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東京都港區白金の北里研究所内にある北里柴三郎記念館の、「110年前の感染症予防ポスターを見てみよう」展に興味を覺え、覗いてみる。
明治から大正の近代日本において、感染症予防研究の第一人者だった北里柴三郎博士および現代の研究者を顕彰する資料群の一角に、日常生活に潜む感染症の危険と予防を訴へる件の複製ポスターが數點展示され、
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關東大震災以前の庶民の生活風景を活冩した濃厚な画風にまず目を奪はれるが、そこに添へられた文言もなかなか直球で心に響いてくる。
『加持祈禱賣藥は結核の味方です』 ──
たしかに、“アマビエ”は何の役にも立ってゐない。
神社に吊り下げられた鈴を鳴らす緒、平癒を念じて疾患箇所を撫で回す“おびんずる様”など、不特定多數が触れる御利益モノも細菌の温床なり。
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『遙々参詣すれば 強々(わさわさ)鈴の緒を引き 佛を擦(まゐら)すとても 御利益灼然(あらたか)なるべし』──
病ひを治したい一心で縋った結果、それでさらに病ひを頒布されては本末転倒、人災疫病禍の最盛期に、日本各地で疫病退散の祭禮を執行すべきか否かで氏子たちが苦悩した例にも通じる。