【社説②】:戦没者慰霊碑 行政が関与して風化防ぎたい
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:戦没者慰霊碑 行政が関与して風化防ぎたい
戦没者を追悼する各地の慰霊碑が老朽化し、維持管理が難しくなっている。高齢化が進む遺族らに任せるだけでは、風化は避けられない。国や自治体は関与を強めるべきだ。
民間主体で建立された戦没者らの慰霊碑の管理は、主に遺族と地元住民が担ってきた。近年は、遺族が亡くなって管理者が不在になる事例や、地域の遺族会の解散が相次いでいる。
全国団体である日本遺族会の会員数は、1967年の125万世帯から2019年には57万世帯まで減っている。
19年の国の調査では、全国1万6235基の慰霊碑のうち、管理状況が「不良」は228基、「やや不良」が552基あった。存在や管理者が確認できない「不明」も1495基あった。現状はさらに悪化しているだろう。
経年劣化した慰霊碑を放置すれば、災害時に倒壊する恐れもある。将来にわたり、誰が、どのように維持管理していくか、遺族が健在なうちに方針を決めておくことが急務である。
遺族感情を考えれば、全てを残すことが望ましいが、管理にかかる多額の費用を踏まえれば、現実的とはいえない。日本遺族会も、地域に点在する慰霊碑の整理・統合は必要だとしている。
こうした取り組みを進める上で、自治体が積極的な役割を果たすことが不可欠だ。
滋賀県米原市は、老朽化した碑を解体・撤去し、新たに戦没者らを追悼するモニュメントや刻銘板を設置する事業を進めている。碑の跡地には説明板を設け、平和学習などに利用するという。
事業の策定にあたって、米原市は有識者や地元の遺族会、住民代表で構成する会議を設置し、意見の集約を図った。会議の答申に沿う形で、碑の解体・撤去に公費を投じることを決めた。
遺族側と協議し、残すべき碑を決めて管理費を補助している自治体もある。遺族や関係者と情報共有を深め、管理のあり方を丁寧に話し合うことが大切だ。
国は、慰霊碑の管理は建立者が行うのが基本だとしてきたが、こうした現状を考慮し、一定の責任を持って関与する必要がある。
自治体による慰霊碑の移設や補修費用の一部を国が補助する制度もあるが、倒壊の危険があるものといった条件があり、ほとんど利用されていないのが実情だ。
国のために命を落とした人たちの存在を記録にとどめることは、国の大切な責務である。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年08月22日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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