Creator's Blog,record of the Designer's thinking

フィールドワークの映像、ドローイングとマーケティング手法を用いた小説、エッセイで、撮り、描き、書いてます。

番外編434. 新型コロナウィルス9.補遺 データサイエンスの視点

2020年05月14日 | analysis

 

 新型コロナウィルスについて書くべき新たな知見はないが、新型コロナウィルスのファースト・アタックは、終わりかけの兆しがみえてきそうだ。少し書き忘れた事などを私なりに加筆しておこう。

 

1.感染症疫学の基礎知識について

 感染症疫学(注1)が教えるところの1つに基本再生産数がある。一人の人間が何人の人間に感染させるかとするもので以下の数式によって算出できる。

 基本再生産数(R0)

β:1回の接触あたりの感染確率、発症率

k:ある時間あたり1人の人間が集団内で平均何回の接触をするか

D:感染症毎に決まっている感染期間

R0=β×k×D

これによって基本再生産数(R0)が1以下ならば感染は終息させる方向にあり、1を越えれば感染拡大となる。感染症の伝統的な数式である。

 現在は、実効再生産数を算出するので、これは確率微分方程式(注2)によって導き出されている。従って各都道府県の感染状況から今後どうすればよいかは、既に試算されているし行政の対応にも反映されている。

 

2.データサイエンスの目線

 既に数理モデルを扱う研究者提言のなかで、感染を停止させるタイムリミットが3月26日頃としていたことである。それは人間が制御できるタイムリミット。そして4月9日頃から極めて厳しい都市封鎖と移動制限以外に終息方法がないタイムリミットだった。日本は4月7日に緊急事態宣言を発したので、タイムリミット2日前だからセーフだというのは文科系政治家の考え方であり、数値にはアローアンスがあるから厳しい都市封鎖や移動制限をしてもよい時期だった。宣言が遅かったとすることは私の過去ログでも書いた。今、その遅さが医療崩壊を一部で起こし始め感染を長引かせている。日本政府の決断が2週間遅すぎたのである。

 感染は、今どこから日本にやってきたか。当初武漢発だった感染も今は、250万人と推定されるヨーロッパなどからの帰国者が第1の候補にあげられる。これによって感染力が強いヨーロッパ型のCOVID-19が日本に持ち込まれた可能性がある(注3)。当初帰国者は2週間空港近くのホテルで待機、ただし滞在費用は全て自己負担とする無責任政策のおかげで、感染は日本国内に容易に入ってきた。既に横浜港クルーズ船下船後の2週間待機をしなかったとする苦い経験を、ここで活かすことができなかった。これは失策といってよい。むしろ政府としては滞在国に留まれと指示し、金銭支援を日本政府が速効で行う方法があったと思うが、出国でクレジットカード会社名を記載していないから、これは今後の課題か。

 幸いだったのは、電気、ガス、水道の基本インフラのセクターから感染者クラスターが発生しなかったことである。特に水道がとめられたら我々はペットボトルに頼らざるを得ないし、そんなのは1日で店頭から姿を消すだろう。電力で感染者クラスターが発生すれば運転不能に陥り全産業が停止する。産業活動が停止するということは再起不能を意味する。

 さらに高齢者が多い農業関係者への感染拡大がなかった。感染していれば農産物の供給不足を招く場合もあったし、物流関係者でさえも感染の可能性はあった。現時点では、そこまで感染拡大がされていないのは、少し安堵した次第である。実は、こうした感染者数拡大や他の産業セクターへの影響力は、既に数理モデルで予測されていたのである。

 私は新型コロナウィルスとの関わりが「長期戦だからウィルスと共存できる新しいライフスタイルを」という政府の考え方には少し甘さを感じている。というのも私はウィルスとの共存などあり得ないとする認識だ。たった2週間でよいから全ての日本の活動・移動を止め都市封鎖を行い自宅待機に徹した方が終息は早く確実だったのではないかと考えている。それは2週間であれば十分可能実行でき経済への影響も最小限だったはずだが、ゆるい宣言で2ヶ月という長い時間は、社会的影響の大きい政策でお茶を濁したわけだから、今後もウィルスは随時拡大する可能性を持っている。そのときは、再度警戒宣言が出されるであろう。これで終わりではないのである。

 ウィルスを消滅させるか、私達がウィルスに消滅させられるか、この二者択一とする説(注4)を私は支持しますね。感染症拡大防止モデルの数式の一例を図1に引用しておく。いまはこうしたシミュレーション・モデルで近未来を予測してゆく

表1.感染拡大防止モデルの数値シミュレーション(注5)

 

 

3.政令指定都市を有する県別感染者数累積値の推移

 今の私の理解ではあまり役立つ図ではないが、ブログで毎回アップさせているので政令指定都市を有する16都道府県の感染者数累計値の推移を図1でみてみる。

 ようやく東京の上昇が緩やかになり少し改善傾向、大阪、兵庫、千葉、埼玉、神奈川、愛知、福岡も水平の線形に近く改善傾向がみられる。東京も含め各都道府県全体にわたり改善傾向がみられるというのは初めての出現だ。だがまだ終息が見えているわけではないので、現在の特別警戒宣言自治体は5月31日まで解除されない可能性が高い。それ以外の自治体、図でいえば宮城、新潟、静岡、岡山、熊本は、5月半ばから宣言解除可能だということが図からわかる。

