《バスカビルの虎》――
それはいったい何のことなのでしょう?
名探偵テディちゃムズと医学博士ユキノジョン・H・ワトソンは、
ただちに列車に乗り込みました。
目指すはダートムーア、バスカビル屋敷です!
「トラ、虎……いったいどういう意味なんだろうね、テディちゃムズ?」
「でーたァ、でーたァ……でーたがァたりないィよッ、
ユキノジョン・H・ワトソンくんッ!」
話し合う2人を、大晦日の列車はダートムーアへ運んでゆきます。
ロンドンとは正反対の、荒涼たる風景が車窓に広がりました……
かつて『バスカビル家の犬』事件で訪れたグリンペンの村へ、
もうすぐ到着いたします。
駅には迎えの馬車がロンドンからの客人を待っていてくれましたよ。
「ああ、テディちゃムズさん!
ユキノジョン・H・ワトソン博士!
た、たいへんなんですっ!」
バスカビル屋敷の玄関ホールで、
ヘンリー・バスカビル卿は叫びました。
「と、虎が!
虎が現れたのです! 呪いの虎が!!」
「のろいのォ、とらッ?」
「怖ろしい魔犬の次は、呪いの虎かい?」
そうなのです、とヘンリー卿は青ざめます。
わが祖先の悪事のツケが、またしても現代の私たちを脅かすのだ、と。
夜な夜な沼地に響き渡る大型獣の咆哮、
巨大な猫科生物の影を目にした村人は複数おりますし、
バスカビル屋敷周辺の泥地には……獣の足跡も!
「のろいのォとらッてェ……こころあたりィがァ、あるのでスかッ?」
「はあ、そのう、お恥ずかしい。
我が御先祖さまの罪ときたら、
魔犬だけでは到底済みませんのですよ。
テディちゃムズさんに魔犬を退治していただいて、
ようやくこの屋敷も平穏になったと思ったら、
今度は虎です!
せっかく新たに雇い入れた優秀な料理人のマーサおばさんも、
虎がいるような土地ではやってゆけない、
お暇をいただきたいと言い出して……ああ、どうしよう~!」
おお、それはいけません。
優秀な料理人さんは、ダイヤモンドよりも大事にしなくては!
テディちゃムズとユキノジョン・H・ワトソン博士は
ヘンリー卿に協力を申し出、
善は急げ!と調査に繰り出しました。
しかし――
「むぐぐっ、寒いねぇ、テディちゃムズゥ~」
「さむいなァ、さむさむゥだよッ、ユキノジョン・H・ワトソンくんッ!」
夜です。
真冬の夜中です。
凍てつく風が、コートの裾を煽ります。
うう、寒い! ぶるる!
真っ暗な沼地のほとりで、
名探偵と医学博士はちょっぴり、いえ、こっぴどく後悔いたしました。
あ~、あたたかい暖炉の火が恋しい。
調査は明日から始めます、と言えば良かったかも……。
「わわわっ!
あ、あれは何だいっ、テディちゃムズ?」
「あれはね、ユキノジョン・H・ワトソンくん、
きょうかいのォ、かねのおとッ、だよッ!」
暗く、重たい霧の上を、底ごもったようなゴォーンという音が流れます。
年の変わりを告げる、グリンペン村の教会の鐘でしょうか。
「ああ、真夜中かぁ。
日付が変わったんだねえ、テディちゃムズ」
「うむッ!
あけましておめェ――むゥ??」
ゴォーン、ゴーン。
ゴォーンン、ゴォーン……。
ゴォ……ゴォ、ゴゴ、ゴグゥ、グルルルゥー……。
ぐるるるぅ~~~?!?
「ぐるる~ッてェ……まさかッ!!」
「テディちゃムズ! 後ろだ!」
振り返ると、そこには――
紛うことなき、虎!
「ひィィィッ!」
「本物のォ、虎だぁっ!」
(次回へ、続く!)
