18歳選挙権が現実的になってきた。が、しかし、この議論の最大の問題点は、国際的水準から見て18歳選挙権をどうみるか、すなわち子どもの権利として何を教えるかということが欠落している。同時に日本における選挙権具体化の歴史が教えられていないことも。
このことは以下2つの指摘を見てみると、よく判る。
1.「産経」にみられる一般的な雰囲気、「権利のまえに義務を」感
選挙権、18歳引き下げの影響は 「権利と義務」功罪相半ば2012.1.26 22:53
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/120126/plc12012622540012-n1.htm
社会生活で適切な判断能力をもつとみなされる成人の年齢は民法で「20歳」とされ、そのほかの法令も民法に沿い20歳を基準にしているものが多い。
最たる例は「未成年者飲酒禁止法」と「未成年者喫煙禁止法」だ。未成年者の飲酒・喫煙は禁じられているが、成人年齢が18歳に引き下げられれば高校生の飲酒・喫煙も可となる。
これをみると、産経の立場が判る。「天皇、皇太子及び皇太孫の成年は、18年とする」(皇室典範第22条)オトナの位置づけと一般ピープルは別物ということだ。
またやはり旧い「権利を与える前に義務を」観だ。健康面からみれば、オトナだって飲酒・喫煙は、その「権利行使」に「責任」が求められるのに、子どもには「責任」は教えず「義務」を負わせる考え方だ。子どもの飲酒・喫煙を問題にするのであれば、大人社会の飲酒・喫煙の習慣・文化を問題にするべきだろう。
そもそも喫煙を禁止する法律(1900年)ができた理由は、徴兵制によるものだ。日清戦争時に兵士に「恩賜の煙草」を配って奮戦させたことに始まる。軍事費を捻出するために煙草税を位置づけたこともあった。その思惑りだった!喫煙の習慣をつけさせられた凱旋兵士たちの喫煙をムラの子どもたちが真似したのだ。だが、それは徴兵軍隊をつくるうえで障害だったから禁止法をつくったのだ。矛盾だ。来るべき日露戦争に供えて軍事費がほしい。だが強い兵士もほしい。
飲酒の禁止法(1922年)については、詳しいことは判らないが、大戦景気(バブル景気)に沸くニッポンに飲酒の習慣が日常的になったことが大きいのではないだろうか?
日本の徴兵制も負け戦がすすんできた1943年大きく変わった。徴兵検査の年齢は満19才、翌44年には満18才に引き下げられた。18歳をどのように位置づけていたか、判る。
2.子どもを権利行使の主体者として捉えないために発生した弊害として、
「加藤としゆき公式サイト」=「成人年齢の引き下げと政治教育の重要性2008年2月26日」が参考になる。以下ポイントをあげてみる。http://www.kato-toshiyuki.com/policy/report/post-27.html
我が国の青少年は、前述のように、政治そのものに関心が無いのみならず、政治の仕組みから、政治参加の意義などにも興味を示さない政治的無関心層が大部分・・・
社会的・経済的な競争が一段と激化しているとか、幸せの追求が家族や小グループ単位に極小化しているといった社会全体の構造的な問題に起因していることも指摘されていますが、教育学者を中心にした研究では、根本的には中高校生に対する公的教育機関での政治教育の貧困に主要原因があると分析されて・・・
社会的知識や判断力などがつき始める高校段階にあっては、「現在社会」「政治・経済」「倫理」の各教科は大学入試センターの選択科目になっており、かなり高度な知識の取得が要求されています。これらの科目を選択する者にとっては、入学試験の準備段階で一定の政治知識を得ることができますが、これらの科目を選択しないもの、あるいは大学進学をしない者にとっては、高校における通常の中間・期末テストに間に合う程度の勉学にとどまる・・・
