「みんなッ、きをォつけてッ!」
名探偵テディちゃムズの一喝に、
ユキノジョン・H・ワトソン博士と虎くんは
ハッといたします。
悪漢たちに侵入された名門百貨店『クマロッズ』店内は、
店員さんたちが縛られ、商品は棚から落下し、と
散々なありさまでした。
「ひどいィことをッ!」
「ヤツらはどこだ?」
「がっるぐる!」(←訳:あっちだよ!)
鼻が利く虎くん、
店員さんたちを縛る縄を食いちぎりながら、
瞬時に侵入者たちの居所を嗅ぎ当てましたよ。
2階です!
宝飾品を展示するギャラリーが設営されているのは2階です!
「きええェ~いッ!」
「とうっ!」
「ぐるる!」(←訳:ガブリ!)
テディちゃムズのバリツが、
ユキノジョン・H・ワトソン博士のハイキックが、
虎くんのひと噛みが炸裂します。
モランクマ大佐は、ちょうど
空気銃に空気を充填しようとしていたところでしたので、
テディちゃムズの鋭い投げ技を避けようもありません。
ハイキックを喰らった灰色クマともども、
床に倒れ伏しました、が。
「ああッ! 宝物が……ない!」
『クマロッズ』マネージャー氏の、悲痛な叫び。
どうやら既に宝物は奪い取られてしまったらしく、
6つの展示ケースは空っぽです。
「あわてちゃァ、だめだよゥ!
たからものはァ、ここにィあるッ!」
そう、宝物は消えたけれども、
『クマロッズ』店外に出た者は誰もいない。
であるなら、6つの宝物は、まだ店内に!
「なくなッたたからもののォ、とくちょうゥはッ?」
テディちゃムズの質問に、マネージャー氏が
6つの宝物の名称と特徴を説明するやいなや、
おお!
名探偵は『クマロッズ』のフロアを駆け巡り、
次々と勝利の鼻息を鳴らしてゆくではありませんか。
「ふふんッ♪ ふんッ♫」
《ダイヤモンドの首飾り》は、
きらめくシャンデリアの中に。
《オパールの花型ブローチ》は、
観葉植物売場の花束の中に。
《エメラルドのティアラ》は、
コスメ売場のウグイスのフン洗顔剤の中に。
《金貨が詰まったナポレオンの小型像》は、
画材売場のデッサン用彫像の一群の中に。
《青い紅玉》は、
文具売場の、青インク壺の中に。
そして最後に、
《ボルジア家の黒真珠》は――
「ここだッ!」
はい! 食品売場の、最高級キャビア壜の中に、
極小の密閉ケースごと《ボルジア家の黒真珠》は
封じ込められておりました。
チッキショー!せっかく隠したのに!
と喚くモランクマ大佐と灰色クマに、
到着したばかりのグレグスンベア警部が手錠を掛け、
ロンドン警視庁へと引っ立ててゆきます。
「見事だったよ!テディちゃでス!」
「がるーるぐるがるる!」(←訳:スピード解決なんだ!)
「ふふんッふんッ♫♪」
マネージャー氏や店員さんたちに御礼を言われて、
荒らされた店内の片づけをお手伝いして、
『ハチミツワイン販売整理券』を手に
再び『クマロッズ』入口の列に並びながら、
名探偵テディちゃムズたちは昇る朝日に願います。
「せかいじゅうのォ、みなさまにィ~!」
「良い年が来ますように!」
「ぐる!」(←訳:だね!)
~ おしまい(たぶん)~