野田首相の所信表明演説について、いろいろ報道されている。増税=「身を削れ」論・「身を切れば生活良くなる神話」の具体化に向けた全国的にキャンペーンが国民に貼られている。まことしやかに同じ論調が語られているのだ。まさにイデオロギー攻勢だ。この攻勢の扇の要はどこだろうか?発信源は何か!それをつきとめなければならないだろう。これは国民的課題だろう。
それはさておき、野田首相の所信表明に対する各社の社説を検討してみた。まずその特徴をまとめてみた。
1.首相の姿勢を決意」は評価しつつも一応批判している。
2.身を削らなければならない一番手である財界に大しては全く語らず、「想定外」に。
3.職を奪われ、賃金が上がらない国民の不満を解決しない政治への不信や不満を利用した「身を削る」論を展開し、いち早く「実施しろ」と要求。
4.だが、公務員改革=賃金・人員カットによる国民への影響は全く語っていない。
(1)日本の賃金決定システムを無視した暴論を振りまいている。
(2)公務員賃金削減は民間に波及し、さらに次年度人事院勧告に跳ね返って、民間に戻ってくるという効果、いわゆる「悪魔のサイクル」を語っていない。
(3)総賃金低下=雇用者報酬の激減による購買力の低下や税収の低下を全く語っていない。消費税創設や税率アップ時の歴史を無視している。
(4)小選挙区制と政党助成金、マスコミの劇場型政治によって劣化した国会議員を野放しにしてきたことや各党の違いを国民に報せてこなかったことを語っていない。
5.ムダ削減論=「身を切る」論に基づいて、もっと早く「身を削れ」と叫んでいる。
6.例えば公務員や比例代表議席を削減し増税したとして、その後の事態に対しては、全くの「想定外」にしている。
(1)増税後、さらなる増税が発表されているにもかかわらず、その無計画・国民騙しぶりなどを追及もしないで、早く増税をしろ!と
(2)増税によって身を削られる庶民の苦悩は全くの「想定外」。特に被災者がどうなるかなどは一言もない。
(3)国会議員削減によって、議会と国民のパイプが削られ、ますます政治が遠くなり、政治不信が助長されることは語っていない。「想定外」。
(4)公務員削減によって住民サービスが低下することも一切語っていない。公務員の仕事を「民間に」回せば、納税や増税に見合うサービスが得られないということも「想定外」。特に教育・福祉は本来は行政の仕事である「民間に」回されることで住民の出費はますます増加していくことは「想定外」。
7.「ムダ」の中味は極めて限定的で、アメリカ貢献の軍事費や低額法人税や富裕層優遇策など、この間大儲けしてきた1%勢力への恩恵は「ムダ」に含めず「想定外」。
8.以上、マスコミの財界応援団ぶりが、いっそう明らかになった。このまま推移していけば、経済大国・政治小国ニッポンはますます閉塞・沈没していくだろう。その意味で、極めて確信犯といえる。
9.野田首相の福田・麻生演説利用は、この間マスコミが政権交代可能な二大政党政治・小選挙区制と煽ってきたことの破綻を意味するものだが、それには触れず、両党に決意を促し、増税を煽るのだ。
(1)民主、自民両党とも消費税増税は必要との点で大きな違いはないはず(徳島)
(2)「消費税10%」を公約した自民党が協議に応じないのは理解に苦しむ(秋田さきがけ)
(3)共同通信の世論調査で「支持政党なし」が43・6%を占め、民主、自公を合わせても41%程度の政治閉塞(へいそく)を恥じるべき(福井・富山)
(4)消費税増税という負担を国民に求めるからには、行政や政治家自身が身を削って、範を示さなければ(徳島)
10.原発再稼動・普天間返還・TPP問題などの追及が弱いことは当然だろう。
(1)一体改革とともに東日本大震災からの復旧・復興、東京電力福島第1原発事故への対応、経済再生を最重要課題に挙げた。首相が述べたように「政策の方向性に与野党の違いはない」だろう。(東奥日報)
(2)安全性が確認された原発の再稼働について、地元自治体を説得する先頭に立つことも首相の責務(産経)
(3)原発の再稼働などの当面の課題を含め、もう少し具体的な説明が必要だ日経。
(4)人類史上まれにみる原発事故を経験したというのに、施政方針に新しい展望がないのは、残念でならない。(信濃毎日)
(5)既存原発の再稼働、米軍普天間飛行場移設、環太平洋連携協定(TPP)、拉致問題など課題はほかに山ほどある。(福井・富山)
(6)米軍普天間飛行場の返還問題については、名護市辺野古移設の日米合意通りの実施を表明し、県外・国外移設、無条件返還を求める県民の期待を早くも裏切った。(琉球新報)
11.閉塞感に満ちた日本の「改革」の展望を語ることはあり得ない。以下に象徴的だ。
(1)「復興を通じた日本再生」「新しい日本を作り出すという挑戦」という言葉は見られるが、それ以上のビジョンが語られなかったのは残念だ。震災・原発事故・超円高を乗り越えるチャレンジは、世界に新しいモデルを示すことになる。そんな気概が、復興を担う政権リーダーに欲しい。(京都)
(2)いま与野党から反対論が噴き出している一体改革は一里塚に過ぎず、さらに財政の手当てが必要なのが現実…消費増税をはじめとする税制改革、歳出を削る政治・行政改革、経済を活性化させる成長戦略の三つを愚直に進めていくしかない。どれか一つで財政再建のメドが立つほど、日本の状況は甘くない。まずは税制改革である。いまは社会保障の財源の多くを国債発行に頼り、将来世代にツケを回している。これを現役世代が負担する税に置き換えていくことは、社会保障制度を安定させ財政再建にもつながる。この構図を、政府・与党はもっと丁寧に国民に語らねばならない。同時にさまざまな政治・行政改革で「自ら身を切る」必要があるのは言うまでもない。忘れてならないのは、経済成長の大切さだ。日本経済のパイ自体を大きくし、雇用や税収を増やして、財政再建に必要な負担増を少なくしたい。処方箋(せん)はすでにある。政府が昨年末に閣議決定した「日本再生の基本戦略」だ。エネルギー・環境、医療・介護、農業などの分野を中心に、新規参入を促して国民のニーズを掘り起こせるかが問われる。カギは、時代遅れになった規制の緩和だろう。既得権を守ろうとする関連業界の抵抗は根強い。それを押し切って消費者の利益を高めることが不可欠だ。(朝日)
「既得権を守ろうとする関連業界の抵抗」とは何かを具体的に語らなければ、無責任というほかあるまい。
各社の社説のテーマ
朝 日 施政方針演説―気合十分、説得力不足、財政見通し―一体改革でもなお赤字
毎 日 通常国会開幕 責任共有し税制決着を
産 経 施政方針演説 言葉だけで信は得られぬ
読 売 施政方針演説 「決断する政治」への戦略持て
日 経 「決められない政治」から脱却できるか
北海道 公約総崩れなぜ語らぬ
秋田さきがけ 「決断する政治」見せよ
東奥日報 覚悟はいい、問題は実行力
岩手日報 消費税国会 「身を切る覚悟」を示せ
河北新報 遺恨の悪循環を断ち切れ
福島民友 言葉より実行力が問われる
福島民報 真摯な説明、論戦を
茨城新聞 言葉よりも実行力だ
神奈川新聞 野党は真摯に向き合え
東京新聞 正心誠意が欠けている
信濃毎日 消費税国会 苦しさにじむ首相演説
新潟日報 熱意を結果につなげねば
福井・富山 今なすべきは増税なのか
北國新聞 胸に響かぬ不退転の決意
岐阜新聞 今こそ実行力が問われる
京都新聞 決意聞けても視界不良
神戸新聞 決断する政治へ指導力を
山陽新聞 伝わらない身を切る覚悟
中国新聞 口先の「決断」では済まぬ
愛媛新聞 有言不実行から脱却してこそ
徳島新聞 意気込みはうかがえたが
高知新聞 言葉が空回りしている
西日本新聞 「危機の克服」へ総力を尽くせ
佐賀新聞 もはや先送りは限界だ
熊本日日 聞きたかった首相の覚悟
宮崎日日 国の未来思う大きな政治を
南日本新聞 課題実現の道筋を示せ
琉球新報 決意と独断専行は違う 普天間解決に使命感を
沖縄タイムス [一体改革]格差への対応を怠るな
そんななかで膝を打ったのは視点が定まっていた沖縄タイムスだろう。だが、そのタイムスでさえも「財」については語らず、だ。日本においても99%対1%の構図をもっとはっきりさせていかなければならないだろう!
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-01-23_28878/
国民の税金が一部の「官」の既得権維持のために使われ、富裕層が優遇され、結果として金が広く天下を回らず格差が固定化する。そのような仕組みを改めることが肝心だ。政府の進める一体改革は、現状では将来を見通せない。
豊かなる政官財の殻の中殻を破りて富民にこそ
富と貧貪する猛者の少なきを数多の貧に人の情けを