都市計画・設計の研究教育をしてきた立場から、新型コロナウィルスの感染に関して厚生労働省が公開しているデータを用いて考察してみた。というのも都市の分野では、都市の人間行動を集団として扱いデータ処理し構造化してゆく方法がある。新型コロナウィルス感染も都市や人間行動と密接に関わり、集団としての様相を呈している点で類似性が高いからだ。
新型コロナウィルス感染の緊急事態宣言4週間目にはいり、厚生労働省から、当初80%の人と人との接触をさける行動についての指針がだされ、これまでの第3回成果報告がなされた(注1)。第3回調査では4月12(日)-13日(月)で調査され、全国値50.88%、東京59.57%、大阪52.32%、最大値は東京、最小値は鳥取県の38.22%となっている。感染者数が多い都市ほど人と人との接触を避けようと行動していることはわかるが目標値の80%に遠く及ばない。
緊急事態宣言は5月6日迄であり、多くの店が6日以降の開店を予定している掲示を見かける。本当に6日に解除されるのだろうか。厚労省のデータを見る限りにおいては、今日時点で無理であるといわざるを得ないし、むしろ1ヶ月以上延長される可能性があることを示しているデータだ。
そこで、私なりに厚労省発表データを検討しながら、考察した。以下の1章では政令指定都市を抱える都道府県の感染者数累積値の推移、1日ごとの新規発生感染者数の推移を示した。2章では、過去に感染症蔓延の経験がある韓国と日本との比較をおこなった。3章では、何故感染が納まらないかについて考察した。
1.政令指定都市の時系列感染者数累計値の推移
表1に、緊急事態宣言開始時からの新規感染者数推移を、政令指定都市を有する都道府県ごとにまとめた。4月30日時点で3タイプに分けられる。タイプ1の二桁代は、北海道(38人)、埼玉(15人)、東京(47人)、神奈川(27人)、大阪(44人)、福岡(20人)である。タイプ2は、宣言の期間中高い値を示してきたのが低値に落ち着きつつあるタイプで、千葉、愛知、兵庫、である。タイプ3は、安定して低値で推移しているのが、宮城、新潟、静岡、京都、広島、岡山、熊本である。
以上のことから、タイプ1は宣言継続。タイプ2は期間短縮で宣言継続、タイプ3は宣言解除、と都道府県によって政策が異なる可能性があると考えた。他方で各都道府県が民間ホテルを借り上げているとする法的事情があれば、すべて宣言継続の可能性もある。そんな例は、例えば東京や沖縄等多数に及ぶ。
従って宣言が全国一律に延長される場合と、地域によって宣言継続の有無が別れる場合、さらには全国一律に宣言解除は、本日時点のデータや前述の報告を合わせて考察すると、今日時点で解除は考えられないと私は判断した。
図1で、そうした政令指定都市を抱える都道府県の感染者数推移を図化した。直近では比較的勾配が緩いところも目立つが、解除までゆくかどうかは、疑問を感じるというのが本日時点での判断だ。
追伸:政府は緊急事態宣言の1ヶ月延長を表明した。(5月1日)
表1. 1日あたりの新規感染者数推移(単位:人)
図1. 政令指定都市別新型コロナウイルス感染症の陽性患者数累計の推移(単位:人)
2.日本と韓国の感染者数の推移について
G7各国と中国の感染者数の国際比較は、推移の線形が前回のブログでアップしたものと変わらないので割愛する。そのかわりに、過去に大規模感染を経験した韓国、そして日本との、今回の感染者数累計値の推移比較をしたのが表1である。
表1では、1月下旬の感染者数累計値は、日本が1月24日以降、1人,4人,4人,7人,9人,12人・・・と続き、韓国は、2人,4人,4人,4人,7人・・・と続き、感染初期は日本と同様の推移をしてきた。それが顕著に変わるのは、2月21日104人、25日1,146人と急激に増大している(22-24日は厚労省のデータ不在)。感染者がいきなり増大していることは、その倍以上の検査ができる体制があったわけであり、次々と感染者やそのルートを発見していったものとみられる。
その結果直近の値(4月29日)でみると、日本236人増、韓国4人増と歴然とした差がでてきた。日本は69ヶ月経過してもまだ終息していないが、韓国は69ヶ月で終息している。しかも緊急事態宣言といった都市や人間との行動を抑制せずに社会的影響を最小限に留めて成し遂げているところは、私達に知見を提供している。
図2では、韓国は感染初期に大規模な検査態勢を設け1日当たりの新規患者数は急増したが、以後大きく低減し終息に向かってる。これに対して対照的なのが日本であり、欧米諸国同様に都市の活動を抑制しつつ対応してきたが、新規患者の増大、ピーク、低減という複数の山が、連続しつつ、次第に低減して終息を目指そうとはしている。韓国と日本のデータは実に対照的な推移の様相を示している。韓国と日本の感染者推移には、こうした顕著な推移の違いが見られる。こうした推移を概念的に示したのが図3である。
そうした韓国のコロナウィルスへの対応方法をWEBの記述(注2)から以下に引用しておく。
「■韓国は新型コロナの大流行にどう対応してきたのか
韓国では、感染が拡大した都市を封鎖する中国の方式を採用せず、情報の開示、国民の参加、検査の拡大という形で取り組んできた。ウイルス感染が確認された各患者の接触相手を調べ、その関係者に検査の機会を提供したのだ。政府当局は、感染者の過去14日間の動きを、クレジットカードの利用履歴や監視カメラの映像、携帯電話のデータなどから割り出し、それを政府の公式ウェブサイトに掲載している。また、新たな感染者の出現時には、その地域に居住あるいは働いている人々に警告メッセージを送付する。こうしたやり方をめぐってはプライバシーの問題が指摘されているが、それでも希望する個人に検査へのアクセスを提供することを可能にしている。検査費用は約16万ウォン(約1万4000円)。ただ、感染の疑いのある個人(感染が確認された患者との接触がある人)は無料で受けられる。
