【政界Web】:質問権、準備の質が結果左右 教団被害者救済、実効性が重要 菅野志桜里さんインタビュー
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【政界Web】:質問権、準備の質が結果左右 教団被害者救済、実効性が重要 菅野志桜里さんインタビュー
安倍晋三元首相への銃撃事件を契機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の「霊感商法」や高額寄付の問題がクローズアップされた。与野党は被害者救済のための法整備に着手。消費者庁の有識者検討会は17日、教団への調査の必要性や被害者救済策について提言をまとめた。検討会のメンバーで元衆院議員の菅野志桜里さん(議員時代は山尾姓)に、救済策のポイントや与野党に求めることなどを聞いた。(時事通信政治部 眞田和宏)<button class="sc-fZXIOb ikbkOs" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38"></button><button class="sc-fZXIOb ikbkOs" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38"></button>
―8月末に検討会に加わる前はこの問題をどのように捉えていたか。検討会に加わった経緯は。
全国霊感商法対策弁護士連絡会(弁連)やジャーナリストが旧統一教会問題の追及を続け、多くの真実を明らかにしてきたにもかかわらず、社会はそれを見過ごし、政治に至っては、放置してきた。私はその一員だっただけではなく、(霊感商法も契約取り消しの対象とした)2018年の消費者契約法改正では、委員会の議論に参加していた。私自身も実効性に疑問があると指摘していたが、それを良い形で実現せずに終わって、ここまで来てしまい、社会の一員として今こそ解決しなければいけないと思っていた。
その時、消費者庁の職員から検討会の委員になるよう依頼をされ、議員時代のやり残しの宿題でもあるので引き受けた。政治経験が多少なりともあるので、どうやったら政治的な実現に近づけることができるのか、その理想と実現の橋渡しの役割を意識的に果たそうと努力した。
◇解散命令請求の要件に該当と確信
〈宗教法人法は「著しく公共の福祉を害する」「宗教団体の目的を著しく逸脱した」といった場合、裁判所は文部科学相らの請求を受けて「解散を命ずることができる」と規定している。それに先立ち、解散事由に該当する疑いなどがあれば、文科相らが法人側に報告を求めたり質問したりすることを認めている〉
―消費者庁の検討会がまとめた提言では、宗教法人法に基づく質問権の行使が大きな柱だ。岸田文雄首相も調査手続きに入るよう文科相に指示した。
世論調査で8割が解散命令請求することに賛成という結果もあり、岸田政権が支持率回復のために踏み込んだという話が散見されるが、このことは世論の求めや政治的思惑で判断すべきことではない。
教団の組織的な違法行為を認めた民事訴訟の確定判決は、30弱も積み上がっている。宗教法人法の条文と結び付けたときに、自然体で考えると質問権の発動要件に当たるし、解散命令請求の要件に該当すると確信があった。
―首相は18日の衆院予算委員会の答弁で、解散命令請求の要件に民法の不法行為は当たらないとの認識を示したが、どう思ったか。
率直に言って岸田政権は大丈夫かと思った。私は「民法は要件に当たらない」と答弁したことが、解釈変更だったと見るべきだと思う。これまでの政府見解は、一般のいろいろな法規が当たるとして、むしろ民法が入る余地を十分残してきた。文化庁も、オウム真理教への解散命令を例に、「刑法の事案なので…」と民法でやらない意思を強くにじませることはあったが、解釈については語尾を濁してきた。それを首相が一切なくすという答弁をしたことは重大な解釈変更で、驚がくした。
ここは注目して今後分析すべきだと思うが、今ある30弱の民事の確定判決を基礎事実から外す答弁をした上、まだ雲をつかむような将来の刑事事件の可能性をにじませて先送りすることで、「質問権は行使はするが、解散命令請求はしない」というシナリオが透けて見える答弁だった。
―野党は反発し、翌19日の参院予算委で首相は「民法の不法行為も入り得る」と答弁を変えた。
18日の夜に関係省庁が集まって会議をして、先を見越した検討をしたと感じた。それは19日の答弁で、要件に組織性、悪質性、継続性のある行為も対象とし、(教団の)使用者責任も入ると言ったからだ。
それによって、教団が行為者として不法行為責任を負った二つの判例だけでなく、行為者は信徒だが使用者として教団が不法行為の責任を負うとした二十数件の判例も入り、継続性という要件を満たすことになる。あるべき方向に整えられてきたと思う。<button class="sc-fZXIOb ikbkOs" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38"></button><button class="sc-fZXIOb ikbkOs" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38"></button>
◆反論機会として質問権行使を
―質問権行使に当たってのポイントは。
最初に質問を当てる前段階の準備の質が結果を左右する。犯罪捜査と違って、資料を押収するといった強制力はない。裁判資料や証言、流出した内部資料、文化庁にある会計書類といった教団の外にある資料を分析する必要がある。その上で事実を明らかにし、悪質で組織的で、継続的に行われた行為だという法的な整理を固めた上で、反論の機会を与える意味での質問権行使に踏み切ってほしい。
―検討会で、寄付に関する被害救済のため寄付要求についての「一般的な禁止規範」の法制化を提言した狙いは。
(法的な)契約かどうか判然としない献金事例が増えている。それが契約に当たるか当たらないか判断が難しい事案も救えるように、献金(寄付)についての一般的な禁止規範を定めようということだ。これは寄付募集に関する禁止行為を定めた公益法人法が参考になる。宗教法人はこの法の対象から抜けているので、選択肢としては宗教法人法の改正をするのか、あるいは新法を作るかだと思う。
