「はわわわァ~ッ!」
お待たせいたしました、
2025!新春特別企画の第4回の始まり始まり~ですよ。
前回は、謎の襲撃犯を追いかけ、
名探偵テディちゃムズ一行は海軍学校船《アテナ》号から
人力飛行機に乗り換え、ロンドン上空に到達したところで、
機体が崩壊!となって。
「おちるゥ~ッ??」
いや、それが。
所詮は人力飛行機です。主な素材が布と紙なので、
ぱたぱた、ほろほろ、機体のあちこちを壊しつつも、
ゆ~っくり落下した末に。
「ぱふゥ!」
なんと、そこは。
「えっ? テディちゃムズ!?!」
名探偵テディちゃムズの盟友ユキノジョン・H・ワトスン博士と
スコットランドヤードの警官隊が
謎の襲撃犯たちと睨み合っている現場!
ではありませんか。
襲撃犯たちは、暗い夜空から落下してきた
テディちゃムズたちに気付いて避けるヒマもなく、
直撃を喰らって気絶してしまい、
ころんと転がったテディちゃムズの手元には
あの外交行嚢が……!
「でかしたッ、テディちゃムズ!
……ん?」
テディちゃムズの兄、マイクマフト氏の耳がピクリと動きます。
いま、たった今――
ピシリ。
そんな音が、外交行嚢から聴こえませんでしたか?
「うひょッ、まさかッ」
慌てて行嚢を手に取るマイクマフト氏、
袋の封を開けてゆくその間にも、さらに
ピシリ、ピシピシ、と音は止まず――
音と一緒に、ぴょん、と飛び出したのは。
小さな、ヘビくん。
マイクマフト氏とヘビくん、
暫し、互いに見詰め合ったのち――
「とぅちゃん!」
予想外の言葉とともに、ヘビくんににじり寄られて、
さしものマイクマフト氏も、ぽかんといたしますよ。
「とぅちゃん? わしが?」
「とぅちゃん!」
ええ、そもそも。
ことの始まりは、米国西海岸の桑港(サンフランシスコ)で行われた
国際会議の席でした。
マイクマフト氏としては、英国外に出るなぞ
まっぴらごめん!もう帰りたい!の心境ではあったのですが、
隣に座った東洋のジャポン国特使とお喋りするうち、
お近づきの記念に、と
特使殿から”ヘビの卵”を贈られたのです。
へ? ヘビ?
ギョっとするマイクマフト氏に特使殿は微笑みました。
間もなく、新年。
聖なるヘビは新たな年の守り神であり、
財運金運をも招くと謂われているのですよ。
財運金運……!
ああ、財務省の連中は好きそうやなぁ、
ここは貰って帰らんときっと恨まれるわなぁ、
そや! 女王陛下への献上品ということにすれば、
ジャポンさんも財務省もわしの部局も
みな面子が立って、八方丸~く納まるわいなぁ……。
そうして、ヘビの卵入り小袋を
ありがたく受け取ったマイクマフト氏だったのですが。
ふっと、気付きました。
会議の円卓に着いている他国の特使たちが、
マイクマフト氏が手にする小袋に、爛々たる眼光を注いでいます。
しまった……!
財運と金運を背負ったヘビ――
そんなスーパーアイテムなら、どこの国の財務省だって
欲しいに決まっとる!
今後は隠密裏に行動せねば!
焦ったマイクマフト氏、
弟のテディちゃムズを急遽呼び寄せました。
名探偵を護衛につけ、
桑港を発ち、大陸横断鉄道で合衆国を東へ向かい、
ボストン港で英国海軍学校船《アテナ》号に乗り込んで、
大西洋を猛スピードで横断したら、
女王陛下の年越し&新年の祝宴に、
ぎりぎり、間に合うはず。
そこで陛下と執事たちに頼み込んで、
宮殿内にヘビくんの住居を作ってもらえば、
他国の使節たちも手は出せないでしょう。
争いやゴタゴタは回避できます。
それがよもや、謎の集団に襲われたり、
宮殿の宴には行きそびれ、
卵が途中で孵って、
なぜか、とぅちゃんと認識されるとは。
「まだァまにあうゥよッ、おにいィちゃんッ!」
「がるるる!ぐるるがるるるる!」(←訳:そうだよ!祝宴はこれからだ!)
「新年の鐘は鳴ってない!」
マイクマフト氏とヘビくん、
尻尾を同時に揺らします。
「なるほど、そうじゃな! よし、バッキンクマ宮殿へ!」
困難を乗り越えたささやかな一団が、
宮殿に続く大路を進んでゆきます。
紅白クマ合戦がちょうど終わったのでしょうか、
ロイヤルアルバートクマホールからは、
拍手や指笛、『蛍の光』の合唱が流れてきますよ。
「みんなァ、へいわにィ!」
「ぐるるがるる!」(←訳:みんな健康で!)
音楽の余韻にひたり、
新しい年が運んできてくれる希望を想いながら、
クマたちは唱和します。
どうか、よい一年になりますように!
~ おしまい ~