 日本の感染者数が他国と比較して桁違いにすくないとする指摘は、国会で野党から質疑されていた。それはもちろん検査数が少ないからだとする事なのだが、日本の人口(1.2億)1.5万人の感染者に対して、イタリア(人口6,000万人)で22万人の感染者を発生させているから確かにバラツキが大きく、その国会質問には一理ある。仮に検査から漏れていて2週間以内に発症すれば、それは感染者累計値に反映されるから、2週間経過して感染者数に低減が見られなければ漏れているとみてよいが、現在は低減傾向にある。従って日本の感染者数は、実数値に近いと判断している。おそらく島国とする立地が幸いしたと今日時点では判断しておく。

 振り返ると3月24日以降から、各都道府県とも感染者が一気に増加幅が大きくなっている。この要因は前述したように、3月14日にスペインが都市封鎖したのをはじめ、以後フランス、ドイツ、米国、英国と続いた時期である。数理モデルでは3月15日頃ヨーロッパに滞在し感染性の強いヨーロッパ系ウィルスに感染した日本への帰国者が、感染ルートとなっていることをつきとめている。従って潜伏期間をすぎる3月24日以降、日本全国に感染が拡大していったわけである。その頃の図の線形の急上昇は、そうした傾向をよく表している。当初私費で近隣ホテルでの2週間隔離をおこない、以後国は強制隔離に切り替えたが既に対応は遅かった。クルーズ船といいヨーロッパからの帰国者といい、検疫の対応が極めて遅すぎたのである。その結果日本国内に感染が広がってしまった。そこには前例のない事態に遭遇し、突然頭を切り換える能力が必要だが、役人には無理な能力なのだろう。

図1.政令指定都市を有する県別感染者数累計値の推移

 

4.政令指定都市を有する都道府県別1日あたりの退院数/入院数の現状について

 政令指定都市を有する都道府県別現在の1日あたりの退院数/入院数について、過去2週間の推移をみたのが表2である。緑字は値が1以上は、発生数より退院数が大きい。また青字の#DIV/0!はExcel固有の表記で、分母の入院患者発生数が0値であり退院数が大きいことを示している。赤字は欠損値なので無視。以上の集計を右欄に示し、これらの合計値を記入したのが安全日日数である。1週間前の値(5月7日ブログ)と比較すると安全日が増大し、感染拡大は改善されている。特に値の大きい宮城、新潟、静岡、岡山、熊本は、5月半ばで宣言解除とする傾向が読み取れる。また政令指定都市を要する都道府県以外では、茨城県を除けば、すべてが解除の方向に向かうと予測できる。特別警戒宣言都道府県では、京都は退院数8日と最多で発生数0値が登場してきたので、同様に5月半ばで宣言解除をされてもよい状態だが判断は国や自治体がするだろう。その他は5月末まで解除が続くということが、この表から読み取れる。

表2. 1日毎の退院数/発生者数(4月29日-5月11日)

 

5.その他

 12月から中国が感染発症以降、厚生労働省発表データを毎日Excelに取り込んでいた。もちろん単純集計や数理モデル、あるいは気候や湿度などの環境や都市のアイテムが異なる複数データ並べて多変量解析をおこない、環境側の感染発生要因をさぐろうと考えていたからだ。しかしこれは、後日でもできるだろうと考えている。それよりも、マスメディアのよくわからない情報に一喜一憂するぐらいなら、自分で情報を整理した方が理解しやすいからだ。

 それにデータサイエンスの力量を思い知らされた。今は精度がよくなり、論理設定が適切であれば、かなりの精度で予測できるようになってきた。まさにデータサイエンスで救われた思いがする。

 一般にウィルスは気温28°を越えると活動が不活発になってくる。このあたりの相関関係はあるだろうと思っている。ではなぜインドやアジア地域で発生するか。それは暑さ以上に三密空間だからだろう。であれば日本では、いまの3密回避の対策を続ける限り、すぐに第2波がやってくる可能性は少ない。もし第2波があるとすれば気温が下がる秋以降だろう。そのころまだワクチンがどの程度出回っているだろうか。

 

データ依拠:厚生労働省WEBサイト、新型コロナウィルス感染症の状況と厚生労働省の対応について

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00086.html

 

注1)ヨハン・キゼック著、山本太郎・門司和彦訳:感染症疫学、昭和堂、2017。ハーバード大学教養課程クラスの教科書であり、感染症の基本的事項について概説している入門書。

注2)横浜市立大学教授大学院データサイエンス科教授:佐藤彰洋、COVID-19情報共有 https://www.fttsus.jp/covinfo/research/

注3)COVID-19情報共有 https://www.fttsus.jp/covinfo/timeseries-discussion/

注4)COVID-19情報共有  https://www.fttsus.jp/covinfo/remarkable-comments/

注5)COVID-19情報共有 https://www.fttsus.jp/covinfo/numerical-simulation/

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする