当然のようにほぼ無防備ですから感染は広がってしまったことです。前述の通り、ワクチンを接種してもどうやら効果はそう万全ではないようだ、となると、ワクチンを2回接種してもきちんと自衛しない限り、無症状感染で留まる保証もありません。
◆これは長期戦の様相
さらには、イスラエルやアメリカ、イギリスなどでも確認されていますが、ファイザー&ビオンテック製、モデルナ製ともに、ワクチンを2回接種して10日前後経過した人でも、コロナウイルスには感染し、軽症から中等症ぐらいまでは進んでしまうことが明らかになりました。
当初、ワクチンを2回打てた人は92%ほどが感染そのものを防ぐ効果を持つと期待をされていたものの、後日イスラエルほか接種後の広域調査によって実際の感染そのものを防ぐ力は42%から44%ほどなのではないかと見られるようになったのです。
したがって、ワクチン接種で先行した国では、早くも3回目のワクチンを接種するブースター接種が始まりました。ワクチンを使ってこのコロナ対策はトンネルを抜けるのだ、という確信を持って取り組んできた菅政権の努力は、無駄ではなかったものの実はまだまだトンネルは続くんじゃ、という状態であったことを示します。
いまのところ、コロナウイルスの変異株各種について、引き続きその有効性は確認されていますが、ブレークスルー感染の拡大とともに懸念されるのは、本格的にコロナワクチンが効かない変異株が発生したら大変だぞということであります。
そうならないことを祈りますが、事態は政府が期待したワクチン接種完遂を目指す短期決戦というよりは、ダラダラと半年ないし毎年ワクチンを国民が打ち続けることが必要になるという長期戦の様相を呈する可能性はとても強くなります。
そうすると、政府は長期的対応をどう組むつもりだったのですか、という問いに対して答えていかなければなりません。しかしながら、ご飯論法の良し悪しの部分もありますが、国民からすれば長期の対応になるならきちんと政府は説明してよ、というニーズにはなかなか総理大臣である菅義偉さんは応えられないわけですよ。
いや、はっきりしないことだから、菅義偉さんも口下手で言いづらいのは分かるんですがね、ここで「ワクチンだけでは必ずしもコロナ禍を切り抜けられなさそうな雰囲気がしてきたので国民の皆さんも是非引き締めていただきたい」という趣旨の発言のひとつも菅さんらしい言葉で語れたなら、国民の受け止め方も随分変わってくると思うのですが。
◆本当にヤバいデルタ株
想定外その2 本当は感染力の強いデルタ株のお陰で感染拡大している状況なのに、オリンピックのお陰で見当違いの批判が巻き起こった
いわずもがなですが、デルタ株はヤバいんですよ。
いくつか研究は出ていますが、咽頭部では従来株の文字通り1000倍のウイルス量を持ち、感染力からすれば当初の見込みの1.5倍どころではない、数倍のレベルで感染拡大をしてしまう特性を持っています。
これは、人類史上大変な感染力で猛威を奮った天然痘を上回り、非常に感染力の強い水疱瘡(ヘルペスウイルス)とも同等かそれ以上という評価になるわけです。逆説的には、ワクチンが行き届いたとしても、その感染力の強さゆえに宿主である人間と同居してしまえば、数十年どころか1世紀以上も付き合っていかなければならないウイルスになる危険性もあるということです。
ところが、日本国内では折の悪いことに、東京オリンピックが開催されるタイミングでこのデルタ株の感染者の波がやってきました。これは、海外でも同じようにデルタ株の波ができており、正直、感染症対策の観点からするならば東京オリンピックどころの騒ぎではなかったはずです。
結果的に無観客での開催となり、五輪村での感染症・クラスターの発生も限定的で良かったと思いますが、それ以上に問題となったのはオリンピックがうっかり開催されていてそっちに気を取られ、一般国民の外出がそれほど減らなかったことです。
◆相変わらずの本末転倒閣僚
そもそも緊急事態宣言下で五輪をやっていたのもおかしいですが、感染症対策は十全にやっていたとはいえ、人流を伴うプロ野球を含むスポーツイベントは開催されていて、駅前やコンビニ前では路上飲みをする若者が後を絶ちません。
昨年の緊急事態宣言のような引き締まった外出禁止の姿はすでになく、ほぼノーガードの人たちが外出して感染を広げている実態については、もっと実態に見合った罰則を伴う感染症対策法制を敷いておくべきだったと思います。
さらには、コロナ対策担当大臣の西村康稔さんが、大規模イベントでの感染症対策の実証試験をやるということで、緊急事態宣言下に万単位の集客が見込まれるイベントに対して協力要請をするという謎の政策も出ていたようです。
西村さんはコロナ対策と同時に経済再生担当も兼ねていて、その点ではアクセルもブレーキも両方踏まないといけない可哀想な役回りなのかもしれませんが、かたや緊急事態宣言をやっている横で経済対策のための人流を作る実験をするという本末転倒な政策を実施しようというのは、狂っているとしか言いようがありません。
コロナ対策室も「ハイそうですか」と言わずに羽交い絞めにして止めるべき案件だと思うのですが。
