【社説・11.19】:【APEC会議】:自由貿易へ試される結束
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・11.19】:【APEC会議】:自由貿易へ試される結束
自由貿易の重要性が改めて強調されるのは、警戒感の裏返しでもある。足並みをそろえて困難に立ち向かえるか、結束が試される。
アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議は、「効率的な多国間協力が一段と重要だ」とする宣言を採択した。
貿易・投資、気候変動を含む環境など「前例のない激しい変化」が起きていると危機感をあらわにした。世界が向き合うべき課題であり、その解消に取り組む決意を打ち出したように見える。同時に、トランプ次期米大統領へのけん制が含まれているのは間違いない。
国際社会はトランプ氏の大統領返り咲きに身構えている。トランプ氏は保護主義や「米国第一主義」を掲げてきた。関税の大幅引き上げや、気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの再離脱に踏み切ろうとしている。
関税引き上げは、米国への全輸入品に10~20%、中国には60%を課すと主張する。中国との対決姿勢は鮮明だ。世界トップの経済大国が高関税政策を取り入れると、貿易が停滞することは避けられない。
関税の報復合戦に発展すれば世界の景気が減速する懸念が強まる。米国では高関税に伴うインフレが想定され、その解消へ各国に新たな要求を突き付けるかもしれない。
中国の習近平国家主席は会議で、自由貿易体制を維持するために力を合わせるべきだと訴えた。米中貿易戦争が再燃すれば中国経済の減速がさらに広がり、社会の不安定化を招きかねない。習氏は欧州や新興・途上国を巻き込んだ国際協調に主導的役割を果たすことをもくろみ、トランプ氏に対抗する国際世論の構築を目指すとみられる。
先の石破茂首相との会談で習氏は、日中の共通利益を拡大する「戦略的互恵関係」の包括的な推進を確認した。また、東京電力福島第1原発処理水放出を巡る日本産水産物の輸入再開を着実に履行することを申し合わせた。日中には懸案も多く、関係の安定化へ対話を重ねる意義は大きい。こうした動きも対米圧力の一助としたい思惑もあるはずだ。
首脳宣言は、急激な変化の分野として貿易・投資などの他に、食料・エネルギー安全保障を挙げた。新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻で、供給網が分断されたことが背景にある。中東情勢の緊迫化も加わり、小麦や石油の供給網の寸断や価格高騰が一段と意識されるようになっている。
経済安全保障の強化に向けた友好国連携が重視されるようになっている。こうした動きには、中国が産業に必要な重要鉱物の輸出制限などの経済的威圧を強めたことを受け、中国への依存度を減らした新たな供給網をつくろうとした経緯があったことを忘れてはならない。
首相は、自由で開かれた貿易・投資環境を維持、強化する重要性を強調した。首脳宣言も確認した。実効性を高める取り組みや努力が求められる。
元稿:高知新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年11月19日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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