【社説②】:貿易協定と農業 影響の精査を重層的に
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:貿易協定と農業 影響の精査を重層的に
東アジア中心に日中韓など15カ国が加わる地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が発効した。
加盟国の国内総生産(GDP)は合計で世界の3割を占め、最大級の自由貿易協定となる。
貿易の活発化などで、日本の実質GDPが2・7%押し上げられると政府は試算している。
その一方で国内農業に与える打撃について「特段ない」と説明する。影響額も算出していない。
コメや牛肉など重要5品目が関税撤廃・引き下げの対象外になったからだというが、楽観的過ぎないか。中韓からの輸入が多い野菜への打撃を懸念する声もある。
2018年の環太平洋連携協定(TPP)以降、巨大自由貿易協定が相次ぎ発効した。
いずれも、工業製品の輸出増と引き換えに農業に犠牲を強いることを忘れるわけにはいかない。
多くの農産物の輸入関税は今後数年から十数年かけて段階的に下がっていく。政府は諸協定が農業に及ぼす複合的・長期的な影響を精査して結果を公表し、必要があれば対策を練り直すべきだ。
牛肉の場合、米国、カナダ、オーストラリアの主要輸入先3カ国から輸入された合計量は18年度、前年度に比べて約8%増えた。
コロナ禍による国内需要の低迷などで、その後は減少傾向にある。しかし特殊要因がなくなれば輸入は再び増えかねない。
TPP、欧州連合(EU)との経済連携協定(日欧EPA)、日米貿易協定と、政府は過去の協定について農業への影響を試算してきた。だが複数をまとめた試算が手薄なほか、前提に甘さもある。
今後は、RCEPを含む複数の協定が同時発効した影響を総合的に算定すべきだ。その際、打撃を厳しく見積もらねばならない。
政府の自由化対策は農家の大規模化や効率化に重きを置くが、そうした政策には問題もある。
酪農家の設備投資と増産を促す政策は生乳が大量に余る一因となった。中小農家も安心して営農できる環境を整えることが肝要だ。
自由貿易は世界経済の拡大に寄与してきた。その半面、農業など特定産業の淘汰(とうた)を招きかねない新自由主義的な側面がある。
食料安全保障を担う農業が弱体化しては困る。新自由主義からの転換を唱える岸田文雄首相は、自由貿易の弊害も直視すべきだ。
TPPを巡っては英国と中国、台湾などが加盟を申請した。加盟国増は農産物輸入増につながる。拡大路線には懸念が尽きない。
元稿:北海道新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2022年01月30日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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