【社説②】:緊急宣言を拡大 止まらぬ対策の迷走
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:緊急宣言を拡大 止まらぬ対策の迷走
四度目の緊急事態宣言の二度目の延長である。迷走を続ける政府の対応を見ていると、新型コロナウイルス感染症を本気で抑え込もうとしているのか不信が募る。
政府は今月末に期限を迎える東京都など六都府県への宣言発令期限を九月十二日まで延長する。対象地域も今月二十日から茨城、栃木、群馬、静岡、京都、兵庫、福岡の七府県へ拡大する。
感染の急拡大が深刻化している。状況は「災害レベル」である。医療の逼迫(ひっぱく)を考えれば、宣言延長と拡大はやむを得ない。
だが、この間の政府対応は疑問ばかりだ。六月二十日に前回の宣言を解除したが、感染者を十分に減らさないままでの判断だった。本来は宣言を継続し十分に感染を抑え込む必要があったはずだ。
七月八日に四度目の宣言発令を決めた際も当初、政府はまん延防止等重点措置の延長で乗り切ろうと考えていた。
お盆の時期を過ぎた今回の宣言拡大は遅すぎないか。対策も後手に回っている。必要な医療提供が困難になっている中、政府は急きょ、入院制限を検討して軽症者らは自宅療養を原則とした。
それまでは軽症や無症状の人は宿泊療養が基本だった。いつ症状が悪化するか分からないのがこの感染症の怖さだ。本来は、医療従事者が常駐する宿泊療養の拡充をすべきだが、その努力を怠り、自宅療養策に転じるのは話が逆だ。
まして自宅療養者を支えるには開業医や訪問看護などの人材が不可欠だが、その連携づくりも遅れている。対策が遅れたツケを患者に押しつけられてはたまらない。政府と自治体の責任は免れまい。
春の「第四波」では関西で感染者が急増し入院できずに自宅で亡くなる人がいた。医療の受け入れ能力を超える感染拡大を経験したのに、教訓を生かしていない。
感染症対策では、最悪の事態を想定した準備をすべきだが、菅義偉首相は楽観的な見方に執着している。感染力が強く感染を拡大させているデルタ株への警戒も甘かったと言わざるを得ない。
感染の抑え込みには感染者を減らす対策が重要だが、今回の宣言拡大でも新たな対策は乏しい。
都市封鎖などの強制力に頼らない日本の対策は国民の理解と協力が要だ。政治リーダーが言葉を尽くし理解を得ることが対策につながると肝に銘じるべきだ。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2021年08月18日 07:40:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。