【ロシア】:領土「交渉恐れてはいけない」ゴルバチョフ元大統領に聞く 旧ソ連クーデター未遂30年
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【ロシア】:領土「交渉恐れてはいけない」ゴルバチョフ元大統領に聞く 旧ソ連クーデター未遂30年
米国と覇権を争った超大国ソ連が崩壊する引き金になった1991年8月のクーデター未遂事件から19日で30年になる。当時、ソ連大統領だったミハイル・ゴルバチョフ氏(90)は本紙との書面インタビューに応じ、北方領土問題について「長い時間が失われた」と振り返り、プーチン現政権を暗に批判。自ら推進したペレストロイカ(立て直し)の意義などを強調した。(モスクワ・小柳悠志)
モスクワで、書面インタビューの回答をチェックするゴルバチョフ氏=ゴルバチョフ財団提供
■8月クーデター未遂
1991年8月、ソ連共産党の保守派がモスクワを離れていたゴルバチョフ大統領を別荘に幽閉。当時、ロシア共和国大統領だったエリツィン氏らが最高会議ビルに立てこもって抵抗し、クーデターは頓挫した。エリツィン氏は事件に乗じてゴルバチョフ氏から政治の主導権を奪い、東スラブ3カ国首脳会議で独立国家共同体(CIS)創設を宣言(ベロベージエ合意)するなどソ連解体を主導した。
◆「長い時間失われた…」
書面インタビューは北海道新聞と共同で行った。ゴルバチョフ氏は91年4月に日本を公式訪問した。その際、歴代政権として初めて北方4島の名称を明記し領土問題の存在を認める「日ソ共同声明」に署名して領土交渉に道筋をつけた。これが「4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」と合意した「東京宣言」(93年)につながった。
しかし、30年後の現在、プーチン大統領が指導するロシアは領土問題の存在を否定する強硬姿勢に戻っている。ゴルバチョフ氏は「長い時間が失われたのは残念だ。こうしたことで(交渉の)勢いを失ってはならない」と強い懸念を表明。「交渉を恐れてはいけない。最も困難で緊急性の高い問題を議題とすることが必要だ」と訴えた。
「第2次大戦の結果、北方4島がロシア領になったとするプーチン政権の主張をどう考えるか」との質問に対し、ゴルバチョフ氏は回答しなかった。プーチン体制で強まる言論統制を警戒したとみられる。
◆プーチン政権「独裁的傾向強まる」
また、20年以上続くプーチン体制に関し、ゴルバチョフ氏は野党勢力が事実上、選挙から締め出されていることを指摘した上で、「独裁的な傾向が強まっている」と警鐘を鳴らした。
ソ連末期のペレストロイカは途中で挫折したが、「国民が政治プロセスに参加することによって社会問題を解決すること、グローバル化の目標など、その思想と原則は現在も有効だ」と改めて強調した。
ソ連を緩やかな国家連合へ再編する新連邦条約に反対する守旧勢力のクーデター未遂事件後、ゴルバチョフ氏は求心力を喪失。ロシアやウクライナなどが「独立国家共同体」の創設を宣言し、ソ連は91年末に崩壊した。ゴルバチョフ氏は「われわれは崩壊を望んでいなかった」と語った。
ゴルバチョフ氏は「新思考外交」によって東西冷戦を終結させた。再び厳しい対立関係にある米ロが今年2月、新戦略兵器削減条約(新START)の5年間延長で合意したことについて「現在、最も重要なこと。これによって戦略的な安定性に関する交渉を始めることができるようになった」と高く評価した。
同氏はこれを踏まえ、米ロ間でさらなる核兵器削減交渉の進展が必要であることを強調。「核兵器の先制不使用に向け前進すべき時だ」と米ロ双方に促した。また核大国となった中国を念頭に「他の核保有国を(軍縮)協議に参加させる必要がある」と指摘した。
■ミハイル・ゴルバチョフ氏
1931年3月生まれ。85年にソ連共産党書記長に就任し、ペレストロイカ(立て直し)やグラスノスチ(情報公開)を推進。「新思考外交」で東西冷戦を終結させた。90年にソ連の最初で最後の大統領に就任し、同年、ノーベル平和賞を受賞。91年12月、ソ連崩壊にともない辞任した。
◇
インタビューの詳報を後日掲載します。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 国際 【欧州・ロシア・ソ連崩壊の導火線となった旧ソ連保守派によるクーデター未遂から19日で30年】 2021年08月18日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。