青少年の政治意識を高揚させ、政治への参加意識を高めているためには、家庭・地域社会・そして公的教育機関において、青少年に社会的関わりを意識させることができる生活態度の養生が必要であると考えますが、我が国の現状からして、まず、公的教育機関による政治教育の充実が最優先して取り組まれなければならない・・・
現在、青少年の政治教育の推進を訴える団体やNPOの活動も徐々に高まってきており、また芝浦工業大学柏中学高等学校のように政治教育に先進的に取り組んでいる私立学校もありますが、公的教育機関において全国的な実践を行うことが求められます。まもなく、誕生日を迎える高校3年生から憲法改正のための国民投票の投票権をもつことになるわけですから、教育効果が表れるまで時間を考えますと対策は急を要するものとなっています。
以上の文を読むと、子どもを権利行使の主体としてみない教育の弊害がよく判る。「日の丸」を礼拝し、「君が代」を斉唱することを愛国心教育として「命令」を課し、憲法教育や平和教育をないがしろにして、戦後民主主義を否定してきた勢力の破綻をみるようだが、そうも言っていられない。
3.日本における子どもの権利観の遅れた実態と不徹底ぶりについて
選挙権の年齢をみると、世界の大勢は18歳選挙権だ。日本は後進国である。16歳選挙権の国もある。選挙権と成人年齢を分けている国もある。
4.子どもの権利条約の批准の歴史や扱い方をみると、これまたよくわかる。そもそも子どもの権利条約では「こどもとは、18歳未満のすべての者」とされている。この条約が採択されたのは1989年11月20日、第44回国連総会だったが、日本は1994年4月22日に批准、5月22日に発効。(世界で158番目)だったことにみるように、子どもの権利観においては後身国だ。「国際化」「多様化」「個性化」「自由化」などと美辞麗句を上げながら、実は全く逆のスタンスの教育が行われてきた結果が、加藤議員のHPにもよく出ているし、「産経」のような「18歳は子どもだから選挙権を与えるのは早い!」観になるのだ。だから子どもの意見表明権などは、とんでもないことになる!!
5.では18歳選挙権を具体化する歴史はどうだろうか。日本で最初に18歳選挙権を主張したのは誰か。それは以下の点を見れば、判る。「選挙権を主張したのはいつごろから?」2000年6月14日「しんぶん赤旗」
http://www.jcp.or.jp/faq_box/001/2000614_18sai_senkyoken.html
(問い〉 日本共産党は、戦前から十八歳選挙権を主張してきたそうですが、詳しく教えてください。(愛知・一学生)
〈答え〉 日本共産党が十八歳選挙権を最初に主張したのは、党創立(一九二二年)の直後の綱領草案(一九二三年)です。この草案で、「十八歳以上のすべての男女にたいする普通選挙権」を主張しました。
6.さて、この共産党の方針はどのように具体化されようとしただろうか。実は若者のたたかいはあった!それは、以下の書物に紹介されていた!
森田俊男教育論集第2巻『地域の理論』(民衆社)の「第Ⅰ部地域に住民自治と教育の自由を―沖縄・戦前の二つの遺産 第二章 大宜味村政革新同盟と教育 二 革新同盟の展開―自治・生産の擁護・教育権の要求を中心に」のなかに、18歳選挙権実現の運動があった。
以下ポイントを掲載してみよう。
「青年団にたいする補助金問題に端を発して、村民大衆・青年の税収奪や財政の不当な支出などへの不満といかり、青年団活動の自主化(当時は村長が団長をしていた)の要求が高まり、それがかねてから村政の革新という課題、自らを統治主体に高める課題に集約されていったこと」
具体的には、大宜味村村政革新同盟の以下の綱領にみる。
一、本同盟は村当局の無媒ナル財政々策ニ反対シ腐敗紊乱セル村財政ノ革新ヲ期ス
一、本同盟ハ全村民大衆の社会的経済的政治的利益ノ獲得ニ努力シ其ノ生活向上ヲ期ス
一、本同盟ハ男女青年政治的自由並ニ公民的自由ノ獲得ヲ期ス
一、本同盟は一般青年ト農民大衆ノ固キ結合ヲ期ス
一、本同盟は青年大衆ト農民大衆ノ政治的教育及訓練ノ徹底ヲ期ス