きちっとその禁止規範を作れば、今後その規範に対して違反したことが、解散命令請求の基礎になりやすいメリットもある。
◇野党法案は検討に値
―提言では霊感商法などによる被害救済のため、取り消し権の対象範囲の拡大を提言したが、そのポイントは何か。
2018年の消費者契約法改正で、霊感商法の取り消し権が入ったが、これが使われた裁判例は見当たらないということだった。これを使うには「このつぼを買えば、確実に先祖の霊が救われます」というようなセリフが出て、それを立証しなければいけない。そしてマインドコントロール下にある人にはここまで言う必要すらない場合も多く、実際に使われていなかった。
そのため、もっと包括的な要件で取り消すことができるようにしなければいけない。フランスの反カルト法が参考になるが、合理的判断ができないような心理状態につけ込んだ契約という要件にして、取り消すことができるようにしたらどうかということだ。
ただ、家族による取り消しの問題は難しい論点で、今回は今後の検討事項ということにしてある。
〈立憲民主党と日本維新の会が17日に国会に提出した霊感商法や高額献金の被害救済に向けた法案では、年収の4分の1を目安に物品購入や献金などをさせる行為を「著しい損害」と認定。家族らが被害者本人に代わって取り消し請求できる規定を盛り込んだ。対象団体への立ち入り検査や是正命令も可能とし、応じない場合は刑事罰を科せるとした〉
―野党の法案では家族にも取り消し権を与えたが、評価は。
マインドコントロール下にある人の個々の献金行為を家族も取り消せる仕組みについては、救済の実効性と、個人の財産権の保障のギリギリのバランスだと思うが、今の状況でいえば、検討に値する提案ではないかと思う。
―一方、自民党側はこれに難色を示している。家族が損害賠償請求できる仕組みも案として検討されている。 野党案という具体的なたたき台があったからこそ、こういう別の工夫が出てきたと思う。
本人がマインドコントロール下にあって本人自身の取り消しが、およそ望めない事案が多い。その家族も取り消せるという形を作るのか、それとも何か損害賠償責任を家族も提起できるようにするのかなど、幾つか法的なアイデアがあると思う。その中からベストチョイスをするのが現実的な案だと思う。
それを決めるときには弁連の意見をしっかり聞いてほしい。弁連は家族による取り消しが認められない中でも、教団を行為者とした不法行為責任を勝ち取った経験もある。何が今までハードルとなって、返金させられなかったのかを一番知っている。どうすれば一番実効的に解決できるか、そこは尊重してほしい。<button class="sc-fZXIOb ikbkOs" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38"></button><button class="sc-fZXIOb ikbkOs" data-cl-params="_cl_vmodule:detail;_cl_link:zoom;" data-cl_cl_index="38"></button>
◆必要な議論には時間かけて
―与野党は今国会中にも救済法案を成立させることを目指して協議しているが、まだ先は見通せない。議論する上で欠かせないポイントは何か。
まず早い方が良い、厳しい方が良いというような、政治的な思惑がもし仮にあるんだとしたら、そこはためらいを持ってほしい。
大前提として、野党のたたき台があって、それに与党が乗っかって、できるだけ早く解決しようというこの流れ自体は大歓迎だ。
消費者契約法をベースにした救済拡大は、元があるのである程度スピード感をもって対応しやすいとは思う。一方で献金についての一般的な禁止規範を作ることは、それなりに影響力も大きいので、実効性があるとともに、過度な規制にならないようバランスを探す作業をしっかりやってほしい。
今国会という政治的目標にあまり自縛をされ過ぎず、できるものは仕上げつつ、本来だったら半年ぐらいかけてしっかり理論を詰めて実効的な法案に仕上げていくべきだと思う。
他の宗教団体や、その信者の信教の自由にも触れてくるし、個人の財産権の本質にも関わってくる。そこは憲法上の議論も飛ばさないで、必要な議論には必要な時間をかけて、実効性あるものを仕上げてほしい。
個人的には、野党案をベースに、そこから年収の4分の1を著しい損害とする部分や、慎重な検討が必要な刑事罰の規定をなくすと、実効性と過度な制約にならないバランスの良い法案になると思う。
―寄付金の上限規制をどう考えるか。 金額規制や割合規制は数値が出るので、政治家がその判断基準として使いたくなる気持ちは分かる。ただ、リスクや過度な制約にわたるというデメリットもある。むしろその宗教団体に信者の収入を把握することのお墨付きを与えるという本末転倒のリスクもある。他の宗教団体に対しても信者の収入把握を事実上求めることにもなりかねない。慎重に考えた方がいい。
◇政界復帰は…
―弁護士として今回アプローチしているが、議員時代との違いは。
法律と政治の接点をつくっていくことは議員時代からも心掛けてきた。議員ではなくなったことで、特定の政党の色にとらわれず発言することもできる。また、理想を政治的実現まで引っ張っていく作業を、与党・野党というくびきがないので、やりやすいと感じている。
今は政党色のない民間人なので、政治的実現ということに向けて集中できる。
―今後の政界復帰の可能性は。
議員ではないからこそできることをやっているので、全くそういうつもりはない。政治家以外の政治参画のルートをつくっていきたい。
■菅野 志桜里さん(かんの・しおり)
東大法卒。検察官を経て09年衆院選愛知7区で旧民主党から出馬し初当選。衆院議員を3期務め、旧民進党政調会長、国民民主党憲法調査会長などを歴任した。21年衆院選に出馬せず政界を引退。国際人道プラットフォームを立ち上げ、弁護士の立場で人権問題などに取り組んでいる。48歳。
元稿:時事通信社 JIJI.com 政治 【政局・連載「政界Web」】 2022年10月29日 15:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。