その後の『ロンドン テムズ川便り』

ことの起こりはロンドン滞在記。帰国後の今は音楽、美術、本、旅行などについての個人的覚書。Since 2008

藤原正彦 『遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス』 (新潮文庫)

2010-03-03 07:37:47 | 
 数年前に同氏の『国家の品格』を読んだが、今どきこんな滅茶苦茶なことを言う人(他国は日本に比べこんなに劣っている。日本は凄い。誇りを持とう!という主張)もいるんだと思った。他国をおとしめて、自国に誇りを持とうという姿勢が気に入らなかった。タイトルを見て読むべきではないだろうなあと思いつつ、ベストセラーだからという理由で手に取った自分が馬鹿だったと、読後にとっても後悔の念に陥った。

 この本は、それに比べるとずっとマトモな本だった。まず、読んでいて面白い。読んで良かったと思う本だった。国としてのイギリスやイギリス人の特徴を良く捉え、うまく描写している。尊敬と侮蔑が入り混じったところも面白い。やっぱり、このぐらい思い込みが強い人でないと、数学者にはなれないのだろうとも妙に納得した。

 自分の職場周りでも本書に匹敵するぐらいの面白いことが毎日のように起きているだが、さすがに、そんなことを書いて見つかったら(日本語のできるイギリス人も何人かいるし)不興を買うし、当人達に対してもとっても失礼なことなので書けない。メモでもして、定年して引退したら、書こうかなあ。

 彼がイギリスで研究生活を送ったのは1988年。イギリスが高失業率、不況に打ちひしがれていた頃である。筆者は、イギリスのユーモア精神(物事から一線を画す姿勢)がある限り、経済的な復興はないだろうと予測しているが、ここ最近のイギリスはともかく、90年代以降、立派に復活した。しかし、私の廻りのイギリス人には、「今のイギリスはアメリカの真似をしているだけで、イギリスらしさがどんどん失われている」という人もいる。難しいものだ。

 20年前のことではあるが、今、ケンブリッジ大学に留学しても、随分と雰囲気は変わってしまっているのではないだろうか?そう言えば、ケンブリッジかオックスフォードか忘れたが、数ヶ月前の新聞に、どっちかの大学が財政再建のため図書館に企業名の冠をつけられるように、売り出すことを決定したというニュースがあった。「テスコ(大手スーパーの名前)・ライブラリーがケンブリッジにできたら?」と皮肉ってあったが、本書を読んだ後でこの記事を思い出し、少しさびしい気分になった。イギリスもこの20年で大きく変わっているのだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする