【統一教会 早大原理研と「過ち」の原点】:(4)若者たちを惹きつけた「壮大な理論」革マル、民青、左翼からの転向組も珍しくなかった
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【統一教会 早大原理研と「過ち」の原点】:(4)若者たちを惹きつけた「壮大な理論」革マル、民青、左翼からの転向組も珍しくなかった
早稲田大学原理研究会(早大原研)の草創期の記録「播植十年」によると、初代の早大原研委員長は生長の家の信者から改宗した。その上部団体の統一教会(現・世界平和統一家庭連合)も、草創期の幹部信者たちの多くは立正佼成会、生長の家などからの改宗組が目立った。日本統一教会の初代会長を務めた久保木修己氏も立正佼成会出身である。
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文鮮明氏の早稲田留学時代の下宿屋女主人と原研の合宿施設で記念写真(「播植十年」から、=提供)
しかし各大学の原研組織については、左翼活動家からの転向組も珍しくなかった。早大原研でも、第10代までの歴代委員長の中で、手記を寄せた9人のうち3人が日本民主青年同盟(日本共産党の青年組織)、革マル派など左翼からの転向組だった。
一見、水と油のような関係にあるのに、彼らはなぜ、転向してきたのか。第9代委員長だったM氏は、民青から転向した経緯について、「播植十年」でこう書く。
「私にとって宗教とは、(中略)諸矛盾(貧困、差別、戦争等)から大衆の目をそらし、歴史的変革を妨げる許しがたい存在でした」
当時、M氏は関西の公立高校生だったが、国鉄の駅前での京大原研のメンバーとの論争に敗れてしまう。
「哲学は必ず唯物論か唯神論のどちらかの観点に分かれるものと信じていたが、この統一原理は、双方とも部分的真理として把握し、それを止揚して統一すべき新しい観点を指摘していた」
「唯物弁証法顔負けの正-分-合なる全く新しい観点に立脚した統一弁証法が展開されており、唯物史観の歴史的必然法則をスケールにおいてはるかに凌駕する創造―堕落―復帰という統一史観を提示している」
M氏は「人類の歴史を俯瞰する壮大な歴史観に圧倒された」と当時を振り返った。
■「壮大な理論」と「先祖解怨」の二重構造
第5代の早大原研委員長のT氏は、革マル派から転向した。原研では理論家として知られ、大学卒業後は国際勝共連合の事務総長や理論誌「世界思想」の編集長を長く務めた。
M氏は、早稲田の川口大三郎君が革マル派によってリンチ・殺害される事件が起きた際には、「川口君事件の歴史的考察」と題した論文を文化サークルの機関誌に発表。ルター、カルバンの宗教革命からマックス・ウェーバーの歴史観、ロシア革命などに言及した上で、「川口君虐殺という近代知の破棄と苦難の中から生ずる、新しき学生の群れが、歴史の転換を呼び起こす」と論じている。
一方で、世界平和統一家庭連合は最近、「先祖解怨・祝福」(光言社)という書籍を出し、先祖の怨念を解き、祝福するための献金を勧めている。
早大原研の歴代委員長らを左翼から転向させた「壮大な理論」と、お年寄りら弱い立場の信者たちに勧める「霊界の地獄で苦しむ先祖たちの怨念を解くための信心と献金」の間には、大きな落差がある。信仰をめぐる、この二重構造に教団の本質的問題が潜んでいるのではないのか。 =つづく
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■樋田毅 ジャーナリスト
1952年生まれ。早稲田大学第一文学部卒。朝日新聞社会部で赤報隊事件を取材。著書に「記者襲撃」(岩波書店)など。「彼は早稲田で死んだ」(文藝春秋)で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。
元稿:日刊ゲンダイ DIGITA 主要ニュース ライフ 【暮らしニュース・連載「統一教会 早大原理研と「過ち」の原点」】 2022年09月29日 17:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。