
編集スタジオに詰めていたら、
遠くから「Dスケ!」と呼ばれた。
ビックリして落としたパンを拾って顔を上げると、
笑顔が近づいてきた。
自転車ふたり旅でお世話になったYさんだ。
当時、若気の至りで、この雲の上ぐらい偉い人に
だいぶ歯向かったのだけれど、
それ以来ずっと気にかけてくれて、
「また一緒に何かやろうな!」と声をかけてくれる。
「おい、いつ企画持って来るんだ。ったく、全然持ってこないんだから。
募集期間中だっての知ってるよな?
よし、待ってるぞ。
あと今さ、Sと仕事してるんだよ。新番組で。
知ってるだろ?
君のことが大好きだって言ってたよ。
(注:S氏はこの人と同じくらい偉いオジサン)
すごい褒めてたよ、Dスケのこと。
人気者だな。
それじゃあな。企画待ってるぞ」
嵐のようにしゃべり倒し、風のように行ってしまった。
しかし、この一瞬は私の脳に濃く焼きついた。
S氏というのは、長いこと番組を一緒にやらせてもらった人なのだが、
ついぞ一度も褒めてもらえなかった「思い出の人」だった。
どんなに全力投球をしてもダメだったので、
何度も自分の限界を感じた。
そしてS氏を心から喜ばせられずに離れてしまったことを悔やんでいた。
なんとそのS氏が、褒めていたという。
しかも大好きなのだという。
これはすごいことだ。
きっとこの言葉ひとつのおかげで、
これから1年ぐらいは全力疾走できるくらい、私は
エネルギーをもらった。
Yさんは演出家だから、
これは演出かもしれないし、何気なく伝えただけかもしれない。
しかし確かなのは、私が莫大な幸せとエネルギーをもらった
果報者であるということか……。