A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

ロックの本質ここにあり~不失者「光となづけよう」

2012年05月06日 02時11分02秒 | 灰野敬二さんのこと


不失者としての直近のアルバムが2001年の「Origin's Hesitation」だから11年ぶりの新作の登場である。「Origin's Hesitation」は灰野さんがヴォーカルとドラムス、小沢靖さんがベースというギターレスのデュオによる変則的なアルバムだったから、ギター、ベース、ドラムのトリオによる作品は2000年フランスのParatactile labelからの2枚組「I saw it! That which before I could only sense... 」以来である。小沢さんとのデュオでの不失者は2005年まで活動。2007年のバースデイ・ライヴと年末オールナイト・ライヴ(どちらもソロ公演)は「不失者」名義で行った。2008年2月には小沢さんが肺がんのため還らぬ人となる。その後2008年11月に新宿JAMで高橋幾郎氏とデュオをした際「今後はこのデュオで不失者として活動していく」と述べたこともあった。2010年9月の新宿JAMでの工藤冬里さん(b)、高橋幾郎氏(ds)とのトリオが直前に「不失者」名義のライヴとなり、翌年1月には同じトリオで大阪クラブクアトロ公演を行い、不失者復活の兆しが現実の物となった。

様々なバンド/ユニットを組んできた灰野さんにとって1979年に結成した不失者は特別な意味を持ったバンドであり、ソロ活動と並ぶ2本柱であることはこれまでインタビューでも表明してきたし、ライヴ後の楽屋話でも語っていた。ライヴ前にお香を炊いてヴァイオリンのSEを流し独特の空間を演出するのはソロと不失者のワンマン公演の時だけである。

2011年7月アメリカのAKRON/FAMILYというバンドのサポートでナスノミツル氏(b)、高橋幾郎氏(ds)とのトリオの不失者で出演、今年1月にはUFO CLUBでワンマン公演、3時間の濃厚な演奏を繰り広げた。

レコーディングの話は実は2011年7月にBo Ningenの東京公演に出演した時、楽屋で灰野さんから聞かされていた。まだ発売元は決まっていないが近々スタジオ入りするとのこと。同じイベントにLSD Marchで出演していた高橋幾郎氏と日程の確認をしている現場も目撃した。その後のライヴの際デザイナーの北村卓也氏と度々ジャケットの打ち合わせをしており、さてレーベルは何処だろう、と思っていた矢先に4月27日に新作「光となづけよう」の発売が公表された。レーベルはiLL、フルカワミキ、宇川直弘氏のUKAWANIMATIONなどが所属するHEARTFAST

全7曲入35分。長尺の曲の多かった不失者としては異例のコンパクトな作品である。確かに2010年以降の不失者のライヴはかつてのように延々とインプロヴィゼーションを展開するのではなく、灰野さんのヴォーカルを中心とした楽曲がひとつひとつまとまり、ギターがここぞという時に効果的に鳴り響くというストイックな緊張感を持った演奏になっている。収録楽曲は長くて7分、3分台の曲もあり、全曲「ロック」ナンバーとしてとても単純明快なサウンドである。その中に灰野さんならではの象徴主義的な情念の歌がたっぷり籠められていて35分が数時間にも聴こえる内容の濃い作品。とても聴きやすく単純にロックとしてカッコいいアルバムなので、灰野敬二入門編としてもおススメである。無駄を削ぎ落として研磨を重ねてきた末に辿り着いたロックの本質を明らかにする孤高の境地。驚異的なのはこのサウンドが完成型では決してなく、灰野さんと不失者はまだまだ進化(深化)していく余地が充分残っているということだ。今後の不失者の動きには最大の注目が必要である。



「光となづけよう」不失者(灰野敬二、ナスノミツル、高橋幾郎)
HEARTFAST HFCD-013
曲目:
1. まだ光となづけられない者
2. 俺の分け前
3. 「知れる」ということ
4. あれだけは
5. 中心の決意I
6. とどめ やり方
7. 中心の決意II

ロックから
失われることの
ない者たち

アメリカのSPIN誌が発表したSPIN's 100 Greatest Guitarists of All Timeに灰野さんが唯一の日本人として選出された。
コメント (13)
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