A Challenge To Fate

私の好きな一風変わった音楽を中心に徒然に綴ったページです。地下文化好きな方は見てやって下さいm(_ _)m  

灰野敬二/鳥を見た/川口雅巳ニューロックンジケイト@高円寺 Club Mission's 2012.5.24 (thu)

2012年05月26日 01時44分06秒 | 素晴らしき変態音楽


最近の記事に対して「長過ぎて読む気がしない」「論理的破綻」「痴呆症の初期症状」「ドグラマグラ」「なめるな」などのご意見を頂き嬉しい限りだが、さすがにEP-4の記事を書くのに5時間パソコンの前に座っていたという事実には中原昌也氏の気持ちに近い矛盾と絶望観を感じるので、初心に還ってなるべく感傷に浸ることを押さえたいと思う。

高円寺Club Mission'sが開店5周年を迎え「高円寺Missions 5th Anniversary」と題し14日間通し券2000円という出血大サービス中である。ラインナップにはThe STRUMMERS、ニューロティカ、THE STAR CLUBという80'sパンクの伝説的バンドから、灰野敬二、どらビデオ、鳥を見た、川口雅巳といった当ブログでお馴染みのアーティスト、未知の活きのいい若手バンドまで合計70以上のアーティストが出演する"毎日がサマソニ状態"。店長の辰野氏の大英断には心から敬意を表する。しかし私が行けたのはこの1日だけ。残念なことをしたと後悔しきりであるが、5年後の10th Anniversaryに期待することにしよう。

この日は灰野敬二/キャスバリズム/鳥を見た/川口雅巳ニューロックシンジケイト/ビューティフルニー/山岡ジャギー義晃/CHARTREUSEの7組が出演。これまた残念ながら仕事が抜けられれず、Mission'sに着いた時には既に4組が終わっていた。通し券で観に来た観客もいて平日にしてはまあまあの動員だった。

川口雅巳氏は5/17~20長谷川陽平氏と共に4か所の韓国ツアーを敢行したばかり。韓国で活躍する日本人アーティスト佐藤行衛氏や地元のバンドと共演した。私が韓国を訪れたのは15年前で若者向けの音楽はへヴィメタルとフォークしかなかったが、川口氏の話では現在の韓国ロック・シーンはとても活性化していて小さいながらもライヴハウスやギャラリーが何か所もあり、地元のオルタナティヴな若手アーティストが数多く活動しているとのこと。15年前には現地で探しても誰も知らなかった60年代GS、70年代サイケや前衛ジャズ/ロック等の発掘CD化がどんどん進み、知られざる韓国アンダーグラウンド音楽シーンの全貌が明らかにされてきた。ただし現地では旧譜CDが約600円で手に入るのに日本では2500円で売られているという現状を川口氏は嘆いていた。

川口氏のプロジェクトはいくつかあるが、その中核をなすといっていい川口雅巳ニューロックシンジケイトの演奏は観る度に強烈なサイケデリック・ギターとグルーヴするビートに心奪われる。先日書いたようにマイ・ブラッディ・ヴァレンタインのリマスターCDリリースと来日決定でシューゲイザー・シーンが盛り上がっているが、川口氏のギター・プレイは俯くことは無いが、一連のシューゲ系ギターの何倍もノイジーでヘヴンリーでドラッギーなものである。独特の滑るようなヴォーカルにも痺れる。もっと高く評価されるべき凄腕アーティストである。ライヴ活動を精力的に行っているので一度観ていただきたい。



鳥を見たを観るのは毎回Mission'sで灰野さんの対バンとしてである。なかおちさと氏の文学フォーク風の歌詞と日本情緒溢れるメロディーとそれを破壊するようなバリトン・サックスの咆哮と地響きを上げるヘヴィなベースとドラム。のっけから怒濤のフリーク演奏が爆発するが、2曲目でふっと静かになり情感を籠めた歌心を聴かせ徐々に渦巻くハレーションへ突き進む展開はまさに破滅の美学である。なかお氏のブログには自作の詩が掲載されており三島由紀夫を思わせる美意識に彼の才能と志向が垣間見られるのでご一読をお勧めする。



トリは勿論灰野敬二さん。セッティング中から出演者も含め観客の多数がステージ前に詰めかけスクリーンの裏から聴こえるサウンドチェックの音に聴き耳を立てている。登場前に会場の雰囲気をガラッと変えてしまうのは灰野さんのオーラ故であろう。初めて灰野さんを体験する観客も多かっただろうが、噂に聴く"魂の司祭"がどんなパフォーマンスを繰り広げるのかは始まるまで誰にも予測できない。100回以上ライヴに通っている私でも始まるまでこれから展開される謎に満ちた演奏への期待感に心のときめきを覚える。その時が最も楽しいのかもしれない。始まってしまえば容赦ない音の渦に意識が翻弄され思考回路が遮断されてしまうから。Mission'sでのソロは殆どが轟音ギターの弾き語り/絶唱である。今回もSG一本での演奏だった。最初は椅子に座ってのプレイ。いきなり耳を圧する轟音がシャワーのように降り掛かる。キラキラした音の粒子が3台のアンプからもの凄いスピードで飛び出して来るのが目に見えるような感覚。10分程で立上がり激しいアクション。いつものように最小限に絞られた照明の中に川の流れのように揺れる銀髪が映像を見ているように美しい。以前詩人の吉増剛造さんと共演した時、吉増さんが「灰野さんは茶色」と呟きながら彫金を掘っていたことを思い出すが、私には灰野さんの音はカラフルな虹色に感じられる。闇の中目に見えない無数の色の音の放射に身体を晒し、頭蓋の真ん中に灰野さんの歌が突き刺さる。Mission'sのPAは実に上手く灰野さんの意図する通りのサウンドを再生する。40分の演奏が数秒にも何時間にも感じられる時間軸を歪めるステージだった。



終演後楽屋へ挨拶に行くと鳥を見たのベースの山崎怠雅氏と談笑していた。確か前回の対バンのときも山崎氏にバンドの心得を説いていた覚えがある。山崎氏は1990年代半ばに哀秘謡のライヴに通い詰めていたとのことで灰野さんと気が合うようだ。楽屋話なので詳述は避けるが「バンドは"せーの"でやるものだ」という持論から若い頃リアルタイムで買ったブルー・チアーの日本盤の音が酷かったことや最近の楽器事情まで話は尽きることがない。灰野さんは勉強熱心な若手ミュージシャンと話す時が一番楽しそうだ。

5周年
素敵な音楽
これからも

6/16(土)高円寺HIGHで開催される「ドキュメント灰野敬二」前夜祭のフライヤー。ゲストもユニークな面子なので普通のライヴ/イベントと違った雰囲気が味わえると思う。チケットは高円寺HIGH、新宿裏窓店頭にて発売中。

コメント (2)
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