かくして、お祭り騒ぎのようなオリンピックの開催と外出自粛要請をしなければならない緊急事態宣言が同時に行われたことで、世界的に見ても感染者の拡大で猛威を奮ったデルタ株による警戒が薄れ、結果としてワクチンを打っていない現役世代や若い人を中心におおいに弛緩して感染者が増えるという政策ミスを犯したのはもっときちんと検証されるべきでしょう。
◆国民の情報を政府が集約できないようじゃ
想定外その3 デジタル関連法制と個人情報保護、医療情報の取り扱いについて、現在もなお混乱が続いている
感染症対策のために保健所があれだけ頑張っても支援するシステムがいまなおファックス中心であったり、それを統合的に管理する仕組みがHER-SYS、VRS、V-SYSとバラバラに展開し、ワクチン接種の推進も、これから整備しなければならない国内向け・デジタルベースのワクチンパスポートもそこまでの進捗には至っていません。
年末に向けて経済正常化・経済対策を行うために、GOTOキャンペーンを復活させるためにも国内向けワクチンパスポートを発行し、ワクチン2回接種済みで10日以上経過した国民には飲食・旅行・イベントなどのサービスを受けられるようにする一方、それら多くの不特定多数の人たちを接客・接待するサービス従事者にも優先的にワクチンを受けてもらうという方針になっていくだろうとは思います。
しかしながら、先にも述べた通りワクチンについては「打ってさえいれば大丈夫」とはとてもいえない状況になっており、これの確認や解決策の立案のためにもトレーサビリティの確保が必要だよという話は過去に何度も記事で書きました。政府にも「必要ですよね」と働きかけているものの、それよりも優先しなければならない仕事が山積しており、なかなか前に進まなかったのも印象的です。実際、できていませんし。
そして、いまなお国民の情報は自治体が掌握し(したくてしているのではなく、我が国の個人情報保護法や各種自治体の条例がそうである以上、致し方がない)、せっかく国が作ったVRSも、あくまで自治体に使ってくださいとお願いするものであって、国民の健康管理の情報が政府として把握できるようになるには、来年に予定されているマイナンバーへのPHR(パーソナル・ヘルス・レコード;国民健康情報)格納まで待たなければならないというのが現状です。
おそらくは、報道ベースでもすでにコロナ対策のために政策面で担保しなければならないことは出尽くしているのが現状ですが、問題は、国民のコロナ関連の情報が分析可能な形で政府側には集約されておらず、データ分析に基づいた予測を立て、それを根拠に政策を立案するというサイクルになっていないことです。
◆プランBの手当てはない
むしろ、政府が考えたシナリオは単純で、オリンピック開催をレバレッジに調達できたワクチンを国民に接種推進していけば、いずれワクチンが奏功して死者は減り、感染者数の減少と共に経済も社会も平常を取り戻す(であろう)という内容でした。
ところが、実際に起きたことはもっと複雑な事態です。
変異種の出現によりワクチンを打たない人への感染拡大はもちろん、ワクチンを打った人もECMO対応まではいかずとも発熱や酸素吸入が必要なレベルにまで症状が進んでしまう確率はあり、感染者数が増えればワクチンを打った人でも苦しい思いをします。
インフルエンザもワクチンを打ったところでそういう症状まではいくだろうとコロナウイルスを軽視する言説も少なくない中で、いまの政府には「駄目だったときに、どうするか」というプランBの手当てが想定されていないことが問題ではないかと思うのです。
突き詰めれば、コロナ対策は長期戦となり、ワクチンを2回接種しただけでは自分の健康を守ることはできないことがはっきりしてきました。「若いから重症化しない」「年寄りしか死なない」のも事実ですが、感染者数が激増すれば、確率によって重症化したり亡くなってしまう若い人の数は増えます。
それどころか、最近ではブレインフォグのような記憶・認知障害を起こす可能性を⽰唆する重篤な後遺症がコロナワクチン感染経験者には存在することも明らかになりました。一部の研究では、コロナウイルスに感染して中等症(酸素吸入や挿管が必要な措置まで症状が悪化した状態)まで進んでしまうと、年齢を問わず、FSIQ(知能指数)が8前後下がってしまうのではないかという疑いも出ています。
しかしながら、デルタ株の高い感染力の恐ろしさは、私たちが日常に行っているソーシャルディスタンスやマスク着用、手洗いうがいという一般的なコロナ感染症対策を破って広がる可能性を秘めています。いままでならば、しっかりマスクをしていれば相応に防御できたはずが、実際には非常に限られた感染経路でも伝染してしまう恐ろしさはもっと知られるべきです。
さすがに昨年4月の緊急事態宣言から1年半弱が経過し、これ以上の自粛はしていられない心理状態や経済状況もあります。それでも、政府はどうにかして国民と危機感を共有し、どういうコロナ後の社会を作るつもりなのか提示しないといけないフェイズに入っていると思うのですが。
元稿:講談社 現代ビジネス 主要ニュース 政治 【新型コロナウイルスの感染拡大に伴う施策・担当:山本 一郎 個人投資家・作家】 2021年08月16日 06:02:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。