さらに図2は、韓国と日本の1日あたりの新規感染者数推移である。オレンジが韓国、青が日本のヒストグラムである。日本と韓国とで差異があることがわかるだろう。最初に数多くの検査を実施し感染者を数多く発掘してきたので患者数は急増してきた。その後患者数は日毎に低減し、現在では日常の生活に戻っている。そうした状況をこのヒストグラムがよく示している。それによって医療負担が過度になることなく時間の経過ともに終息への過程につながってきた。それは日本とは真逆の推移傾向である。
■どうやって大人数を検査したのか
韓国では1日に1万5000件以上の検査が可能となっており、11日時点での実施件数は22万件に上る。指定のクリニックは500か所を超え、それには患者と医療従事者との接触を最小限に抑えるドライブスルーの施設40か所も含まれる。」
韓国は、積極的にPCR検査をおこない、感染者を発掘してゆき、そうした情報を積極的にWEBサイトで公開してきたのである。そして囲い込みと同時に感染に懸念がある人達のPCR検査を積極的におこなってきた。」
表2. 日韓の感染者数累積値の比較(単位:人)
図2.日本と韓国の1日当たりの新規患者数の推移(単位:人)
図3.日本と韓国の感染者数推移の概念
3.新型コロナウイルスの感染構造について
韓国が何故感染の終息ができたかということは、新型ウィルスのとらえ方、検査・隔離時期などが、日本とは異なっていたからだと推測する。図4は、そうした構造の違いを仮説モデルとして示した。感染量とは、人間の体内に蓄積されたウィルス量の概念である。
有症潜伏期重複型は、最初の患者の有症状態と第2の感染者の潜伏期とが重なる構造となり、有症状態の感染者を次々と隔離してゆけばよい。現在の日本の感染者発掘・隔離の体制もこれに従っている。だがこれは過去の伝染病の対応方法を敷衍しているだけだろう。
これに対して有症潜伏期乖離型は、最初の患者の有症期と第2の患者の潜伏期とがズレていると仮定すれば、その背後には患者の感染量の時期が左側にずれており、潜伏期から感染を開始していることになる。空港での防疫で無症状感染者を発見しているというのは、こうした構造が考えられるからだ。図でAと示した範囲の感染は、感染量が潜伏期にかかっているのだから、検査・隔離はしておらず、実はこのAのところから感染者が漏れ出し拡大していったとする構造である。
そうであれば、韓国がその流れ出した部分を、多大な検査量、インターネット活用による情報公開といった方法で、感染者の疑いがある人間達の発掘をしていったのではないかと考えられる。つまり未検査未隔離の隙間の期間を埋めていった可能性が考えられる。こうした漏れたAの部分を埋めなければ感染はいつまで経っても納まらないことになる。従って韓国の新型コロナウィルスの感染対策が効果をあげた背景には、ウィルス自体が潜伏期からの感染可能性を持ち、そのため近所の診療所で検査が受けられるといったシステムなどによって感染リスクを低減し、インターネットで情報の受発信(注5)、といった幾つかの方法がAの部分を埋めていったと考えられる。そうであれば韓国の対応から、学ぶべき知見は多そうだ。
図4.感染構造の仮説モデル
(4月30日記)
注
注1)「第4回「新型コロナ対策のための全国調査」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11109.html
注2)AFP BB news
https://www.afpbb.com/articles/-/3273107
注3)日本ではプライバシーに触れるという理由から、どこで感染したかとする情報を市名以外は公開しない。私達国民が知りたいのは、誰がではなく、どこで(例えば具体的な店名、感染者がいた日時)感染者が発生したかという情報だけで十分である。それによって感染者と同時刻に同場所にいた可能性があるとする申し出は多々あった。いみじくも日本の首相の詭弁(注4)に代表されるように、保健所に相談したが濃厚接触者ではないので検査を断られたという。国民が知りたかったのは、そうした情報であり、国民の懸念を拾い上げる事は、新たな感染ルートの発掘につながる可能性もあったと考えられるが、政府・保健所はそうした好機を逸した。
注4)4月下旬のNHKニュースによれば、「PCR検査を陰性承認の書類として使って欲しくないですね」と首相は発言した。しかしそれは、政府が情報発信をしないので町から得た情報をもとに、感染者と同時刻、同場所にいたとする懸念材料があるから検査を希望したというのが国民の真意であって、感染リスクの高い保健所にわざわざでかけるほど無知な国民はいないと思いますが・・・。こうした政府・自治体の不適切な対応で逃した感染者も存在すると考えている。韓国では非濃厚接触者は有料で、全国500カ所の診療所で検査できた。
注5)かねてより日本政府の情報受発信は下手くそである。そればかりか民間企業に委託して公に個人が特定できなければよしとして位置情報を多活用している。しかしそれは、知ろうと思えば個人を特定できる情報であり、こちらは戦前の特攻警察のような管理をされているイメージもある。そうした管理情報の受信はするが、国民の些細な懸念材料には関心がないようだ。自治体の相談係は、助言はするが国民の懸念材料をすいあげ情報化しているのだろうか。やはり政府や自治体がインターネット・サイトを設け国民参加のフェーズがあるべきだろう。政府が国民の情報受信といえばFBやツイッターからというのでは、お寒い限りだ。
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