それはいったい何のことなのでしょう?
名探偵テディちゃムズと医学博士ユキノジョン・H・ワトソンは、
ただちに列車に乗り込みました。
目指すはダートムーア、バスカビル屋敷です!
「トラ、虎……いったいどういう意味なんだろうね、テディちゃムズ?」
「でーたァ、でーたァ……でーたがァたりないィよッ、
ユキノジョン・H・ワトソンくんッ!」
話し合う2人を、大晦日の列車はダートムーアへ運んでゆきます。
ロンドンとは正反対の、荒涼たる風景が車窓に広がりました……
かつて『バスカビル家の犬』事件で訪れたグリンペンの村へ、
もうすぐ到着いたします。
駅には迎えの馬車がロンドンからの客人を待っていてくれましたよ。
「ああ、テディちゃムズさん!
ユキノジョン・H・ワトソン博士!
た、たいへんなんですっ!」
バスカビル屋敷の玄関ホールで、
ヘンリー・バスカビル卿は叫びました。
「と、虎が!
虎が現れたのです! 呪いの虎が!!」
「のろいのォ、とらッ?」
「怖ろしい魔犬の次は、呪いの虎かい?」
そうなのです、とヘンリー卿は青ざめます。
わが祖先の悪事のツケが、またしても現代の私たちを脅かすのだ、と。
夜な夜な沼地に響き渡る大型獣の咆哮、
巨大な猫科生物の影を目にした村人は複数おりますし、
バスカビル屋敷周辺の泥地には……獣の足跡も!
「のろいのォとらッてェ……こころあたりィがァ、あるのでスかッ?」
「はあ、そのう、お恥ずかしい。
我が御先祖さまの罪ときたら、
魔犬だけでは到底済みませんのですよ。
テディちゃムズさんに魔犬を退治していただいて、
ようやくこの屋敷も平穏になったと思ったら、
今度は虎です!
せっかく新たに雇い入れた優秀な料理人のマーサおばさんも、
虎がいるような土地ではやってゆけない、
お暇をいただきたいと言い出して……ああ、どうしよう~!」
おお、それはいけません。
優秀な料理人さんは、ダイヤモンドよりも大事にしなくては!
テディちゃムズとユキノジョン・H・ワトソン博士は
ヘンリー卿に協力を申し出、
善は急げ!と調査に繰り出しました。
しかし――
「むぐぐっ、寒いねぇ、テディちゃムズゥ~」
「さむいなァ、さむさむゥだよッ、ユキノジョン・H・ワトソンくんッ!」
夜です。
真冬の夜中です。
凍てつく風が、コートの裾を煽ります。
うう、寒い! ぶるる!
真っ暗な沼地のほとりで、
名探偵と医学博士はちょっぴり、いえ、こっぴどく後悔いたしました。
あ~、あたたかい暖炉の火が恋しい。
調査は明日から始めます、と言えば良かったかも……。
「わわわっ!
あ、あれは何だいっ、テディちゃムズ?」
「あれはね、ユキノジョン・H・ワトソンくん、
きょうかいのォ、かねのおとッ、だよッ!」
暗く、重たい霧の上を、底ごもったようなゴォーンという音が流れます。
年の変わりを告げる、グリンペン村の教会の鐘でしょうか。
「ああ、真夜中かぁ。
日付が変わったんだねえ、テディちゃムズ」
「うむッ!
あけましておめェ――むゥ??」
ゴォーン、ゴーン。
ゴォーンン、ゴォーン……。
ゴォ……ゴォ、ゴゴ、ゴグゥ、グルルルゥー……。
ぐるるるぅ~~~?!?
「ぐるる~ッてェ……まさかッ!!」
「テディちゃムズ! 後ろだ!」
振り返ると、そこには――
紛うことなき、虎!
「ひィィィッ!」
「本物のォ、虎だぁっ!」
(次回へ、続く!)