《社説①・01.22》：トランプ2．0 米国第一の復活 これが「偉大な国」なのか

《社説①・01.22》：トランプ2．0　米国第一の復活　これが「偉大な国」なのか

　『漂流する日本の羅針盤を目指して』：《社説①・01.22》：トランプ2．0　米国第一の復活　これが「偉大な国」なのか

　国内の対立をあおり、世界の分断を広げる。それが目指すべき「偉大なアメリカ」の姿だとでも言うのだろうか。

　「米国第一」を掲げる共和党のドナルド・トランプ氏が大統領に再び就任した。昨年の大統領選で勝利し、復活を果たした。　

米連邦議会議事堂で行われた大統領就任式で、演説するドナルド・トランプ大統領（中央）＝ワシントンで2025年1月20日、ロイター

　2回目の就任宣誓式は異例ずくめだった。寒さを理由に屋外から連邦議会議事堂内に会場を移し、規模は大幅に縮小された。

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トランプ米大統領の返り咲きを祝う極右組織「プラウドボーイズ」。連邦議会襲撃事件に関する受刑者らの恩赦を訴えていた＝ワシントンで2025年1月20日、八田浩輔撮影

　わずかに参列を許された招待客には大口献金した巨大IT企業のトップが顔を並べ、外国の首脳や外相らの姿もあった。世界の祝福を演出し、権威付けをアピールする意味合いもあったのだろう。

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トランプ米大統領の就任式に合わせて、抗議活動をする人々。パレスチナ情勢を巡って、米国が支援するイスラエルを非難している＝ワシントンで1月20日、AP

　市街では、米国の分裂を映し出す光景も見られた。就任に反対する抗議デモが起きる一方、4年前の議事堂襲撃を主導した極右組織の一群が就任を歓迎する横断幕を掲げて練り歩いた。

　◆耳疑う領土拡大の主張

　歴代大統領の就任演説では、超党派の団結を訴えるのが伝統だが、1期目と同様に背を向けた。呼び掛けたのは自らが信じる「トランプの米国」への結集だった。

　2期目で目立つのは、掲げる旗印の過激さである。

　最優先に位置付けたのが、不法移民の排除だ。1期目ではアラブ系移民の入国を真っ先に禁止したが、今回はより強硬だ。

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メキシコとの国境沿いに建てられているフェンス＝米西部アリゾナ州ノガレス近郊で2024年10月16日、中村聡也撮影

　メキシコ国境に国家非常事態を宣言し、軍隊を派遣すると表明した。大規模な国外追放にも着手するという。

　排除の対象は、性的少数者にも及ぶ。性別を「男性と女性の二つのみとする」と強調し、多様な性をあからさまに否定した。

　いずれも新たな排斥主義を生み、差別を助長しかねない。

　耳を疑うのは、「領土の拡大」を明言したことだ。「メキシコ湾の名前をアメリカ湾に変える」と述べた。米国が建設し、後にパナマに管理権を返還したパナマ運河を「中国が管理している」と主張し、「取り戻す」と語った。

　北極圏を巡る安全保障を口実にデンマーク自治領グリーンランドの獲得にも意欲を示し、軍事的圧力も辞さない姿勢を見せている。

　「主権の不可侵」は国際法の基本である。それを無視してウクライナに侵攻したロシアを、米国は非難していたはずだ。

　国際的な信頼を損なう政策は他にもある。対立国、友好国を問わず高関税政策を導入するというが、報復関税の応酬になれば、世界経済は活力を失う。

　地球温暖化対策の国際的なルール「パリ協定」や世界保健機関（WHO）からの離脱を決めたことは、国際社会の結束を乱すことにつながりかねない。

　危惧すべきは、「トランプ流」の独善外交に追随する国が出てくることだ。そうなれば世界は収拾がつかない混迷に陥る。

　トランプ氏は「米国の黄金時代」が始まり、「世界中で尊敬されるようになる」と豪語するが、そうとは到底思えない。

　◆日本は主体的な外交を

　不確実性が高まるトランプ時代にどう対処すればいいか。

　まずは、トランプ氏の政策が実際にどこまで実行されるのかを見極める必要がある。

　移民排除政策は国内の反発を招き、裁判所が違憲と認定して執行停止を命じる可能性がある。性別問題では、反対する州が性的少数者の権利を擁護する施策を打ち出して対抗するだろう。本気で領土を拡大したいのか、取引外交の材料としたいのかは判然としない。

　軍事力を背景に妥協を迫る「力による平和」も危うさをはらむ。

　トランプ氏は「平和を構築する仲裁者」になると言う。ロシアによるウクライナ侵攻が長期化する中、停戦を模索する姿勢自体は否定されるべきではない。

　問題は、和平を急ぐあまり、侵攻したロシアに有利な条件を示すことだ。法に基づく秩序の信頼性が揺らがないよう、国際社会は米国にくぎを刺すべきだ。

　中国との関係も先が読めない。外交・安全保障チームは対中強硬派で固める一方、通商問題などを巡ってはトップ間交渉で妥協を探る可能性もある。

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中国の習近平国家主席＝2024年12月、ロイター

　米中対立の激化は、中国との貿易や投資で利益を得る日本にとっては好ましくない。地域の安定を促すためにも主体的に動き、緊張の緩和に貢献すべきだ。

　日本にとって最大の国益は、自由な国際秩序を維持することだ。そのために果たす役割は大きい。

　元稿：毎日新聞社　東京朝刊　主要ニュース　社説・解説・コラム　【社説】　２０２５年０１月２２日 　０２：００：００ 　これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。