この綱領の中に位置づけられた主な要求項目は以下のとおりだ。
「青年団の自主化と補助金の無条件給付、衛生設備及び体育、娯楽機関の公設と青年による管理権確立、高等学生への貸費の中等学生への振替、字()協議会への男女青年の参加、一般字民による区長公選、字区長の給料の値下げ、消費組合の設置」
「草案と比較すると、「労働青年」「貧農青年」の語がはずされ、草案の最後の一条「村内に於ける青年大衆と農民大衆との組織を図ると共に是が全郡的全県的団結を期す」がかくされている。要求項目はさきに村長に提出された項目戸とほとんど変わっていないが、はっきりと「字共同店」の「改善」(消費組合化)村立実費病院ノ設置」「村医撤廃」がうちだされていることに注目すべきだろう。自治革新の政治運動と結合させ消費組合による生活を守る運動に展開させられていたことがわかる」
「この時期に村政革新の一歩がふみだされた。村会議員らを加えて「刷新同盟」が新しい力で運動を展開していくや、村長は十一月五日の緊急村会で「局面打開」をうちだしたのだ。同盟の提起していた予算修正要求がうけ入れられた。
すなわち、「村長以下村吏員の俸給々料三割を村へ寄付」「村会議員の費用弁償三割引下げ」「村医二名、助産婦一名の廃止」「その他勧業費の整理若くは節約」「右に依り生ずる財政上の余裕金を以て特別税戸数割から千三百四十三円減額し村民の負担軽減を期すること」が議決された(『琉球新報』一一・二〇)。革新同盟の要求の一部がこうして達せられたのだ。村医廃止で平良県会議長も大きい打撃をうけた。 だが、上里ら青年の追求した「村政革新」はここにとどまることはできない。」
「彼らはすでに村政革新の運動の発展として村民の「生活立て直し」をめざす消費組合運動をめざし、全住民を消費組合員とすることを通して生活を守る、と同時に、生活共同・自治のにない手にしていくみちをえらんでいた。」
「上里らによって意識的にとられた、同盟=消費組合=少年少女組織・婦人組織・青年組織という厚みをもった運動方式は、指導部のたびたびの弾圧にもかかわらず、屈することなく、着実にたたかいをすすめていたった。」
「そして一九三二年二月二十六日、革新同盟の要求のひとつであった「一般字民による区長公選という、地方自治の、いわば原点での民主主義の確立を求める運動にたいする警察権力をもってする弾圧事件となっていくのである。」
「五月一日。大宜味消費組合は二百人のメーデーを組織した。官憲の記録にこうある。(『階級的消費組合の情勢及び運動状況』内務省)「沖縄県大宜味消費組合にありては、警戒の間隙に乗じ、組合員等百六十余は大宜味村字喜如嘉に集合し、闘争によりて解放へ、男女十八歳以上に字代議員の選挙権、被選挙権を与へろ、各字代議員会の消費組合不買決議絶対反対等記載したる旗及婦人会旗を押し立て、大宜味革新同盟歌を高唱しつつ示威運動(無届)を開始し喜如嘉内を一巡して解散せり。」
さてどうだろうか。このような18歳選挙権に関する歴史を、学校で教えているだろうか。教科書に記載されているだろうか?ないだろう!
こうした事実を抜きにしているから「産経」や加藤議員のようなコメントが出てくるのではないだろうか。ひとえに政治の貧困というか、戦前の政治の流れがこんにちまでずっと引き継がれていることが判るだろう。
7.そこで18歳選挙権の具体化にあたって、まずやるべきことをまとめてきた。それは、
1、選挙権・参政権の歴史を公平に教えること。
2.子どもの権利条約にもとづく学校運営、子どもに責任を持たせる習慣の徹底化。
3.子どもの中にある成長しようという積極的な事例を使った教育の徹底。
以上のものさしに沿ってすべてを見直すことだろう。
オトナこそ己の歩み忘るなと肝に銘じて子らに対せよ
輝ける眼の輝き失せるときオトナの鏡捨つる時なり
いつの世も激しく動く時代(とき)にこそ若き力のあるを思えよ
晴れ着きて成人となる子らの目に国の未来を背負う姿を
たたかいを子らに伝えぬオトナあり民のことそはデモのことなるぞ